第29話 助ける条件
エストキラ達は、物陰に隠れた。静まり返っているので、囁くように話す。
「実は僕、神殿に殺されたんだ」
「どう……」
エストキラは、大きな声で驚くリナの口を慌てて抑えた。
「声大きから」
「ど、どういう事?」
「信じられないと思うけど、街は村とは全然違う。リナもここにいたらいずれ討伐に送り出されるんだ」
リナは、目をぱちくりとする。何を言っているんだと、いう顔だ。
彼女は、祈りのスキルを持っている。なのでそんな事にならないと本人は思っているからだ。
「もしかして、炎のスキルを持ってるから?」
違うとエストキラは、首を横に振る。
「逆なんだ。たまたま祈りのスキルを持っていたからここにいるだけなんだ」
「………」
”やっぱりわかってもらえないか。僕だって、街に行っていなかったら信じられなかったし”
「わかった。信じるわ」
俯くエストキラにリナは言った。
「え? 信じてくれるの?」
こくんと頷くリナだが、わかったと言ったのは街が村とは違うという事だ。自分が討伐部隊に配属されるとは思っていない。
「よかった。必ず迎えに来るから」
「迎えに?」
「うん。ツテがあるんだ。でも神殿から抜け出すのは大変らしいから……」
「……でも」
反応にやっぱり信じていないと、エストキラもわかった。
”信じてもらうのは、今はまだ無理かな”
「絶対に僕の事は誰にも言わないで。君の為にも」
「わかったわ」
「……無事でいて」
エストキラは、そう言うとスタタタと歩き出す。そうしないと、ずっと傍に居たくなるからだ。
”待ってて、リナ。なんとか連絡をとるから”
会ってはいけないと言われたが、会えてよかったと戻るエストキラだった。
◇
「そんじゃ行って来るな」
「はい……いってらっしゃい」
村に行ってから数日が経った。神殿の騎士を探そうと街を探索するもそういう名さえ聞かない。
「おっと、ごめんよ」
酔っ払いがふらついて、ガントにぶつかった。
「おう。気を付けてな」
チラッとフードを被った酔っ払いを見るも、塀に向かって立っている。
「なんだ、しょんべんかよ。ここまで来てするかねぇ」
エストキラは、ガントを見送ってから手持無沙汰に錬金術の本を見ていた。
ガラ。
「うん? ガントさん? どうしたんですか? 忘れ物ですか?」
扉の前に立つガントは、険しい顔つきだ。だが何か違和感があった。
「君、約束を破ったね?」
その言葉にエストキラは、ドキリとする。
違和感がわかった。背丈だ。ガントはエストキラより背が高い。なのに目の前のガントは、エストキラとそう変わらない背丈だった。
「もしかして……シィさん。探したんだよ」
「もうお金を貯めたっていうのか?」
エストキラは、そうだと頷く。
「でも君は、規約違反をした」
「それは……親に会いに行っただけなんだ。リナには偶然――」
「普通、親にも会ってはいけないだろう」
「………」
俯くエストキラ。わかってはいた。言われていないがダメだろうと。しかし、会いたかったのだ。
「君、自分が何をしでかしたかわかってる?」
「え?」
「その顔は全くわかってないようだね。病に倒れた両親を助けただろう?」
「放っておけっていうの?」
それに対する返事はなく、じーっとエストキラを見つめているだけだった。
「神殿は、ちゃんと村人を把握しているんだ。病に伏せっていた二人が、急に元気になれば怪しむのは当然だ。その矛先は、彼女に向かった」
「え? リナに?」
「当たり前だ。君は死んだ事になっているのだから」
「お願い! リナを助けて!」
ガシッとガントに変身したシィにしがみつく。それを彼は払いのけた。
「俺たちは、慈善事業をしているわけじゃない。言っただろう。神殿と連携している組織だと」
「じゃ、リナは助けてくれないの?」
「……条件がある」
「条件?」
「助けたとしても逃げた者として、追われる身になる。だから冒険者になってもらう」
”冒険者って何?”
はぁ。シィは、エストキラの顔つきを見て大きなため息をついた。
「もう少し視野を広げてよ。そこら辺に居たと思うけど? まあここには支部はないけど」
「そう言われても」
「ギルドにも神殿にも属さないで、個人でモンスターを討伐するならず者の事だよ」
「な、ならずモノって?」
「あのね……もの知らなすぎ。めんどくさいなぁ。税を治められないからどの国にも所属せず、生活しているやつらさ。いうなれば、村人と同じ!」
「え!」
村人と同じ扱いの者がそこら辺に居たと言われ、エストキラは凄く驚いたのだった。
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