第27話 フライボードに乗る為に

 「それじゃ行って来るな」

 「行ってらっしゃい」


 次の日、仕事を再開し魔道具を鉱石に変え、それをガントが運んで行った。


 「よし、今日も練習だ」


 早く乗れるようになって、こっそり村へ帰る予定だ。できれば馬車と同じぐらいのスピードで進める様になりたい。そうすれば、3時間で行く事が出来る。

 それから2時間ほど経った――。


 「やったぁ」


 転ばずにゆっくりだが、結構な距離を進めた。


 「あとは、Uターン……うわぁ」


 カランカラン。


 「あいたたた。でもコツをつかんだぞ」


 ガントが戻って来て、2回目の配達の後も練習し、乗りこなす事が出来るようになった。


 「ふふふ。これならもう大丈夫かな。後は万が一の為に片足だけは離れない様にしないと」


 どうするか考えるも、紐で縛るくらいしか思いつかない。


 ”かっこ悪いし、面倒だよね”


 エストキラは、魔法陣の本を手に取った。

 ガントが持ってきてくれた魔法陣のあれこれには、こういう効果が欲しいときは、こういうスキルがいいと言うヒントも書かれていた。


 「吸着かぁ。スキルがいらない魔法陣なんてあるんだ」


 ふむふむと読み進めていく。これは、魔法陣自体に意味を持たせてあった。他の魔法陣に影響がない魔法陣の一つだ。なので、フライボードにも描ける。


 ”難しいから練習が必要だよね。しかもMP5000消費って。僕でも500消費するって事だよね。そうだ。あの万能布で練習しよう”


 エストキラは、その日夕飯を食べた後こっそりと練習したのだった。





 「言って来るなぁ」

 「いってらっしゃい」


 いつも通り、ガントが鉱石を運んでいく。


 ”よし今のうちに”


 エストキラは、深呼吸してフライボードに触れた。

 今までとは違い、5本の指を付き複雑な線を描いていく。


 「エンド」


 ”成功すれば消えるはず”


 一瞬光を帯びた魔法陣は、スーと見えなくなった。


 「やったぁ。成功だ。後は靴裏に魔法陣を描くだけだ」


 靴は村で履いていた靴のままだ。


 ”どうせなら新しい靴を買うかな”


 2回目の鉱石を持っていくときに、エストキラも一緒に倉庫を出た。


 「靴を買いたい」


 そういうと、装備屋を教えてくれた。

 たくさん装備屋はあるが、靴やマントなどを専門にしている装備屋だ。そういうわけで今日は、別々にご飯を食べる事になった。


 「ここかぁ」


 中にはいれば、靴やかばん、マントに帽子など、守備力にはあまり関係がない装備品が売っている。


 「おや、珍しいね。それ、初期のフライボードだね」


 店員さんが、エストキラが手にしているボードを見て話しかけてきた。


 ”これ、初期のなんだ”


 「あの、これに合う靴なんてないですよね?」

 「あるよ」

 「あるんですか?」

 「結構古いけど、新品だ」


 ”古いけど新品って何?”


 売れ残りの靴を店員は持ってきた。


 「ほらこれだ。君右利きか?」

 「はい」

 「だったらこれでいいかな。その出っ張りにちょっと引っかかる様なデザインになっているんだ。ただ重いから普段歩くのには向かないかな。でも今履いているのよりは、頑丈だと思うよ」

 「………」


 ”村で履いていた靴だからなぁ”


 「普通の靴もいるかい?」

 「え? あ、いやそれだけでいいです」


 そう答え、エストキラは興味津々で辺りを見渡す。あまり目にした事がないマントなどに興味をそそられたのだ。


 「他も気になるようでしたらご覧ください」

 「あ、はい」


 マントを見て歩く。

 値段の他に説明も書いてあった。


 ”炎に強いマント。これは、討伐用だよね。これは――気配を消すローブ!?”


 漆黒のローブを手にして見つめる。

 村には、夜に行こうと思っていた。これなら見つからずに村まで行けるかもしれない。そう思い値段を見た。


 ”金貨3枚かぁ。安いのか、高いのか、わからない”


 「おや、それをお求めですか?」

 「えーと……」

 「モンスターからも見つかりづらくなり先制攻撃が可能になりますよ」

 「そうですか。じゃこれも下さい」

 「これを買って下さるなら靴はオマケしておきます」

 「え? ありがとうございます!」


 ローブと靴を持って仕事場へ戻った。

 ご飯を食べる時間ももったいない。それで、あの丸いパンを買ってきたのだ。


 「まず靴を軽くしないとね。後は、何をつければいいんだろう」


 エストキラは、靴の中に右手の3本を付ける。三角を描き魔法陣の下準備だ。


 「スキルカルクナレ、スキルショウゲキキュウシュウ、スキルカイフク、エンド」


 ”たぶん成功しているだろう”


 同じくもう片方にも同じ魔法陣を描くのだった。

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