第56話 権力関係
その昔、自然豊かなブライダーク王国に日照りが続き、干ばつが3年ほど続くという自然災害が起きた。その時はまだ、冒険者協会などなく国が集めた兵士でモンスターを倒していたが、食料もなくなり討伐にも支障がでていた。
そこにスキルを覚醒させる者が現れ、彼の力を借りモンスターを倒せるスキルを持つ討伐隊を編成できるようになる。
そして彼を崇める集団が出来たのが、神殿の由来だ。
ここから魔法陣や魔道具の製作が始まる。
だが、数年不作だった為、税金を取り立てるのもままならず、スキルを持つ者でも必ずしも討伐に協力的とは限らなかった。
そこで神殿側は、村人達の税の免除を提案。
農作物の収穫がままならず、彼らが一番被害があったからだ。討伐スキルを持つ者は討伐をその他の者は農業をする施策だ。
どちらにしても払えないのなら、恩をうるような形にすればいい。
神殿を村にも建て、彼らにもスキルを覚醒させた。
スキルの覚醒には、通常お金がかかったが無料の為、村人たちは喜んだ。討伐に行かなくてはいけなくなった村人は、神殿の者に諭され討伐へと向かう。
これが、村人と街との差別が始まった原因だった。
神殿は、魔法陣と魔道具普及の為と、他国へと布教を広めていった。そうする事で、神殿はめきめきと力をつけていき、ブライダーク王国では神殿の権力は国王と対等にまでになる。
その後、ギルドができスキルを使って事業をする様になり、経済が回るようになり豊かな国へと戻って行った。
月日が流れ、冒険者協会というモンスターを倒す職業が、神殿同様各国に広まっていくと、ブライダーク王国でも取り入れようとなる。
だが神殿が反対した。
今や、冒険者協会でスキルを覚醒できるようになっていたからだ。
ブライダーク王国でそれをやってしまうと、神殿の権力がなくなってしまう。
国王側も神殿の力をそぎたいと思っていた。
その後、冒険者協会と神殿の交渉の結果、ブライダーク王国でも冒険者協会を設立する事になるが、働き口がない者の受け皿としてという事になった。
実際、他国も一つの職業として成り立っていたので、独自のシステムだとしてもいいだろうとなったのだが、神殿の策略だったのだ。
運営は、冒険者協会だが実際は神殿と繋がっている組織になった。
気づけば、お金が払えない者達の逃げ場となる。
それが、前国王の代から始まった冒険者協会だった――。
「ざっと話したが、こういう権力図式になっている」
「………」
「でだ。その神殿が冒険者を使って反乱軍を結成させようとしている」
「え!?」
ぼーっと話を聞いていたエストキラだが、反乱軍という単語を聞いて驚く。
「ど、どういう事? っていうか、それをどうして僕に話すの?」
「もちろん、止めたいからだ」
「……いや、僕には無理」
「君自身に止めてもらおうとは思っていない。手助けをしてほしいだけだ」
「………」
”どうやって? だいたい神殿側だったんじゃないの?”
「我々は、それぞれの組織に侵入して情報を集めていた。ただ
「いないとは?」
「神殿、錬金術協会、冒険者協会に身を置いているが、冒険者の者がいないって事だ」
「……まさか、それで僕を冒険者にしたの!?」
「あぁ。うまくいったのは初めてだがな」
「えー!!」
村人が神殿入りしないスキルの場合、討伐にほぼ回されていた。エストキラの様な者は少なく、手助けしてもらって街へ行ったとしてもギルドに入るのは難しい。なぜならMPが少ないからだ。
街にいる者は、小さな時からMPを増やす為に使わないスキルも発動させレベルを上げていた。何年もかけてMPを増やしていたのだ。
街で暮らしていくのには、ギルドに所属するか冒険者になるかだ。
「全然意味がわからないよ。神殿の手下じゃないの?」
「君、リーダーの話を聞いていた? 神殿にそう思ってもらうように動いていたって事だよ。でも今回、
「そうね。情報をキャッチしたのは私よ。集会は何度か行われていていたようで、すでにほぼ準備が整ったようなの」
シィがため息交じりにいうと、彼の向かい側に立っているビィは困り顔で言った。
『どうやらシィと名乗っている者は神殿に身を置いている者のようだな』
「え? シィさんが神殿に? 神殿の者に見えない……あ」
「なるほど。その犬と君は会話をできるようだな」
つい口に出したエストキラの様子にリーダーは驚きもせずに言う。
「当たり前だ。捕らえた者や逃がした君の様な者に、万が一神殿の者がいたなんて言われたら困るだろう? 神殿の騎士の時は、わざとこうしているんだよ」
シィが、やれやれと説明をした。
「まあそういうわけだ。君は運はいいようだが、察しが悪いようなので言っておこう。王命で動いている」
「………」
”え……王命? もしかして王様? 一番偉い人?”
エストキラは、恐れ多いというよりは遠い存在でまだ神殿の方がピンとくるのだった。
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