第20話 魔法陣を描きたかった
”やったぁ。手に入れた”
次の日、ガントが倉庫を出て行くと、居ても立っても居られないエストキラは、速攻昨日の魔法陣の基礎を買い求めた。それを胸に抱き、倉庫へと戻る。
わくわくしながらページを開き、本を読み進めていく。
”なるほど、魔法陣は自分の魔力を使って描くんだ。そして、発動させる効果のスキルを鉱石に付与してもらって……え? 鉱石にスキルを!”
もし描けたとしても誰かにスキルを付与してもらわなければならない。それをタダではやってくれないだろう。
「えー。オプションの僕には何もできないじゃないか。うううう。銀貨30枚が無駄に……いや待てよ。ここにある鉱石を使えばいいんじゃないか? 普通は取れない様に中に入れてあるって書いてあった。どうせ分解するんだ。いや分解した鉱石でいいんじゃないか?」
そう思いつくもその効果をどうやって見分けるか。その手段がなかった。ここにある虫眼鏡にはそういうのはない。
「はぁ……仕方がない。銀貨30枚取り戻す為に頑張るか」
ハンマーを持ち、やっと仕事を始める。
前より楽になったとはいえ疲れるし、同じ作業というのは飽きる。
ぽい。がん!
「ふう。休憩」
座るとつい魔法陣の基礎に手が行く。
何かないかとパラパラとめくった。
後半からは、ちょっとした応用編が載っていて、鉱石なしでも行う方法が書かれていた。最初から3つのスキルを付与し、それから魔法陣を描く方法だ。
「どっちにしてもダメじゃないか……」
がっくしと肩を落とす。
”うーん。魔道具を作っている人は一体どうやってほしい効果のスキルを手に入れているんだろう。まずそれを扱える人を探さないといけないよな。……もしかして、鉱石って売っている? 探してみる価値あるかも”
諦めが悪いエストキラは、また街へと繰り出した。
そして、ガントが言っていた錬金術協会を発見する。
「いらっしゃいませ。どのような魔道具をお探しですか?」
「え? えーと、ちょっと色々見ようかと」
「そうですか。ぜひご覧ください」
”びっくりした。錬金術協会って魔道具を売っているところだったんだ”
見渡せば、自分がせっせと分解している魔道具が売っていた。しかも値段を見て驚く。すべて金貨以上の値段だ。
”いやいや、僕じゃ買えないよ。って、あの分解する魔道具一体いくらだったんだろう。それよりここに売ったという鉱石はないなぁ”
更に見渡すと階段を発見する。
”あっちかな?”
「お客様」
階段を上がろうとすると、声を掛けられビクッと肩を震わした。
「な、何か」
「そちらは、錬金術師専用の店舗です」
”錬金術師? もしかして、魔道具を作る人の事かな?”
「あ、僕、えっと、み、見習いで……」
「そうでしたか。では、ごゆっくり」
「はい」
”嘘ついちゃった”
階段を上った2階には、見た事がないものがずらりと並んでいた。そこに探していた鉱石も売られている。
”あった!”
近づいて、呆然となった。一個銀貨30枚だったのだ。
”た、高すぎる”
エストキラは、やっと諦める気になりとぼとぼと倉庫に戻った。
ぽん。がん! はぁ……。
”こんな高いモノをお金を払ってまで手放すなんて。貴族ってやつは……”
ぽん。がん! はぁ……。
”鉱石一個銀貨30枚って何なんだ!”
「――おい!」
「え? あ、ガントさん」
「さっきから声をかけているのに。大丈夫なのか? 無理するなよ」
考え事をしながら叩いていたので、ガントが戻ってきている事を全然気づかなかった。
「……はい」
「疲れたならやすめ」
「はい」
すとんと、その場に座り込む。
「何かあったのか?」
「……魔道具って凄く高いんですね」
「まあな。それと錬金術協会を通さないと、売ってはいけない事になっている」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。だからここから持って行って売ろうとしても売れないし、見つかれば逮捕されるからな」
「はい」
まさか売ろうとしたのではなきかと怪しむガントだが、ふと魔法陣の基礎の本が目をとまった。
「こんなの買ったのか……」
「あ……はい」
エストキラは、かぁっと顔を赤らめる。
「まあ、興味は持つよな。目の前にいっぱいあるのだから。だか魔法陣は素質を問われるらしい。同じ効果を持つ魔法陣も何種類もあって、それに何重にも重ねたりもできるらしい。まあ魔道具がほしいだけならここから持っていけ。売るのはダメだが、処分方法の指定はないからな」
つまりは、売らなければどうしてもよいという解釈だ。
”そういえば、僕、どうして魔法陣に興味持ったんだっけ? そうだ。魔法陣が見える虫眼鏡があったから自分でもやってみたいって思ったんだ。まあそんなに簡単じゃないよね”
魔道具のガラクタを見て、ため息をつくエストキラだった。
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