第26話 癖はありません
エストキラは、かばんを回転させ、完成させた魔法陣の外側にまた三本の指を付けた。魔法陣の円と三角形の接点に指が置かれ、大きな三角形が魔法陣を囲う。そしてそれもまた、回転しつつ三角形を描く。
”上手くいってよ”
かばんに手を重ねる。
「スキルカシカ、スキルカルクナレ、スキルカイフク、エンド」
【斜め掛け鞄】〈普通〉〇耐久度:95/100〇耐久度が1秒に5回復する〇オプション:可視化+50/重さ-50/回復+50/不可視化+50/重さ-50/大きさ-50〇装備者と錬金本人に詳細表示。容量が倍になる。中にモノを入れても重さは変わらない。中身は、装備者と錬金本人しか見えない。
「やったぁ! 凄くなった!」
初めてにしては完璧だ。
普通はこんな簡単にはいかないが、エストキラは何も
最初に描いた魔法陣は、かばんの中身に対するもので、それを覆う魔法陣はかばんに対する魔法陣。普通は、スキルレベルによって効果の差が生まれる。
エストキラのオプションは、レベルではなく効果を表す数字によって効果が違う。最大値は50だ。そうとは知らずに最大値を付けていたのだった。
さっそくかばんを肩にかけ、本などを入れてみる。
「すごい。本当に重さが変わらない。これならいっぱい入れても大丈夫だ。それに同じオプションでも魔法陣の一部としてなら二重に付けられるのもわかった!」
満足して頷くと、フライボードを手に取る。
”後は、これに乗る練習だ”
エストキラには、ある計画があった。
それは、村に戻る計画。馬車に乗るとバレるかもしれない。だからといって歩いていくわけにもいかない。なので、フライボードに乗って行こうという計画だ。
錬金術の腕でを磨き、魔法陣が描いてあるモノにも追加で魔法陣を描く事ができれば、早く進むように魔法陣を描けばいい。
魔法陣は、同じモノに違う者が描くとき、失敗する事が多い。魔法陣の相性を考えるといいと本には書いてあった。
説明が見える虫眼鏡で、フライボードを見る。
《フライボード》輪っかがある方が前で、足を入れる。もう片方は、後ろにある出っ張りに軽く押し付ける。足を軽く曲げ「フライ」と唱えると浮く。あとは、進むイメージで前に進む。(注)フライボードから離れるとフライボードは効果をなくします。
「なるほど。難しくはないみたい」
左足を輪っかに引っ掛け、右足を後ろの出っ張りに押し当てる。
「フライ」
ふわっとボードが一センチほど浮いた。
「うわー!」
ばたん!
カランカラン。
エストキラは、見事にひっくり返った。
ボードから足が離れ、浮く効果が消えたフライボードを音を立てて地面に落下する。
「……む、難しい」
浮くと不安定になり、立った姿勢を保つのが難しかった。
そこで、壁につかまり浮く事にする方法を思いつく。
「フライ」
ふわっと浮くも今度はひっくり返らなかった。だが……進んだとたんにまたひっくり返る。
カランカラン。
「あたた。これ、思った以上に難しいんだけど」
「くくくく……」
「あ、ガントさん」
「いやぁ、すまない。遅いんで迎えに来たんだが」
「こ、これ難しいんですってば!」
「わかってるって。わるかった。でも一度出来るようになれば、乗りこなせるみたいだぞ。頑張れ」
「……はい」
「でも、今日はそこまでな」
ぐー。
エストキラのお腹が鳴った。
”そういえば、ご飯食べるのも忘れてやっていた”
「その様子だと、夢中になってやっていたみたいだな」
「えへへ」
二人は、夕飯を食べに街へと戻った。
◇
「あーおいしい」
「お前は、なんでもおいしそうに食べるな」
「そりゃ、おいしいですから」
これもお母さん達に持って行ってあげたいなぁ。でもこれ食べちゃうと、あの食事は食べられなくなっちゃうよね。
「うーむ」
「ところで魔法陣はどうだ? やれそうか?」
「え? なんでですか?」
「いやぁ、才能だと言っただろう。もしあれなら錬金術師を紹介してやろうか」
「紹介?」
「あぁ。普通は、師匠に教えてもらうものなんだ」
「え!?」
「何でもコツがあるらしいだよなぁ。それを掴めばあとは、色んな魔法陣の描き方を習って」
「でも、やり方なら本に書いてあったけど」
「まあ、一応な。だがほら、長年スキル上げの為にMP消費していると、変な癖がつく者が多くてな。なかなか大変らしい」
話を聞きエストキラは驚いた。
「たぶん、講習料は高いだろうけど、できるようになればお金になるぞ。どっちにしても登録しないと売れないし」
”スキルを使い始めたばかりだから変な癖がなかったって事? もうすでにできるってバレたら村から来たのがバレるかも!”
「えーと。僕は本を眺めているだけで十分なので……」
「そうか。残念だ。ひと儲けできそうだったのになぁ」
「ガントさん。また僕を上手く騙そうとしてません?」
「いやいや。まさか、そんな。がははは」
”ふう。登録なんてできないから自分専用にしよう”
知れてよかったと、エストキラは安堵するのだった。
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