第55話 接触
本来の冒険者は、全て自己責任だが自由だった。もちろん迷惑行為はだめだが。それは、冒険者同士でもだ。
冒険者は、他の職業と対等だった。
好きな場所で買い物もできる。錬金術協会に行ってもいい。なんなら自分で作って売ってもいいのだ。
ランク分けもあるが、これは強さの目安となっている。
パーティー制が支流で、数名でいつも行動していた。何かあれば冒険者協会が協力をしてくれる。
それが他国の冒険者協会だった。借金返済の為の職業ではないのだ。
「ずいぶんと違うんだね」
「うん。聞いて驚いたわ。この国でいいのは、宿がタダって事だけよ」
「え? 他の国は、タダじゃないの?」
そうみたいだと、リナは頷いた。
「……キラ」
呼んだのはリナ達じゃない。振り向けば、座っている4人を見下ろす冒険者が立っていた。深くかぶっているフードからは、赤い瞳が覗いている。
”神殿の騎士!”
よく見れば、髪も赤い。
「ちょっといいかしら?」
「誰!?」
リナが、じろっとエストキラを睨みつけて聞く。声からして女性だとわかる。
「えーと」
”なんて答えたらいいんだろう。神殿の騎士というギルドって言ったらダメなんだよね”
「彼を借りるわ」
”断りたいけどここまで来たという事は、僕は監視されているって事だよね。前だってガントさんの所で働いていたのを知っていたし。ずっと見張っているわけではないみたいだけど”
「ちょっと行って来る」
「え? だから誰なの?」
エストキラが立ちあがると、リナが彼の手をつかんだ。
「お姉さん、大丈夫よ。話をするだけだから」
「え……」
リナは驚いて手を緩めた。
リナは、怪訝な顔つきになった。
「だ、大丈夫。すぐに戻って来るから」
『私も行こう』
おとなしく成り行きを見ていたアルが、珍しくエストキラについていくと言って、ぴょーんと彼の胸にジャンプする。
「その子は、置いていきなさい」
「連れていけないって言うのなら行かせないわ!」
リナが立ち上がってビィを睨みつけて言うと、わかったわと背を向けた。
アルがついていれば、ひとまず安心だ。
「アルお願いね」
抱っこされたアルは、頷いて答える。
「こっちよ。随分と賢い犬の様ね。いつ手に入れたのかしら?」
「アルは、リナについてきたんだ」
「そう」
彼女について行けば、街の外に向かい森へと入っていく。
「もしかして、神殿の集会にでも行くの?」
今日、神殿の集会があると聞いた。かなりの冒険者が行ったみたいで、関心の強さがうかがえる。
「いいえ。でも関係はあるわね」
「来たか……」
赤い髪と瞳の人物が三人、エストキラを出迎えた。
”会った事がない人もいる”
「呼び出して悪いな」
「………」
「大丈夫だよ。結界を張ってあるから。声は漏れない」
”まあ、そうだろうね。聞かれたらまずいのって僕じゃなくてそっちだろうし”
シィの言葉にそう思いながらも要件を聞いた。
「で、何? 僕に何かさせる気?」
「君の力を借りたい」
「は? 僕にはなんの力もないけど? ただの冒険者です」
ちょっとつーんとしてエストキラは言ってやった。
「いや、君は類い稀な運の持ち主だ」
”何その変な持ち上げ方”
「本当にね。まさか二日程で街に来るとは思っていなかったわよ」
リーダーの言葉に頷いてビィが言う。
「言われた通り行っただけだけど?」
「検問に引っ掛からなかったようだからそうみたいだけど、ずいぶん早かったね。本来なら街の検問にすら引っ掛からない予定だったんだけどね」
シィに言われエストキラはムッとした顔つきになる。
「何も教えてくれないから危なく捕まる所だったよ。それにあの紙は何? 冒険者にはなれたけど、借金ができたんだけど!」
「だから早く来たから街の検問に引っ掛かったんでしょ? それに……」
「シィ、今はその話はいい」
「……はい」
”僕にとっては大事な話なんだけど!”
『キラ、この者達は何者だ?』
「一応、助けてくれた人達。でも信用できない人。神殿側だし」
アルを少し持ち上げ、こそっと話す。
「なぜ犬に話しかけている。その犬はなんだ? 本当に犬か?」
リーダーの言葉に、エストキラはドキリとする。
「リナが連れている犬のようです」
「彼女が? 見た事ないけど」
ビィが言うと、シィがじろっとアルを見た。
「なるほど。―――」
死んだふりの御者の男が、リーダーに耳打ちする。魔道具によって、アルを調べたのだ。彼の言葉にリーダーは、そうかと頷いた。
「な、何?」
何を言ったんだとエストキラは身構えるが、リーダーは真顔になる。
「本当に君は幸運の持ち主のようだ」
「もしかしてまた、運任せみたいに何も教えずに何かやらせる気?」
「いや、今回は全て話そう。ただし、聞いたらすぐに実行してもらう」
「え!?」
”何それ。僕に選択の余地なしって事?”
『強引な奴らのようだな……』
四人は、いつの間にかエストキラを囲う様に立っていて、逃がす気はないようだ。
「まずは、我が国ブライダーク王国の歴史から話そう」
「………」
リーダーは、語り始めるのだった。
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