第29話 助ける条件

 エストキラ達は、物陰に隠れた。静まり返っているので、囁くように話す。


 「実は僕、神殿に殺されたんだ」

 「どう……」


 エストキラは、大きな声で驚くリナの口を慌てて抑えた。


 「声大きから」

 「ど、どういう事?」

 「信じられないと思うけど、街は村とは全然違う。リナもここにいたらいずれ討伐に送り出されるんだ」


 リナは、目をぱちくりとする。何を言っているんだと、いう顔だ。

 彼女は、祈りのスキルを持っている。なのでそんな事にならないと本人は思っているからだ。


 「もしかして、炎のスキルを持ってるから?」


 違うとエストキラは、首を横に振る。


 「逆なんだ。たまたま祈りのスキルを持っていたからここにいるだけなんだ」

 「………」


 ”やっぱりわかってもらえないか。僕だって、街に行っていなかったら信じられなかったし”


 「わかった。信じるわ」


 俯くエストキラにリナは言った。


 「え? 信じてくれるの?」


 こくんと頷くリナだが、わかったと言ったのは街が村とは違うという事だ。自分が討伐部隊に配属されるとは思っていない。


 「よかった。必ず迎えに来るから」

 「迎えに?」

 「うん。ツテがあるんだ。でも神殿から抜け出すのは大変らしいから……」

 「……でも」


 反応にやっぱり信じていないと、エストキラもわかった。


 ”信じてもらうのは、今はまだ無理かな”


 「絶対に僕の事は誰にも言わないで。君の為にも」

 「わかったわ」

 「……無事でいて」


 エストキラは、そう言うとスタタタと歩き出す。そうしないと、ずっと傍に居たくなるからだ。


 ”待ってて、リナ。なんとか連絡をとるから”


 会ってはいけないと言われたが、会えてよかったと戻るエストキラだった。





 「そんじゃ行って来るな」

 「はい……いってらっしゃい」


 村に行ってから数日が経った。神殿の騎士を探そうと街を探索するもそういう名さえ聞かない。


 「おっと、ごめんよ」


 酔っ払いがふらついて、ガントにぶつかった。


 「おう。気を付けてな」


 チラッとフードを被った酔っ払いを見るも、塀に向かって立っている。


 「なんだ、しょんべんかよ。ここまで来てするかねぇ」


 エストキラは、ガントを見送ってから手持無沙汰に錬金術の本を見ていた。

 ガラ。


 「うん? ガントさん? どうしたんですか? 忘れ物ですか?」


 扉の前に立つガントは、険しい顔つきだ。だが何か違和感があった。


 「君、約束を破ったね?」


 その言葉にエストキラは、ドキリとする。

 違和感がわかった。背丈だ。ガントはエストキラより背が高い。なのに目の前のガントは、エストキラとそう変わらない背丈だった。


 「もしかして……シィさん。探したんだよ」

 「もうお金を貯めたっていうのか?」


 エストキラは、そうだと頷く。


 「でも君は、規約違反をした」

 「それは……親に会いに行っただけなんだ。リナには偶然――」

 「普通、親にも会ってはいけないだろう」

 「………」


 俯くエストキラ。わかってはいた。言われていないがダメだろうと。しかし、会いたかったのだ。


 「君、自分が何をしでかしたかわかってる?」

 「え?」

 「その顔は全くわかってないようだね。病に倒れた両親を助けただろう?」

 「放っておけっていうの?」


 それに対する返事はなく、じーっとエストキラを見つめているだけだった。


 「神殿は、ちゃんと村人を把握しているんだ。病に伏せっていた二人が、急に元気になれば怪しむのは当然だ。その矛先は、彼女に向かった」

 「え? リナに?」

 「当たり前だ。君は死んだ事になっているのだから」

 「お願い! リナを助けて!」


 ガシッとガントに変身したシィにしがみつく。それを彼は払いのけた。


 「俺たちは、慈善事業をしているわけじゃない。言っただろう。神殿と連携している組織だと」

 「じゃ、リナは助けてくれないの?」

 「……条件がある」

 「条件?」

 「助けたとしても逃げた者として、追われる身になる。だから冒険者になってもらう」


 ”冒険者って何?”


 はぁ。シィは、エストキラの顔つきを見て大きなため息をついた。


 「もう少し視野を広げてよ。そこら辺に居たと思うけど? まあここには支部はないけど」

 「そう言われても」

 「ギルドにも神殿にも属さないで、個人でモンスターを討伐するならず者の事だよ」

 「な、ならずモノって?」

 「あのね……もの知らなすぎ。めんどくさいなぁ。税を治められないからどの国にも所属せず、生活しているやつらさ。いうなれば、村人と同じ!」

 「え!」


 村人と同じ扱いの者がそこら辺に居たと言われ、エストキラは凄く驚いたのだった。

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