第53話 レクイエム
「それ、本当ですか!?」
青ざめた顔で、エストキラが叫ぶ。
「はい。それでお願いがあるのですが……」
エストキラは、冒険者の説明を受けた部屋に呼び出され、ベネッタからジャーデンが亡くなったと話を聞いた。
「僕もあります」
「何かしら?」
「ジャーデンの事です。彼は討伐にけじめをつけに行くって言っていました。もしかして、あの男と何か前にトラブルがあったんですか?」
「……そんな事、私が知るはずないでしょう。ですが、彼とマダリン達姉妹の家族は、同じギルドに所属していて亡くなっているの。彼は、借金がないのに冒険者になった。いずれ税金が払えなくなるかもしれないってね」
「え……」
”なんでそこまで詳しく教えてくれるの。うん? 借金がない!?”
「借金がなかったの? それなのに、生きて帰ってこれないかもしれない討伐に自ら行ったって事?」
「そうなるわね……。それで、その姉妹をお願いしたいの。今まで彼が彼女達の安全を見守っていたのよ」
「それは、彼とも約束したので言われなくともしますけど、あの男は、どうなったんですか?」
「今回の討伐隊は全滅よ」
「………」
エストキラは、驚きで声が出なかった。
「彼は、死を覚悟の上で行ったのね。彼の形見を渡せないのが残念だわ」
「あ、そういえば、ジャーデンの荷物とかお金とかどうなったんですか?」
「冒険者の物は、冒険者協会の物。という考えよ。でも本来は、借金があるからだから、彼は例外だけど戻ってこないでしょうね。彼にも肉親がいないから」
”肉親がいないっていうけど、そういう人たちが冒険者になっているんじゃないの?”
「そうですか」
エストキラは、ため息交じりで部屋を後にした。
みんなが待つ宿屋へそのまま向かう気にならず、ぶらぶらと街を歩き冒険者達を見つめた。
”食べていくだけのお金があれば暮らしていける。そしてお金を返し終わっても冒険者のままだ。Cランクになったって、モンスターを倒す生活を続けなくてはいけない。死んでしまえば冒険者協会に全部持っていかれる。しかも抜け出せない様になっている”
「はぁ……。やっぱり僕は、助けられたわけではなかった」
命は助かったが、結局は追いやられたのだ。
「あ、おかえり。なんだったの?」
宿に戻るとリナがエストキラに聞いた。
「うん……。特になんでもない」
「え?」
マダリンとトリシャは、アルと一緒に遊んでいる。その姿を見つめふとある事に気が付いた。
彼女達の両親を見捨てたという言葉と家族が同じギルドに所属していたという言葉。
「ねえ、二人の両親は、なんのギルドで働いていたの?」
エストキラの突然の質問に驚くも、マダリンがボソッと呟く。
「回収ギルド……」
「え!?」
「何? それがどうしたの? キラ?」
驚いて黙り込むエストキラを不思議そうにリナが見つめる。
”もしかして、僕があの犬に襲われた様に、彼らの回収ギルドも襲われたのでは? 生き残ったのは、ジャーデンだけとか?”
そうなら二人がいうように、見捨てたと思ったとしてもおかしくない。それにそれが、ローワンによるものだったとわかって復讐をする為に討伐に一緒に行ったとしたらつじつまが合ってしまう。
”こんな事になるなら止めるべきだった”
ローワンが死んだので復讐が叶った事になるのかもしれないが、彼女達がジャーデンが見捨て逃げたとしてもローワンが仕掛けた事だったと知れば、憎む相手がローワンでジャーデンは悪くないかもしれないと傷つくかもしれない。
「キラ、大丈夫?」
「うん……後で説明するよ」
ボソッとエストキラは、リナに言った。
何かあったんだと悟ったリナは、頷く。
二人が寝て静まった頃、ジャーデンが死んだ事をリナに告げ、エストキラの考えも伝えた。
「そんな……敵はあの男だったなんて」
「そうかどうかは、わからない。でもジャーデンは、相打ちでもって言っていた。死んでもいいと思っていたんだ。決心が固くて止められなかった。ごめん」
「ううん。キラは何も悪くない。悪いのは全部、あいつよ。キラ……」
「うん? 何?」
「あなたは、命を懸けて誰かに復讐なんてしないでね。もし私が死んだとしても」
「な、何言ってるの。その前に守るよ」
「ありがとう」
「……うん」
『大丈夫だ。君達は私が守ろう』
二人して、照れているとアルがそう言った。
「……聞こえてないからね」
ボソッとアルにエストキラは、耳打ちする。
「な~に? また、二人で内緒話?」
「ち、違うよ。う、歌だって」
「そうね。こういう時は歌よね」
アルがちょこんとリナの膝に乗ると、リナは歌い出す。
ジャーデンへのレクイエムを――。
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