第57話 目には目を情報には情報を
「時間がない。冒険者に暴動を起こされればこの国は亡ぶだろう。神殿の力を弱くする為に取り入れたはずの冒険者協会は、独自のシステムにした為に神殿の手の内に収まってしまった」
「今回、神殿が動き出したのは、冒険者協会側が独自というよりは違う存在になっているようだと指摘してきた事が原因なのよ。それを利用し国のせいにして、冒険者協会が望むシステムにするもこの機に国を乗っ取ろうという魂胆よ」
リーダーに続き、ビィも説明をする。
「村人達も解放になるだろう。だがそれが良い結果になるとは限らない。神殿側は、冒険者協会が他国と同じになれば村も他国同様に戻さないと行けなくなると思っているだろうから討伐隊を組めなくなる」
「村人を解放してくれるの?」
シィの言葉にエストキラは驚く。
「君は、
「え……」
リーダーの言葉にさらに驚いた。
解放というのは、街の者達と同じ扱いになる事を示す。いきなりぽんとそんなシステムに置かれても生活できるわけがない。
結局、ほとんどの者が冒険者にならざる得なくなるだろう。
「国なら支援するだろうが、神殿はしないだろうな。彼らは、自分の都合の良い者しか手を差し伸べない集団だ。もし冒険者協会が通常のシステムになったとしても、冒険者自体を手の内に取り込んでいれば、何も問題はないのだから」
エストキラは、混乱していた。
やっと冒険者にも慣れたというのに、次々と展開する事態についていけてないのだ。
『厄介な者達と知り合った者だな。キラは本当は運が悪いのではないか?』
”僕もそう思う。というより、僕に出来る事なんてなくない?”
「あなたにやってほしいのは、情報操作よ」
「情報操作?」
「そう。神殿がやっている事をあなたもするのよ」
「操作というよりは、本当の事を噂に流すって事だけど……本当に彼にできるのそれ?」
不安げにシィが言う。
”できるわけがなーい!”
と抗議したいエストキラだが、この作戦は今日決行される事になった。
◇
「あ、おかえり」
リナが、宿屋に戻って来たエストキラの姿を見てホッとする。
「うん。あ、あのね。凄い事聞いちゃった!」
『もっと大きな声の方がいいな』
”う。これでも大きな声で言ったのに”
エストキラがそう思うも、他の者は振り返りもしない。
「凄い事って?」
「ギルドの本部の人が来るんだって」
「……それのどこが凄いの?」
「え? あ、えーと、このギルドを改革するらしいよ。王様がお願いしたんだって」
「おい、あんた……」
リナに話していたが、部屋にいた冒険者の一人がエストキラに声を掛けてきた。
「それ、国王じゃなくて神殿だろう?」
「ううん。王様だよ。だって、実質このギルドを運営しているのって神殿なんだって」
「俺が聞いた話だと、逆だったぞ。神殿が他国に行った冒険者の話を聞いたって。この国とは大きく違っていたって話だ。本当かよって思っていたけど……」
他の冒険者も興味をそそられたようで、話に加わって来る。
「で、いつ来るの?」
「明日! しかも王都じゃなくて、この街になんだって」
「ふーん」
「ふーんって、リナ。もっとこうリアクションないの?」
”話を繋いでくれないと困るんだけど……”
「それ、本当の話かよ。神殿が冒険者に本当の事を言い出したから代理だと言って、冒険者ギルドではないものでも連れて来るんじゃないのか?」
リナではないが、他の冒険者がつなげてくれてた。エストキラは安堵し話を続ける。
「確かに神殿が言うように、他国の冒険者はこことは違うらしいよ。でも考えてみてよ。冒険者は収入源である税を払わないんだよ。メリットがないじゃないか」
「それは、神殿も同じだろう?」
「うん。でも、一般人に戻りたいなら戻した方がいいのに、それはダメって事になっているでしょう?」
「ダメじゃなくても戻れないって。払い終わったやつなんてそんなにいないんだぜ。討伐ド素人の集まりだ。最初は怪我ばかりで、さらに借金地獄」
エストキラは、神妙な顔つきでその言葉に頷いた。
怪我をすれば治療費がかかる。だがそれを買えない場合、冒険者ギルドが所持しているポーションを
「そう。まるで、借金がなくならないようにしているみたいだよね。それに、僕らが死んだらお金から物まで冒険者ギルドのモノになる。というか、僕らはそもそもお金なんてもらってないよね?」
エストキラの言葉に、冒険者達はうーんと考え込む。
「そうね。手持ちがないから結局どこにも行けないものね」
リナがそう言った。
エストキラはそれに頷く。
「討伐依頼は、国から出ているんだって。その金額は僕らが貰う5倍はギルドに支払っているらしいよ。手数料を差し引いたとしても僕らが手にする金額は少ないと思わない?」
エストキラの話にみな、驚いた顔をしていた。
リナもどや顔で話すエストキラを唖然として見るのだった。
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