フーリガンズ

new丼

第1話 フーリガンとはなんぞや

フーリガン。それは暴徒化したサッカーファンのことを指す。

しかし、フーリガンというものを定義した人物は誰なのか、どういった流れで出来上がった言葉なのかを知る者はいない。


私はフーリガンについてのあらゆる記事や文献を読み漁ったが、何も手掛かりを掴むことはできなかった。やはりこういった場合は現地調査を行うのみである。私は友人とサッカースタジアムへ向かった。

「おい、お前なんで急にまたサッカー観戦なんかに俺を誘ったんだ?」

「お前、サッカーなんて観るタチじゃねえよな?オールドアディダスなんて着ちゃってさ」

「俺はどうしてもサッカースタジアムに行きたいんだよ」

「だから理由を教えてくれって」

「なんでもいいだろ」

「ま、ビール売りの姉ちゃん見れるならなんでもいいからそれ以上は聞かないけどよ」


私は言葉の意味や語源を知らないでいられない性分であり、あらゆる種類の辞書を所有している。俗語が羅列されているものも買った。昨今はネットから頻繁に新語が生まれるので、非常に苦労している。そんな私を悩ませる言葉が、フーリガンだ。


スタジアムに着き、チケットを買って席の前に来た。

見知らぬ男が私と友人の席を含む3席を占領して寝ている。

顔を殴っても起きないので、床に転がしておいた。


試合が始まった。特にどちらのチームのファンでもなかったが、とりあえず場の空気に乗って青いユニフォームのアウェーサイドのチームを応援してみた、がこれがサッカー観戦というのはとても面白く、いつの間にか白熱してしまっていた。さっきの寝ていた男が起き、ホームサイドのチームを応援していたので、また殴って寝かせた。


隣の女に話しかけた。

「君、フーリガンの語源知ってる?」

「知らないわよそんなの、馬鹿にしてるの?」

「馬鹿になんてしてないさ、ただ聞いただけ」

「あらそう、ところであなた、さっきから【青チームの名称】を応援してるみたいだけど、ファン歴はどれくらいなの?」

「ざっと6年くらいかな。高校のころにハマったのさ」嘘をついた。

「結構長いのね、むかつくわ」

次の瞬間、彼女はビール瓶を取り出し、私の頭部を殴った。


そこから少し記憶は飛ぶ。


目覚めるとそこは治療室のような場所で、歓声が聞こえるのでおそらくスタジアム併設のものだろう。頭には包帯がぐるぐる巻きにされていて、ミイラのようで非常に不快だった。医者のような男が大きい音を立てて部屋に入ってきた。

「君、頭をひどく打たれたようだね、ガラス片も刺さっていたし、瓶で殴られたんだろ?」

「そうです、くそアマに殴られたんだ」

「そうか、サッカーファンはおかしいのばかりだね本当に」

「サッカーの試合をタダで観られるからという理由でここに配属されたのが間違いだったよ本当に」

「ところであんた、フーリガンの語源知ってるか?」

「知らないよ」

お医者様でも知らないのか、こりゃ困ったな。

「とにかくまだ君は丈夫じゃないんだからそこで安静にしててくれよ、俺はもう行くから」

「これから延長戦のPKが始まるんだよ」

安静にしろ、と言ったあとにそれを告げるのは酷ではないか、と思った。

私は医者が去っていったあと、酷い頭痛にうなされながらも治療室を抜け出し、友人の席に戻ろうとしたが、誰か知らない女とハグしていた。通りで診察にも来なかったわけだ、と思ったが、そっとしておき、別の場所で観た。


PKが始まり、一発目のシュートを青チームのキャプテンが派手に外した。続く敵チームはあっさりとゴールを決めた、そのあっけなさにとても腹が立った。私は気づくと柵を越え、グラウンドへ飛び出し、キャプテンを殴っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フーリガンズ new丼 @newdom1992

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ