第48話 森で見たモノは――

 「だあ、腹立つ!」


 灰色の髪の男が、大きな斧を振り回す。そこには、モンスターはいない。だが彼の通った道には、点々とボーンラビットが死体となって横たわっていた。


 「おらかかって来いよ」


 目の前に現れた3体のボーンラビットを挑発するように叫ぶと、3体は彼に目掛けて突進してくる。それをあっけなく倒すと、一体を残し二体は手にし歩いていく。


 「貴族の生娘なんてなかなかお目にかかれないって言うのに、あのガキ邪魔しやがって!」


 そう言いながら思いっきり足元の地面にボーンラビットを一体投げつけた。それから手にしていた一体を思いっきり遠くへと放り投げる。

 その彼を見つめる影が呟く。


 「やっと見つけた――」


 その影は、鋭い視線を向けたあと、その場を後にした。


 「うん? 気のせいか?」


 振り返るも自分が点々と置いたボーンラビットの死体しかない。


 「ふう。明日こそは奪ってやる」


 ニヤリとして、彼もまたその場を立ち去るのだった――。





 「ねえ、彼、ジャーデンは何をしたの?」


 マダリン、トリシャ、リナ、エストキラと順に四人仲良く並び、リナが聞いた。すると二人が暗い顔をする。


 「私たちの両親を見殺しにしたの」

 「「え」」


 リナ達は、二人がこうなった原因がジャーデンだと聞き驚いた。


 「そう。辛い事を思い出させてごめんね」


 リナも両親を亡くしているので、二人の気持ちは痛いほどわかる。


 「ねえ、キラ。二人の面倒をみない?」

 「え? 面倒ってどうするの?」

 「一緒に行動するの」

 「うーん……かまわないけど、ただあの男が襲ってきたらどうするの?」


 ”フライボードで逃げる事ができない。僕の力じゃあの男に勝てないだろうし。彼女達も一応女性だから彼に襲われるかもしれない。僕には、守り切れないんだけど”


 『心配ない。街の外なら反撃してもいいのだろう?』

 「……そうだね。アルにそうしてもらうしかなさそうだね」


 エストキラが真面目な顔でアルに話しかけているので、マダリン達は不思議そうな顔をする。


 「あ、キラはね、アルとお話ができるんだって。二人には聞こえる?」


 聞こえないと二人は顔を横に振った。


 「だよねぇ」

 「うん。だよねぇ」

 「だよねぇ」


 リナの真似をする二人。


 「リナ。酷くない? 本当に聞こえるの知ってるよね?」

 「……さあ?」

 「えー」

 「キラ変なの」

 「え、僕は呼び捨て!?」

 「同じぐらいに見えるんじゃない?」

 「え! リナよりは低いけど二人よりは高いだろう」

 「別にいいじゃない」


 リナは、くすりと笑う。


 「いや、いいんだけどさ……」


 ”絶対に背高くなってやる。それより、薬草摘みだけならお金にならないよね。二人といるならここにリナを残して行っても大丈夫かな?”


 「ねえ、リナ。ここに居てくれる? 僕、ボーンラビットを狩ってお金を稼いでくるよ」

 「え? 怒ったの?」

 「違うって。三人……いや四人なら寂しくないだろう」

 「一人で大丈夫なの?」

 「リナがいたってかわらないじゃないか」

 「アルよ。連れていかないの?」

 「アルが守りたいのは僕じゃなく、リナだから」

 『まあ街の中は危険はないだろうからついて行ってやってもかまわないが』

 「いや、この部屋も危ないかも。密室だから。宜しくねアル」

 『わかった』


 エストキラがすくっと立ち上がる。


 「本当に一人で行く気?」

 「移動はボードでするし、危なくなったらそれこそボードで上に逃げるから」


 エストキラは、上を指さして言った。


 「わかったわ。気を付けてね」

 「うん」

 「キラ、ありがとう」

 「「ありがとう」」

 「あ、うん」


 エストキラは照れくさくなり、じゃっとささっと部屋から出て行く。そして真っ直ぐ冒険者協会で掲示板でクエストを受けた。


 「へえ、一人?」


 驚いてエストキラが振り返れば、あの灰色の髪の男が目の前に立っている。


 「な、何か用?」

 「身なりだけはいいよな。ローブなんて来ちゃって」


 そう言ってローブを引っ張った。彼の目線は、隙間から見えるローブの中だ。


 「何をするんだよ」


 慌てて彼の手を振り払った。


 「あんなでかいものをどこに隠しているのかなって思ってな。お前もしかして、錬金術師か?」

 「………」

 「がははは。そんなわけないか。そうだったらこんなところにいないよな」


 からかって満足したのか、男は出て行った。


 ”なんなんだ”


 エストキラも冒険者協会を出るとそのまま街から出て、ボードで森へと向かう。ジャーデンに教えてもらった場所へ着いて、エストキラは首を傾げた。


 「回収されてないんだけど?」


 目の前には、ボーンラビットの死体が広がっている。


 「ガルルル……」

 「え……」


 突然目の前に現れたモンスターにエストキラは、青ざめた。


 「犬みたいなモンスター? ここら辺ってボーンラビットしかいないんじゃないの?」


 犬ではなく、ウルフだ。牙が鋭くその口元は血で汚れていた。

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