第16話 契約

 ――契約書

 〇従業員は、契約期間中に限り、売らなければ魔道具を私物化可能

 〇従業員のスキルの詳細を他言しない

 〇雇い主は、従業員に寝床と食事を提供する

 〇雇い主は、従業員に作業一回につき銅貨100枚を給金として支払う

                          以上


 ”すごい。言った事が整理されて契約書になってる”


 「これでいいなら触れて、契約しますと言えばいい」

 「それだけ?」

 「あぁ、それで契約成立だ」


 ”まるで神殿の誓いみたいだ。だ、大丈夫かな?”


 エストキラとガントが板にふれ、二人揃って「契約します」と発すると、板が光り触れた指に契約の証の印が刻まれた。それをジッとエストキラは見つめる。


 「大丈夫だ。それがある限り契約が有効という事だからな」

 「これ、破るとどうなるんですか?」

 「うん? キラの場合はこの契約だと破りようがないが、俺の場合は最悪ギルド取り消しになって仕事ができなくなるな」

 「え? 取り消し? って、僕には何も制約がないの?」

 「なかっただろう? ノルマもないし」


 ”確かにそうだ。よかった~”


 「でだ、仕事の説明な」


 にんまりとしてガントが言う。


 「まず、このハンマーには熟練度が記憶されるようになっている。一回行えば、熟練度1加算される。でだ、熟練度1000になってようやく100%還元されるんだ」


 そういいながら棚からさっきとは違う青色の虫眼鏡を手にハンマーへと近づく。


 「1000ですか……」

 「そう。1000回だ」

 「え!」


 エストキラは、そう言われてやっと1000回叩かないと100%還元にならない事に気が付いた。


 「この青いやつが熟練度を見れるからこれで確認してほしい」


 虫眼鏡越しに覗けば、二人分の熟練度が見える。一人はもちろんエストキラで、もう一人はガントだが熟練度は72回だった。


 「実はな、一括でやった方がいいと思い、この倉庫を作った時に一緒にこの魔道具も依頼したのだが、買った後に熟練度の事を聞いて……やってはみたものの」


 なるほどとエストキラは頷いた。

 結局効率が悪すぎたのだ。1000回叩いた後でないと、意味がない代物だった。


 「半分騙されたようなものだが、大きさが大きさだ。返品も不可だしどうしようと思っていた。そういうわけで、1000回までは適当に一個入れて叩いてくれ」

 「………」


 ”1000回って。数字を言われるとやる気をなくす数だ”


 「あ、生命反応があると発動しないような仕組みなっているからな。ハンマーが重いから休み休みでいい。もしあれだったらここで寝泊りOKだ」

 「ここで!? モンスターでたら僕戦えないけど」

 「大丈夫だ。よっぽどじゃなければでない。そうじゃなければ、ここに倉庫なんて建てないって。討伐ギルドが依頼を引き受けて、街の周りのモンスター退治をしているからな」

 「そうだったんだ……」


 エストキラは、今更ながらここで作業をするのだから危険なのは変わりがないと気が付いた。


 「一応、カギは渡して置く。扉は全部で三か所あるけど、これは入ってきた扉のカギな。ここから出る時は必ずかけてくれ。かざすだけで、ロックも解除もできる。なくすなよ」


 石の様なカギを渡される。それには魔法陣が描かれていた。


 「それは魔法陣と言って、魔道具はそれで動いている。だからそれを扱えれば、まあ誰でも魔道具を作れるって事だけどな」


 ”そうなのか。この丸い模様が。不思議だなぁ”


 「この棚にある魔道具は、使ったら元に戻してくれ。これは使用している魔道具だから分解しないようにな」

 「あ、はい。それを使ってもいいんですよね?」

 「あぁ、壊れているかどうかもわかる魔道具もあるから確認に使うといい」

 「ありがとうございます」

 「では俺は、顧客回りしてくるな。夜には戻る。ほれ、昼代だ」

 「ありがとうございます」

 「じゃ、宜しく頼むな」


 ガントは、ぱたんと倉庫の扉を閉めて出て行った。

 倉庫の中は、外の灯がなくとも明るい。


 「まるで神殿の中みたい。さてやるかな。えーと、壊れたのだけ入れていこうかな。どれだろう」


 虫眼鏡は、立ててあった。その刺してある台に用途が書いてある。


 ”聞きなれない言葉ばかりでよくわかんないな。とりあえず、使っていなかったこの赤いのから使うかな”


 赤い虫眼鏡を手に取り、身近な魔道具を覗き込んだ。


 ――【フライボード】〈良品〉●使用MP:100●一回チャージすれば10分浮かす事が出来る。上手く操れば、自由自在に動き回れる。


 「うん? 浮かす事が出来る板?」


 小さな青い板をジッとエストキラは見つめた。自分が乗って来た板と同じモノではないかと、にんまりする。それなら欲しいと脇にどけたのだった。

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