第8話
俺達は再び才賀を先頭に、慎重に森の中を進む。
普段であれば、周りの物凄い景色に興味津々なところなのだろうが・・・渇きと焦りで段々それどころではなくなってきた。
五感を最大限に研ぎ澄ませて水の気配を探る・・・のだが、俺の視力は左右共に1.2であり、嗅覚も聴覚も常人の域から1ミリも出ていない。こうやって窮地に立たされると嫌でも自覚させられる。所詮は俺も、日本という安全な国の中流家庭という温室の中で育ったボンボンであるということを。情けないが、俺自身の能力は全く頼りにならない。その点、先頭の才賀は能力的には頼りにはなるのだが、俺の親友のあの野生児と比較すると、このような場面ではどうしても見劣りしてしまう。
ああ、いかんいかん。他力本願な事ばかり考えていては。自分の食い扶持くらい自分で手に入れないでどうする。渇きで思考が少々鈍くなっているのかもしれない。
俺たちはベースの入り口から(たぶん)真っ直ぐ2kmほど進んできた。ベースの入り口を背にすると、太陽が丁度左側から登っていたので地球の感覚だと今は南へ進んでいることになる。まあ実際はこの惑星の自転と太陽の公転との関係性や地軸の傾きなど何も分からないので、適当に地球の感覚に当てはめただけである。
それに方位磁石が無いから正確な方向も分からない。まあたとえ磁石があったとしても、そもそもこの惑星に地磁気が存在するかも不明だ。深く考えないことにしよう。
あまりベースから離れると危険だとは思うが、正直あまり時間の猶予はない。水の確保は一刻を争う。今日は行けるところまで探索すべきだ。
俺は班のリーダーである才賀にそう提案すると、才賀は暫くの間思案した後頷いた。山下や新垣姉妹も賛成した。正直意外。そろそろ疲れたから帰ろうよ~とか駄々を捏ね始める頃合いかと思ってたのに。こいつらなりにいよいよ自分等のケツに火が付いてることを自覚し始めたのだろうか。その後はそこそこのペースで歩いてるにも拘らず、誰も弱音一つ吐かなくなった。
他のグループもそれぞれの方向を探索しているはずだ。これで何も見つからなかったらいよいよ腹を括るしかないだろう。
再び探索を続けようとした矢先である。
新垣(姉)が足を挫いてしまった。幸い軽傷であったが、リーダーの才賀は探索中止の判断を下した。
「気にしなくていいよ。事故なんだから仕方ない。俺が背負っていくから、さあ乗って。」
消え入りそうな声でゴメンと謝る新垣に対して、才賀ががニッコリと涼やかな表情のまま腰を下ろして自らの背を差し出した。
そんなイケメンに対して俺はイラついていた。周りから見たらさぞかし不機嫌そうな貌をしているだろう。
彼女の怪我が故意じゃないのは分かってる。事故だ。新垣は何も悪くない。むしろ悪いのは体力の無さそうな彼女らを探索に同行させた先生だろう。だが、しかし・・。この先数日以内に飲料水を確保できなければ、文字通り俺たちはあの世行きなのだ。頭では分かっていても感情はなかなか制御できない。俺は自分の小心と狭量さにうんざりしてしまった。
「才賀 疲れたら言ってくれ。俺が替わる。」
俺は感情を抑制できない荒んだ心で、そう提案するのが精一杯であった。
暫く歩いてベースに戻ると、報告を才賀に任せた俺は膝を抱えて蹲ってしまった。渇きはまだどうにか耐えられる。だが情けないことに、物事がちょっとばかり思い通りに運ばないだけで詰まらない癇癪を起してしまった。我ながら何という小物なのか。そりゃ女子にもモテねえわ。
自己嫌悪に陥った俺は、そのまま他のグループが戻ってくるのを待つことにした。
そしてその後。俺にとって重大な転機となる事件が起こる。
森の探索に出た5人グループの内、1つが夕暮れになってもベースに戻ってこなかったのだ。
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