第28話 今日決行です
エストキラは、買った靴を履いてみた。
「うん。わるくない。軽くしたから重くもないし。魔法陣の効果は凄いなぁ。後は左靴の裏にあの魔法陣を描くだけ」
靴を脱ぎ、靴裏に魔法陣を描く。描き終われば、その魔法陣もスーッと消えた。
「よし」
靴を履き、ボードの上に乗っかり輪っかに足を突っ込む。するとピタッと動かなくなった。
「うん。成功だ。解除」
スーッと靴がボードから離れる。
「そうだ。ローブにも魔法陣を付けようかな。何にしよう」
ローブの内側に3本の指先を付け、魔法陣を描いていく。
「スキルカルクナレ、スキルショウゲキキュウシュウ、スキルカイフク」
また三本指に戻し、エンドと発すると三角を円が囲い魔法陣が完成する。
「うん。軽い」
少し大きめなローブを羽織ると、エストキラは満足げな顔をした。ぎりぎり地面をするぐらいの長さで、フードもついている。もちろんフードはぶかぶかだ。
”これは、ガントさんに見せたくないんだよね。畳んでかばんにしまっておこう”
丁寧にローブを畳むと鞄の中にしまった。
「すごい。ふくらみもしないし、きれいに入った」
満足したエストキラ、眠りについくのだった。
◇
「あの、今日は倉庫でフライボードの練習がしたいんです」
エストキラは、仕事を終え帰る時にガントに言った。
「夜にか?」
「いえ、面倒なので今日はこのままここに泊まろうかと……」
「モンスターが怖いって言っていたのにな」
「……大丈夫みたいなので」
「俺はかまわないが、寝る時はカギかけれよ」
「はい」
倉庫を出て行くガントをエストキラは見送った。
両親が気になり、今日街まで行く事にしたのだ。お金も明日で金貨100枚になる。ただどうやって連絡するのかがわからない。
「本当に受けてくれる気があったのかなぁ」
エストキラは、陽が沈むとかばんからローブを取り出し羽織りフライボードに乗っかった。
「フライ」
スーと浮いて、どんどん浮いていく。
”できるだけ高く……ちょっと怖いけど、ボードから離れないから大丈夫”
ローブをはためかせ、馬車より少し遅いぐらいのスピードで飛ぶ。
暗いが、下には外灯がありどっちに向かえばいいかわかる。障害物もないので、できるだけ一直線に飛び、村を目指した。
「あはは。凄いや。まさかこんな事が出来る日が来るとは思わなかった」
振り返れば、街の明るい光。真下には、その街から続く外灯の光の道が続く。
数時間後、薄暗い村が見えてきた。
エストキラは、村の近くに降り立った。
「懐かしいな。って、まだ数日なのに」
そっと、自分の家に向かう。
ぎー。
カギなどついていないドアを開け、中へ入っていく。
「ゲホゲホ」
「お母さん? お父さん?」
布団を並べて横たわる二人は、しきりに咳込んでいる。
「大丈夫?」
「……エストキラ? あぁ、帰って来たんだね」
嬉しそうに起き上がる母親。
「風邪を引いたの?」
「今、この村でまた病が流行していてね。昨日から寝込んでいるのさ」
「え!」
「うつったら困る、少し離れなさい。げほげほ」
父親の方は、もう起き上がる体力もなさそうだ。
「そうだ。これを飲んで」
かばんから万能薬を出した。
「そんなものどうやって手に入れたんだい」
「街には普通に売っているんだよ。はい。お母さん」
「ありがとう」
「お父さん、ほら飲んで」
「げほげほげほ」
エストキラは、何とか父親に飲ませる。
「苦いねこれは。でも咳がとまったよ」
「本当だ。凄い効き目だ」
「後は寝て、体力回復してね」
エストキラは、立ち上がった。
「もう帰るのかい?」
本当は、楽しく話でもしたかったが、今日はゆっくり休んだ方がいいだろうと戻る事にしたのだ。
「明日も仕事だから……」
「どうやってきたんだい?」
「え? あぁ……う、馬で」
「お前、馬に乗れたのか」
両親は凄く驚いていた。
「れ、練習してね……じゃ、また来るよ。あ、僕が来たことは内緒ね」
「あぁ、気を付けてお帰り」
軽く手を振り、名残惜しいが家を出た。
”今日、来てよかったかもしれない”
「キラ! キラでしょう?」
その声にピタッと足を止めてしまう。
”リナだ。どうしよう。会ってしまった”
ゆっくり振り返ると、がばっと抱きつかれた。
「キラ! もう心配したんだから」
「あ、うん。ごめんね」
「今、どうしてるの」
「……えーと。解体の仕事をしてる」
「そう。ギルドの仕事ができたのね。死んでいなかったのね」
そう言ってリナは泣き出す。
「ちょ、泣かなくても」
「だって、神殿の人に死んだって聞いたから」
”そっか。死んだ事になっているからそう聞かされたんだ。どう伝えたらいいんだろう”
「リナ実は……僕が生きている事が神殿に知れたら困るんだ」
「え?」
驚いてリナはエストキラの顔を見つめるのだった。
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