第49話 彼の覚悟

 ”回収されないと本当に他のモンスターがよってくるんだ。とにかく上に”


 「うわぁ」


 フライボードを取ろうと一瞬ウルフから目を離すと、襲い掛かって来た。とっさに横にどけなんとかかわす。


 ”上に逃げる暇なんてないんだけど”


 ウルフを睨みながらブロードソードを手に構えた。だがその手は震えている。


 「ぎゃん」

 「え……」


 エストキラの後ろからの旋風の様なモノがウルフを襲い切り刻んだ。振り返ると、男たちが数名走って来ていた。


 「君、大丈夫か?」

 「はい。ありがとうございます」


 ”助かった”


 「話は本当だったみたいだな」


 そんな会話をしつつ、なんとリュックにモンスターの死体をぽんぽんと入れていく。


 ”うん? この人達、冒険者じゃなくてもしかして回収ギルドの人?”


 「やっぱりまだ回収してなかったんですね」

 「うん? いや、今日2回目。まあ仕事だからいいんだけどさ」

 「え?」


 ”数時間でこんなに? それが普通なの?”


 「悪いけど、今日は他の場所で狩りをしてくれないか? またウルフが出たら困るから」

 「え? あ、はい。じゃ、僕は向こうに行きますね」


 作業する姿を横目に場所を移す。


 「あ、そうだ。いい事思いついた」


 エストキラは、鞄からコンパスを取り出した。そしてそこに表示されている赤い点を目指し移動する。


 ”いたいた”


 ボーンラビットを倒し、角を切り落として回収。


 ”ボーンラビットだけならやっていけそう”


 どうせだからと、近くにいる数体も倒し角を回収しておく。


 「採取と同じくすれば早くすむよね」


 フライボードに乗ってエストキラは、街へと戻った。


 「はあ!? なぜいきなり明日の討伐に行かないといけないんだ!」


 冒険者協会に足を踏み入れると、聞き覚えがある怒鳴り声が聞こえ見れば、カウンターの係員に灰色の髪の男が怒鳴っている。


 「普通ないだろう! 俺が、何をしたっていうんだ!」

 「ローワンさん。そんなに大声を上げなくても聞こえてます。あなたが規則違反をしたからです」

 「は? 俺がいつ? 何をしたって?」

 「街の者に危害を加えようとした。いえ、仕向けた」

 「誰がそんな事を?」


 ローワンは、ぎろりと辺りを見渡した。

 誰かが、告げ口をしたんだろうと思ったのだ。そして、入り口に立つエストキラに目を留め、どかどかと近づく。


 「お前か!」

 「ちょっと、何!?」


 エストキラは、胸倉をつかまれ驚く。


 「彼を離しなさい。彼ではありませんし、もう決定事項です」

 「だったらそいつも一緒に参加させれよ」


 突然手を離され、エストキラはよろめく。


 「いいですよ」

 「ジャーデン……」


 よろめいたエストキラを支え横に立つジャーデンは、ローワンを睨んでそう答えた。


 「お前、覚悟しておけよ。変な事いいやがって!」


 ローワンが、わざとジャーデンの肩にぶつかって冒険者協会を出て行く。


 「ジャーデン、本当にいいんですか?」

 「はい」

 「ちゃんと、討伐をして来てくださいよ」

 「わかってます。討伐はしてきます。では……」

 「待って!」

 「何?」


 エストキラはなぜか、ジャーデンを呼び止めていた。


 「話があるんだ」

 「……わかった。宿に行こう」


 リナ達がいる宿屋とは違う宿屋に向かう。冒険者協会から一番遠い宿屋だった。

 Eランクの部屋には数名いたが、二人はその者達と距離を置き壁に寄りかかるように座る。


 「話って?」

 「えっと……」

 「もしかしてさっきの話?」

 「え? あ、うん」


 返事を返すと、ジャーデンは怖い顔つきになった。


 「あいつ、ボーンラビットを乱狩りしていた。それは別に悪いことじゃない。だが、死体をワザとウルフがいる方に置いてウルフが狩場に来るように仕向けていたんだ」

 「え? そうなの? あ、だからウルフが……」

 「出くわしたのか! 無事でよかった」

 「うん……」


 ”なんだろう。二人から聞いた話とイメージが違うような気がする。放っておかずに通報してるし”


 「あのさ、本当に明日あの男と一緒に討伐に行くの? 何をしてくるかわからないよ」

 「……相打ちでもかまわない」

 「え!? 殺し合うつもり?」

 「悪いけど、あの子達頼むな」

 「……何言ってるの? 死にに行くなんてダメだよ」

 「君に何がわかる! 裕福に育ってきて親だって、殺されたわけじゃないだろう? 事故かなんかだろう?」

 「え……」


 いきなり怒鳴るようにいう彼に戸惑うエストキラだが、本当の両親は生きているのでさらに何と答えていいかわからない。

 今の話からだとジャーデンの親は死んだのだろう。


 「や、やけにならないで。君が戻ってくるまでは、彼女達の面倒をみるから」

 「ごめん。言い過ぎた。君だって辛い思いしてるのに」


 エストキラは、首を横に振った。


 「これは、けじめなんだ。先に進むための……」


 ”止でも無駄みたい”


 「わかった。でも無事に帰って来るの待ってるから」

 「あはは。一応言っておくけど、討伐に行って生き残って返って来る生存率は、50%だよ」

 「え!? なんで」


 ”そんな危険な討伐をさせているの?”


 「俺達、別に戦闘向けのスキルを持っているわけでも戦い方を習ったわけでもないだろう? 討伐に行く場所は、モンスターが集団発生しているところなんだ。俺も初めていくし、あいつに殺されるよりモンスターに殺されるかもしれないな」


 そう寂し気に言うのだった。

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