第39話 幸せになりたい
二人が無言でいてもベネッタは、何も催促してこなかった。慣れているのだ。泣く者や懇願する者もいる。
『何をそんなに悩んでいるのだ?』
アルの言葉に、エストキラはアルを見た。アルは、エストキラを不思議そうに見ている。
『君は、貴族になりたかったのか?』
”貴族? いや特段なりたいとは思ってない。とういうか、どういう者かもよくわからない。わかっているのは、まだ使える魔道具をポイポイと捨てるような存在”
エストキラは、軽く頭を振った。
『ではどうしたいのだ?』
”どうって。リナや両親と幸せに暮らしたい。もちろん、村にいた時は幸せだった。神殿の者を羨んだ事なんてない。特別な存在だと思っていたから。ただ病気になった時はどうしようもなかった。そうだ。村から街に行って貴族や一般人を知ったから村人が不幸だと思ったんだ。薬が買える分、冒険者は村人よりいいかも”
「僕は、冒険者になります」
「そ、そうね。それしかないわね……」
エストキラの言葉に、リナも諦めたのか頷き言う。
「では、魔力を込めて下さい」
ベネッタの言葉通り二人は、カードに魔力を込めた。
「後は、冒険者協会の魔道具に通せば登録完了よ」
魔力を込めたカードがぶら下がったネックレスをそれぞれ首にかけると、ベネッタに続き二人も部屋を出る。
「契約完了者よ」
「それじゃ、この板の上にそれ置いて」
エストキラが言われた通りにすると、カードにFランクと言う文字が追加された。続いてリナも同じくする。
「頑張って返済してね。そうすれば、Cランクになれるわ」
ひらひらと手を振ってベネッタは、奥へと引っ込んで行った。
「はい。冒険者の手引き。ちゃんと読むように。あと、掲示板に掛けてある板にそのカードをくっ付ければ、依頼を受けた事になるから。受けられるのは、同じランクで一回に一つね。完了させてからまた受ける様に」
「はい……」
”一個ずつしか受けられないのか。同じようなのまとめて受けられれば効率いいのになぁ”
「おい、ボウズ」
指さされた掲示板に向かっていると、テーブルに組んだ足を乗せ椅子によしかかっている灰色の髪の男に声を掛けられた。
「フライボードなんて持って貴族に未練たらたらだな。返済なんて一生できないぜ。Cランク以上なんて夢のまた夢。せいぜい、その魔道具を大切にするんだな。奪われない様にな」
酔っているようで酒くさいが、一応ありがとうとお礼を言って掲示板へ向かう。そして、彼の言っている意味がわかった。
”何これお金少ないんだけど……”
例をあげると――
『Fランク:10ポイント・銅貨10枚
採取・アールの枯れ草10本:期限なし』
とかだった。
”これ、ポイントはすぐに上がるかもだけど返済には時間がかかりそう”
Fランクには討伐はなかったが、お金にならないものばかりだ。Eランクになれば、討伐もあるがそれでも銅貨100枚とかだった。なにせ1体討伐などばかりだからだ。一個ずつしか受けられないのであれば、お金を貯めるのには相当時間がかかるだろう。
「上手く考えたわね。これじゃ貯めようがないわ」
”その日暮らしも大変かもしれない”
「ごめん。こんななんて知らなくて……」
「過ぎた事は仕方がないわ。そうね、別々に受けましょう。そうすればお金を貯めやすいわ」
「あ、そっか。そうだね」
最低10ポイントなので、Eランクにはすぐに上がるだろう。
二人は、別々の依頼を受けた。そして、冒険者協会を出るも採取場所もアールの枯れ草がどういうものかも知らない事に気が付く。
「どこかで情報を仕入れないといけないわね」
冒険者マーク付きの道具屋を発見し、二人はそこに入った。なぜか使い古した物ばかり置いてある。
「何ここ?」
「中古屋みたいね」
「中古屋?」
「……人が使った物を買い取って売っているところよ。新品より安く買える」
「へえ」
リナが説明するも彼女も初めて来たのだった。
”うーん。安いのこれ? いまいちわからないなぁ”
「本みたいのは、あっちにあるみたい」
リナが指さす方へ行けば、字がかすかに読める本やところどころページが抜けた本が売られていた。しかもそれでも銅貨250枚もする。
”高い! ……というか、僕達カードの中にお金入ってないんじゃない?”
「ねえ、リナ。僕達、お金持ってなくない?」
今更ながら気づきネックレスを持ち上げ言うと、リナもそのことに気が付き『あ』と声を上げた。
”みんな、始めはどうしているの? ここで普通に支払うって事は出来るんだろうか?”
エストキラには、手元にまだお金は残っていた。ただ、依頼料はしっかり取られたので金貨10枚ほどしかない。それでも大金だが。
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