第21話 やっぱりそんなおいしい話があるわけなかった

 ぽい。がん!


 「よっしゃ。1000回! いやぁ、お前凄すぎる」


 大喜びのガント。

 次の日、魔法陣を諦めたエストキラは、ただひたすら魔道具を解体していった。戻って来て回数を見たガントは、後数回で1000回行く事に大喜びし、そして今、記念すべき1000回目を達成したのだ。


 「ふう……」

 「よおーし! 明日は沢山入れて叩くからな。俺も入れるの手伝うから今日はここまで」

 「………」


 ”ここまでって、凄く叩いて腕と腰が痛いんですけど”


 「明日からは、いっぱい入れてから叩くからな」

 「はあ……」

 「ところであのボードはとっておくのか?」


 ガントが、数日前から横にどけてあるフライボードを見て言った。


 「あ、そうだった。台車と同じようなやつですよね?」

 「浮くけど用途は違うぞ。あれは貴族のガキが遊ぶボードだ。あの輪っこに足を入れ固定して、浮いて進むんだ。モノじゃなくて人が乗るものだな」

 「え? そうなの? 確かに小さいなとは思ったけど」

 「慣れれば塀以上の高さもいくらしいが、途中で改良されていたな。危ないからな」

 「へえ」


 ”面白そう。今度やってみよう”


 今日はへろへろなエストキラは、楽しみにするのだった。





 がしゃん。

 台車に乗せた解体する魔道具を箱の中に運び入れていた。何度も往復し山積みにする。


 「まずは、これぐらいでいいか」


 にやにやとするガント。


 「では頼む」


 扉をしめたガントがエストキラにいう。


 「えい」


 がん!

 頼むと言ったガントは、すぐさま箱の裏側に向かった。


 「おぉ! 大量だ」


 ガントは、ケースの中を覗き込んでいた。エストキラも覗き込む。

 色んな鉱石が、ケースの容量いっぱい近くまで入っていた。


 「すごい、いっぱいだ」

 「今のだけではなく、1000回分のも入っているけどな。だが、半分以上は今の分だろう」

 「へぇ」

 「じゃ俺は、これを錬金術協会に売りに行って来る。キラは、また箱に魔道具を運び込んでおいてくれ」

 「わかりました」


 ガントは、台車をケースの下に入れ、ボタンを押すとケースがすとんと台車の上に乗っかった。それを押して出口へと向かう。


 「あ、そうだ。ケースはこれしかないから運び入れ終わっても叩くなよ」

 「はい。あの……台車は?」

 「うん? これしかない。悪いが手作業でお願いな」

 「………」


 ”え~。さっき結構な数入れたよね? それを全部手作業?”


 まだまだ山積みになっている魔道具に振り返る。


 ”軽そうなのを運ぼう”


 ガントが戻って来る間、エストキラは黙々と魔道具を箱に運び入れた。


 「つ、疲れた。これなら叩いていた方が楽だよ」


 エストキラは、休憩と箱の中で座り込む。


 ”それにしても魔道具って一体何なんだろう。なんでこんなにあるの?”


 破棄する分だけでも大量だ。今現在使われているのは、これよりはるかに多いだろう。


 しばらくすると、ガントが戻って来た。


 「おう。ご苦労さん」

 「あ、ガントさん。どうでした? 全部売れました?」

 「あぁ。今回は貯まるの早いですねって驚かれたよ」

 「そうなんだ。あの、ガントさんも魔道具っていっぱい持っているんですか?」

 「いっぱい? うーん。いっぱいというか、必需品? 一般人でもお金を持っているやつは、使って生活しているはずだ。一般人向けに錬金術協会も売っているからな。本当ならここにある使えるのを売ればいいんだけど、機能の違いがかなりあるらしい」

 「はあ……」


 ”いまいちよくわからないや。確かに契約とか台車とか使っているみたいだけど”


 「じゃ、まずはご飯にするか。買ってきたから食べよう」

 「ありがとうございます」


 台車の上には、ケース以外にもう一つ箱があった。ガントは、それを手に取り持ってくる。ぱかっと開けると、湯気が立ち上がった。


 「あつあつだぞ。あ、これも魔道具だな。中の温度を保つんだ」

 「へえ」

 「これは、パンの中におかずが入った食べ物だ。あまり大口で食べるとやけどするぞ」

 「うん……」


 ”すごい。あつあつ。ふかふかだ。しかも丸い形なんて面白い”


 ぱくっとかじれば、ジューシーな肉汁も溢れ出す。


 「あちち。おいしい」

 「だろ。これはあつあつのがうまいんだ」


 おいしく頂いた後、ふたりでせっせと魔道具を箱に運び入れ、ハンマーでがんと叩いた。


 「ふう。やっぱり叩く方が楽だ」

 「お疲れさん。今日は、これで終了だ」

 「え? 終了?」

 「錬金術協会で受け入れてくれる時間帯があるんだ。3回目は時間外になりそうだからな。あまり鉱石にして置いておきたくないんだ」

 「え? どういう事?」

 「だから魔道具は持っていかれないけど、鉱石は持っていかれるって事さ。じゃ戻ってくるまで自由にしていていいぞ」

 「え~!」


 ガントは、驚いて彼を見送るエストキラを残し、ほくほくとして倉庫を出て行った。


 ”どういう事? 叩けないとお金にならないじゃないか。しかも今日の方が重労働なんだけど!”


 「もしかして、僕騙されたー!?」


 これでは、儲かるのはガントだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る