第31話 不安げな瞳
エストキラは、森の中で落ち着かない様子で立っていた。
昨日、シィと取引したのだ。
この場所で待ち、リナが来れば見逃してやると。ただし違う者が来れば命はないと言われたのだ。
ガサガサガサ。
音の方へエストキラは振り向いた。
「リナ!」
「キラ~」
泣きながらリナがキラに抱き着き、キラも彼女を抱きしめる。
”よかった。来てくれた”
「うううう」
泣いて震えるリナ。
”どう声をかけたらいいんだ。すぐに立ち去れって言われているし”
エストキラは、自分と同じ黒いローブをリナに被せた。
「リナ。本当は落ち着くまでこうしていたいけど、ここからすぐに離れなくちゃいけないんだ。悪いけど、この板に両足を乗せてくれる?」
そう言いつつキラがボードに乗っかるので、リナも俯いてボードに乗ると、ぎゅーっとキラが抱きしめてきた。
リナは、ドキリとする。
「フライ」
ボードは、二人を乗せふわりと浮いた。
「きゃ」
「ちゃんとつかまっていてよ」
”本当は高く飛びたいけど、リナが落ちるかもしれない。馬車に出会いませんように”
エストキラは、道に出た。馬車よりは遅いが、人が走るより速い。
「――――!」
リナは、声にならない悲鳴を上げた。
数時間後、そんなこんなで馬車にも出会わず無事に街の近くまでついた。
「解除。リナ大丈夫?」
ボードから降りたリナは、へなへなへなとその場にしゃがみこんだ。
「もう、びっくりするじゃない。これ何?」
「魔道具……」
「……そうだろうけど」
「ここだと目立つから頑張って歩いて」
リナの手を引き、倉庫へとエストキラは向かう。
「ここは?」
「僕が働いている場所だよ」
倉庫内に入り、リナはもっと驚いた。
「何これ」
「魔道具だけど」
「それはわかるけど、この山は何って聞いたの」
”やっぱり魔道具は知っているんだ。神殿でも使っているんだ”
「いらなくなった魔道具だって。解体するのに置いてあるんだ。僕の仕事は、これを解体する事」
そう言いながら虫眼鏡を手にし、魔道具を覗き込むエストキラ。
「何をしているの?」
「うん? ここを辞めて逃げなくちゃいけないから、その前に何か持っていける物がないかと物色中」
使い方が見える虫眼鏡で魔道具を見ていた。名前だけ見てもわからないものが多いからだ。
「持って行って大丈夫なの?」
「従業員でいる間はね。ほとんど使える魔道具みたいだし」
「そ、そうなんだ」
”ガントさんになんて言って辞めよう。一年契約だよね”
そんな事をボーっと考えながら見て歩く。
”うん? なんだこれ”
《お出かけセット》マップ付きコンパスは、辺りのモンスターの気配をキャッチ。赤い点で示してくれるので、安心して森林浴を楽しめます。(注)動物は表示しません。MP300消費で1時間使えます。フライテントは、浮くので万が一の場合は、飛んで逃げる事もできます。結界付きなので、数度の攻撃なら防ぎます。中に設置してある鉱石で操作します。消費MPは3000。事前に注入しておくと便利です。
”よくわからないけどよさげだ。これと……”
ばん!
勢いよく扉が開き驚いて二人が振り向くが、扉を開けたのはガントだった。
「びっくりした」
「お前だったか。出かける用事があったんじゃなかったか? 今さっき村の者が逃げたという連絡が……」
ガントがエストキラの他に人がいるのに気が付き、そっちに目線が行き目を見開く。
「茶色い髪の女……」
”しまった”
リナは、フードを脱いでいた。
「お前、そいつと知り合いか!」
怒鳴るような声に驚いたリナは、エストキラの後ろに隠れる。
「………」
答えないが、庇うしぐさがそうだと物語っていた。
「なんて事だ。お前も村人だったのか! ブレスレットはどうした?」
「………」
二人は、にらみ合う様に見つめ合う。
「何か変だとは思っていたのだが、ブレスレットはしてないし……」
そう言いながら大股でガントが二人に近づいて来る。
リナは、怯えながらエストキラの背中にしがみつく。そのリナを震えながらも庇う様に手を広げた。
「騙して悪かったとは思ってるけど、み、見逃してくれないか……」
「もう! 解約だ! 解約!」
「え?」
”解約って……それ今更意味あるの?”
ずいっとエストキラの前に契約の板を出す。
「契約時と同じだ。解約と言えばいい」
エストキラは、震える手で板に触れる。
「解約」
「約束だからな。ボードは持っていっていいが、それは置いていけ」
ちょうど見ていたお出かけセットを指さしガントが言った。
「ありがとうございます。恩にきります! 行こうリナ」
リナの手を引きエストキラは倉庫を飛び出した。
「あぁ、金づるがぁ~!」
そう叫ぶガントの声が、二人の耳に届く。
「ねえ、あなた本当は一体何をしていたの?」
「いや、本当に魔道具を解体していただけなんだけど……」
不安げにリナは、エストキラを見つめるのだった。
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