第33話 森への逃亡
ガサガサガサ。
「リナ?」
「キラ!」
木の陰からリナが出てきた。
エストキラは、ホッと安心する。
「どう? わかった?」
「うん。そっちは?」
「出来るだけ買ったよ」
途中でリュックに入りきらないとわかり、魔法陣を付与しリュックの容量を増やしていた。ビンをセットできるベルトは腰につけてそれに剣もつけ、まるで討伐する者のようだ。
「靴を買ってきたんだ。これに履き替えて。それと食事をしよう」
「うん。ありがとう。これ、高性能みたいよ。捨てちゃうなんてもったいなわね」
リナは、マップを展開する。自分たちがいる場所が中央になっていて、すぐ傍のリリド街ももちろん表示されていた。
「街は緑いろで表示されるのか」
「ねえ、この動く赤い点って何だと思う?」
地図の端にうごめく赤い点。
”モンスターは近くにいないようだ。よかった”
「赤いのはモンスターって説明に書いてあったよ。遠いから大丈夫だね」
「え!」
リナは、モンスターだと聞くとビクッとし不安げな顔つきになる。
「大丈夫だよ。きっと。まずは食べよう」
「うん……あ、これ肉まんね」
「よく、知っているね」
「……食べた事あるから。ありがとう」
”やっぱり神殿は、村とは違うんだ”
二人は、ただ静かに食べていた。
「えーと。とりあえず、このリュックを背負ってくれる? そんなに重くないと思うから」
「わったわ。そのボードはずっと持ち歩くの?」
リナは、フライボードを指す。
「うん。役に立つからね」
”魔道具を手にする機会がもうないかもれないから、貴重な魔道具だよ”
「あの……おじさんとおばさんは?」
聞いていいのかどうか戸惑いながらリナは聞いた。
エストキラは、暗い顔つきになり俯く。
「……今は二人でここを離れるのが先」
両親がどうなったかわからない。助け出したいと思うが、冒険者というものがどういうのかがわからないと連れ出せない。
”村人と一緒と言っていた。いい環境だとは思えない”
「行こう」
リナの手をエストキラが引っ張る。
「でもどこに行くの?」
「東にある街ビーントヌ」
リナが手にするコンパスのマップを見るもまだ表示されていない。
「それ、誰に聞いたの?」
リナは、驚いていた。村にいた時は、知っていてもリリド街の名前ぐらいだろう。しかも街と街の間はかなり距離がある。行くにしても徒歩では無理だ。
「どうやって行く気? 歩いては無理よ。馬車だってお金がかかるわ」
「方法は考えてある。とりあえず、森をぬけてからね」
「………」
森を抜けるのも大変だろう。リリド街の付近は、討伐されているのでモンスターは少ないが、離れればどれぐらいいるかわからない。だが道を堂々と行っても捕まるだけだ。
「そうね。道を行けば検問に引っ掛かる可能性があるわね」
「検問?」
「わかっていて、森を行こうって言ったんじゃないの?」
「……えーと」
”シィさんが森を行けって言ったのはその為だったんだ”
「ねえ、誰の指示で動いているの?」
「え? 別に指示されているわけじゃないけど……」
指示ではない助言だ。リナにも言うなと言われていた。
「そう……」
リナは、それ以上聞かなかった。彼女もカインに話すなと約束させられていた。もしかしたらカインがと思うも、彼との接点が見つからない。
「夜になるまで出来るだけ歩こう」
「夜の森で過ごすの!?」
リナはかもしれないとは思ってはいたが、何か違う方法があるのかもと少し期待をしていたのだ。
「うん。たぶん今日中に抜けられそうもないからね」
エストキラは、森の上に浮いて行く方法も考えたが日がある時間帯は見つかる可能性がある。かといって夜までここで待つのも危険だ。捜索範囲がここまで広がる可能性がある。
「今はとにかく、ここを離れよう」
「うん」
二人は、慣れない山の中を進む。深く生い茂った草で足元がよく見えず、小さな枝や蔦に引っ掛かり転びそうになる。かと思えば、コケで滑ってひっくり返りそうになった。
マップには、モンスターの所在を赤い点で示してはいるが、もしかしたらと思うとモンスターの気配にも気を配り、二人は緊張しながら進んで行く。
日が暮れ始めると、森の中は暗く灯がないと進めなくなった。
マップを確認すると、たいぶリリド街から離れたようだ。しかし、目指すビーントヌ街は表示されていない。
「ここで今日は休もう」
「うん……」
二人は寄り添って大きな樹に寄りかかる。
「疲れたね。僕が見張っているからリナは寝ていいよ」
「ううん。キラが寝て。私は祈るから」
「祈る?」
こくんとリナは頷く。
「邪を払うわ。いわゆる結界よ」
「疲れているのに……」
リナは、ううんと首を横に振り歌い出す。彼女の祈りの仕方だ。
”心地よい歌声だなぁ”
エストキラは、いつの間にか寝てしまっていたのだった。
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