第54話 宿屋にて
――4か月程の月日が流れ、4人ともDランクになった。
エストキラは、ボーンラビットを狩り、他の者は採取を行い日々過ごす。そんな生活に慣れていく。
”ふう。何となく体がだるいなぁ”
「キラ? なんか顔色悪くない?」
「うん? ちょっと体がだるいかも」
「ちょっと待ってよ」
ペラペラと採取全集をリナはめくる。
「あった。うんうん。アル。ちょっと一緒に採りに行こう」
アルは、こくんと頷く。
「ど、どこ行く気? 一人じゃ危ないよ。僕は大丈夫だから」
「アルがいるから私は大丈夫。二人をお願いね。どうせこれからも必要になるかもしれないからね。ポーション買えないんだし」
「それはそうだけど……」
ポーションは即効性なので、値段が高い。薬草は自分で手に入れれば、煎じて飲めばいい。一気に回復はしないが、一晩休めば良くなる。
『大丈夫だ、私がついている』
「うん。お願いねアル」
「リナさん、私も行く」
「ううん。二人はキラをお願い」
マダリンにそうリナは言って、宿屋を出て行く。
Dランクの宿屋も扉を開けたらすぐに部屋だ。しかし、一軒そのままの空間なのでかなり広い。それでも夜になれば、ぎゅうぎゅうだった。
「キラ、熱あるの?」
「大丈夫。疲れが出ただけだから」
「見張ってるから寝てて」
真面目な顔でマダリンが言うと、トリシャもエストキラに頷く。
「あはは。ありがとう。お願いするかな」
エストキラは、横になり目を瞑った。
逆にこれだけ人がいれば、問題を起こす者もいない。
ここ数か月で気が付いたのだ。問題を起こせば、月一度の討伐に選ばれている事を。ローワンの時もそういう事を言っていたので間違いない。
エストキラは、街の中では少し気を緩める様になっていた。
元々ペラペラの布団で寝ていたので、床に雑魚寝でも問題なかったし、結局はモンスター料理も食べる様になり、この生活も悪くないと思う様になっていた。
「なあ、聞いたか。この冒険者協会のシステムって、この国だけらしいぞ。神殿の者が言っていた」
ぼそぼそと話す会話が聞こえてくる。
”この頃、頻繁に聞くなぁ。この話”
何やら神殿が
「今夜、集会を開くんだと――」
「おい、あんた」
エストキラは、突然声を掛けられビクッとして見れば、手招きしている。
”いや、僕具合悪くて寝てるんだけど”
マダリン達が、怯えて横になっているエストキラにギュッと掴まった。
「な、なんでしょう」
「なあ、ここだけの話があるんだけどさ」
エストキラが来ないと思ったのか、逆に近づいてきて小声で言う。
「神殿の者が俺達を解放してくれるって。話を聞きにいかないか」
「言っている意味がわからない。解放って何?」
「借金からだよ。国が俺達を冒険者として縛り付けているっていう話」
「……冒険者になったのって、自分の意思じゃないの?」
「何言ってるんだよ。仕方なくだろう。払い終わらないと、他国に行く事もできないんだぜ」
「他国に行きたいの?」
「冒険者システムが全然違うって話だ。それを教えてくれるってさ」
「ふーん。行かない」
「……そのままでいいんだ。貴族に戻れるかもしれないのに」
「………」
”そんなわけあるか。大体変な話だ。神殿だって冒険者になれって進めていたって話なのに”
マダリン達は、神殿の助言で冒険者になっている。助けるところか冒険者にさせたのだ。矛盾しているとそっぽを向く。
それに、そんなのに参加して村人だったとバレたら大変だ。
「ねえ、元の生活に戻れるの?」
「戻れないよ。神殿なんて信用できない」
「そうなの?」
マダリンが首を傾げる。
いつの間にかエストキラは眠ってしまっていた。
つんつん。
「キラ、キラってば」
「うん?」
「起きて、薬できたから。粉までにはなってないけど……」
目を覚ませばリナが覗き込んでいた。
「あ……おかえり」
「はい。飲んで」
寝ぼけまなこで受け取る。
「ゲホゲホ」
苦くて思いっきりむせた。
「ちょっと大丈夫?」
「う……苦い」
「薬ってそういう物なの」
「ありがとう」
薬を飲んだ事で逆に目が覚めたエストキラは、周りに人が少ない事に気が付く。
「あれ? 人いないね……」
「神殿の集会に行ったみたいね」
「あぁ、そっか。助けてくれなかった神殿に今更すがるの?」
「不満を持っている人が多いって事でしょうね。キラが寝ている間、一生懸命話していったわよ」
「え? ごめん、大丈夫だった?」
大丈夫とリナは頷いた。
「でも確かに魅力的なシステムだったわ」
「うん? 何が?」
「本来の冒険者のシステムよ」
「嘘かもしれないよ」
「出戻りの冒険者の話らしいから信憑性があるんだって」
「何その出戻りって」
「Cランクになって、他国に出て行った冒険者よ」
”他国のシステムの方がいいのに、戻って来たって? 変だと思わないのかな?”
そう思うエストキラをよそに、リナは聞いた話を彼に話して聞かせるのだった。
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