第38話 冒険者とは

 ムッとして黙り込むリナと、ヤバい事になったのかと焦るエストキラ達は、奥の部屋に通された。二人が椅子に座りしーんとする部屋で待っていると、眼鏡をかけたおかっぱで紺色の髪の女性が入って来る。


 「初めまして。私は、登録担当のベネッタと申します」


 そう自己紹介をすると、二人が座る席の向かいの椅子に腰を下ろした。


 「確認が取れました。まずは本人確認の為、お二人の素性からお聞きします。姉のリターナと弟のキラシアンで間違いありませんか?」


 ベネッタの言葉にエストキラだけが頷く。リナは、アルを抱き俯いたままだ。


 「次に状況確認です。一昨年ギオット男爵だったあなた方のご両親が事故に遭い亡くなり、その年の税が払えず没落し一般人になった。さらに昨年の税も払えず冒険者になる事を進められた。間違いありませんか?」

 「何それ!? 納得できないわ!」


 エストキラが驚くも頷こうとすると、叫びながらリナが立ち上がった。


 「落ち着いてください。残念ながらあなたが15歳になって成人していた為、税の支払いは当然の事。本来なら今年の分の支払いもあるのですよ? ペットを手放していれば、昨年度分はお支払いできたのではないでしょうか?」

 「「………」」


 ベネッタにそう言われ、リナはエストキラを睨みつける。


 「あー。えーと、ごめん」


 エストキラは、そういうと俯いた。


 ”どういう事? 税って何? 意味わかんないんだけど……”


 「お嫌なら税を支払っていただくか、お二人とも成人しているので、村人がなる討伐隊に加わって頂くかの二択になります。もちろんそれぞれ、別々の選択をしてもかまいませんよ。キラシアンは冒険者で納得しているようですが、リターナ、あなたはどうします?」


 リナは、青ざめたまま固まる。


 「あの……僕だけ冒険者で姉は免除ってならないんですか?」

 「一般人に戻るという事ですか? 今年分も含め今すぐ金貨400枚支払えるならそれも可能ですが無理でしょう? そもそも昨年度分は、姉であるリターナに支払い義務がありますからね」

 「………」


 ”困った。こんなはずじゃなかったのに。まさか借金がある事になるなんて。あぁ、貴族とか一般人の事をもっと知っておくべきだった。どうしよう……”


 リナは、はぁと大きなため息をつくと、椅子に座った。


 「わかりました。私も冒険者になります。で、その金貨200枚はなかった事になるのですよね?」

 「いえ。こちらで肩代わりはいたしますが、金貨200枚分を分割で払っていただく事になります」


 ベネッタの返答を聞いて二人とも驚く。チャラにはならなかったのだ。


 「何それ……」


 ボソッとリナが呟いた。


 「では、冒険者の仕組みをご説明いたしますね」


 ベネッタは、俯く二人とチラッと見て、ニヤリとしてから説明を始める。


 「冒険者にはランクがあり、始めはFランクから始まります。仕事にはポイントがついていて、それをこなし100ポイントになったらEランクになれます。お金は、金貨200枚返還し終わるまで一割引かれ手渡されます。手渡されると言ってもカードに表示されるだけですが」


 そういうとチェーンがついた3センチ四方の鉄の板を二つテーブルの上に置いた。それにはすでに、キラシアンとリターナの名前が刻まれている。


 「これにデータが入れられ、お金の管理もこれで行われます。冒険者マークがある宿屋とお店で使えます。もちろん冒険者協会のクエストの時にも使います」


 ”つまり冒険者は、これで管理されているって事か”


 「クエストは、何人で行ってもそれぞれクエストに表示されたポイントが付与されますが、お金は人数で割ったものが入ります。さらにそれから一割引かれます。お二人合わせて金貨200枚分になれば、それ以降引かれなくなります」

 「それって、その税とかをそれ以降もう払わなくていいって事ですか?」

 「えぇ。そうです。ただしあなた方が使用できる施設は、冒険者マークがついたものだけです。それ以外は、手元のお金で支払ってください」

 「え……」


 ”全部そのカードで管理されるのに、どうやったら手元にお金が入るっていうんだ”


 「それと、金貨200枚支払い終わるまでは、Dランクまでにしかなれません。その間のポイントは無効になります。また一度、冒険者になれば一般人には戻れません。でもCランクになれば、一般人と同じ様な暮らしは頑張れば出来るようになるでしょう」


 ”つまり、頑張り次第って事か”


 「さらっとお話しましたが、決断がついたのならこれに魔力を流し込んで下さい。そうすれば、自分自身以外使えなくなります」


 エストキラがチラッとリナを見ると、青ざめたままカードを見つめていた。


 ”あの時、シィさんが言っていた村人と同じってこういう事だったんだ。税は支払わなくていいかわりに、神殿や貴族達とは切り離された存在。街にはいるけど村人と同じような存在”


 エストキラは、複雑な気分だった。これは、助けられたと言うのだろうかと。

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