第46話 キレイなソプラノ

 「キラって見掛けずによらず怪力なんだな。首をスパーンってはねちゃうなんて」


 なぜかジャーデンと一緒に狩りをする事になってしまった二人は、彼の言葉に相槌を打ちながら森の中を歩いていた。


 「ところで、キラ達は貴族出か? 犬飼ってるなんて。手放さないの? 犬の餌なんて冒険者マークの所では売ってないだろう?」


 ジャーデンが、リナに抱かれたアルをチラッと見て言う。


 『本当によく喋る男だな』

 「うん。家族だから……」


 そう言うしかない。


 「あ、ここ。この場所の方がいっぱいいるぜ」

 「ありがと……う……」


 ボーンラビットがいっぱいいる場所へジャーデンが案内してくれたが、そこにはすでにそれらがいっぱい転がっていた。


 「む、無理……」


 リナが踝を返し、その場所から逃げていく。


 「え? リナ!」

 「? もしかしてこういう状況だめ? 確かに犬に似てるけど」


 ”そういう問題でもない。というか、僕も逃げたい”


 「ちょっとだけごめん。すぐに戻るから」

 「あぁ」


 エストキラは、リナを追った。


 「リナ」

 「もういや!」

 「えっと……リナはアルとここにいて。アルがいれば危険はないと思うから」

 『あぁ、任せておけ』

 「キラ……」


 泣きながらいかないでという目でリナが見てくるので、エストキラは困った。


 「えーと」

 「おい、キラ」

 「うわぁ、びっくりした」

 「回収ギルドが来たから今日は終了にしようぜ」

 「うん? 回収ギルド??」

 「……そっか。貴族だったみたいだし、知らないか」


 そうではないが知らないので、軽く頷いておく。


 「モンスターの死体を持っていく仕事をしているギルドだ。そのまま放置すると腐るし、他のモンスターを引き寄せちゃうからな」

 「へえ。色んなギルドがあるんだ」

 「まあな。一般人がほとんどのギルドだよ」

 「キラ、戻ろう」


 エストキラに震えながらしがみつきリナが言った。


 「うん。採取しつつ戻ろうか」


 こくんとリナは頷く。


 ”モンスターが来るなんて聞いたから怖くなったみたい。森の奥に行くのは無理っぽいなぁ……。明日からどうしよう”


 ジャーデンがいるのでボードで移動する事も出来ないので、徒歩で戻ると2時間もかかり二人はへろへろになった。

 クエストを完了させ疲れたので宿屋で休む事にし、昨日と同じ宿屋にジャーデンと一緒に向かう。

 Eランクは、反対側の外階段を上った扉が入り口だ。


 「あ……」


 ジャーデンが先に入ると、ピタッと動きを止めた。なんだろうと見れば、女の子二人がこっちを怯えた様子で見ている。リナも入れば、二人はブルブルと震えだす。


 ”そこまで怖がらなくても。でも女の子だけじゃ怖いか”


 「ごめん、俺が出て行く……」

 「え? ちょ……」


 エストキラとリナは顔を見合わせ、仕方なくジャーデンを追った。


 「君たちは別にいてもいいけど」

 「え? だって怖がって……」

 「俺に怯えていただけだから」

 「え……何をしたの?」


 急にジャーデンが怖い存在になり、リナを庇う様にエストキラは立ち聞く。


 「別に彼女らに何かをしたわけじゃない。けど、俺は憎まれて当然なんだ」

 「そう……なんだ。ごめん。別行動とっていい?」

 「あぁ。嫌な思いさせて悪かったな」


 じゃ、と軽く手を上げジャーデンは去って行った。


 『訳ありのようだな、近づかない方が無難だろう』

 「うん……」


 ”そう僕らには関係ない”


 「行こう、リナ」

 「……ねえ、キラ。二人を放っておいて大丈夫かしら?」

 「え?」

 『歌を歌ってやればいい』

 「歌?」

 「歌……そうね。落ち着くようにそうしましょう」

 「リナがそういうならいいけど」


 ”大丈夫かな? 彼女達は僕らも彼の仲間と思っているかもしれないし、逆に怯えさせるんじゃないかな”


 また階段を上り、扉を開ければ隅に二人でいた。開いた扉に驚いて顔を上げると、また震えだす。


 「大丈夫よ。私も女なの」


 そうリナがいうと、二人は目をぱちくりとさせた。

 声は女性っぽいと思うだろうが、見た目は男性だ。しかもエストキラより背がある。

 リナは、祈りの歌を歌い出す。


 『いい声だ』


 アルがうっとりとしている。

 歌声は、キレイなソプラノ。彼女達もリナの歌声に警戒をといて聴き出した。


 ”リナの歌声は、いつ聴いても和むなぁ。これが祈りの力なのかな”


 「「うわーん」」


 リナが歌い終わると、なぜか二人が泣き出し、リナとエストキラは何事と驚く。


 『感動したようだな』


 ”いや、それは違うと思うけど”


 リナは、ゆっくりと二人に近づく。


 「今まで二人で怖かったのよね」


 そう言って二人を抱きしめると、二人ともリナに抱き着くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る