第15話 1回銅貨100枚

 ガントは、魔道具を一つ手に取り、大きな箱の扉を開け投げ入れた。


 「まあ、察しているとは思うが、このでかい箱をこの大きなハンマーで叩くだけだ」

 「はぁ。それ、僕に持てますか?」

 「俺に聞くな。重いが持てなくもないだろう」


 持てないとまずは筋力作りからしなくてはいけない。


 「うーん。重い。これ人参が入ったリュックより重いんですけど」


 ”これを振るの? MP云々より重すぎてやりたくない”


 「人参?」

 「いえ、なんでもないです」


 あはははと、軽く笑って誤魔化した。


 ”あぶない、あぶない。村で過ごしていた事がバレるところだった”


 「それで、ちょっと出っ張ったところを叩けばいい。別に触る程度でも大丈夫だ」

 「はい……」


 大きなハンマーを持ち、よろよろと出っ張った壁の前まで来てとりあえず振った。

 こつん。

 叩いた反動さえないぐらいの弱い振り。

 エストキラが、これでいいのかと振り返れば、ガントは何やら棚にある物を物色しているではないか。


 「あの叩いたんですけど」

 「おう。これだな」

 「なんですか、それ」


 縁が黒い虫眼鏡を手にしたガントを見て聞いた。エストキラにしてみれば、これも見た事のないアイテムだ。


 「これか? 鑑定キットの一つ。MPを鑑定する魔道具だ。これで覗くと最大MPと今のMPが見える」

 「へえ」

 「どれどれ。おぉ、1しか減ってない。いやぁ、凄いスキルだなぁ。神殿に気づかれなくて、俺的にはラッキーだな」


 神殿という単語にエストキラはビクッと体を震わす。


 「ど、どういう意味ですか?」

 「悪い意味じゃない。ほら鑑定だとかだと神殿で優遇してくれるだろう? それと一緒。魔道具もMP1で扱えるなら君は魔道具のエキスパートだ。この3000消費というバカげた魔道具も使い放題だろう?」


 実際は、ハンマーで叩くので疲れてしまい、そう何度も叩けないが。


 ”そういう意味か。でもそれ神殿に言われたら困るな”


 「あの、それ神殿に言うんですか?」

 「まさか! 俺と本契約しようじゃないか! どうだ?」

 「本契約?」


 エストキラは眉をひそめた。契約という言葉にあまりいい印象がないからだ。


 「も、もちろん、給金は弾む」

 「………」

 「なら、ここにあるもので使えそうなモノは、売ったりしなければ持っていっていい。どうだ? その棚にある鑑定キットはダメだけどな」

 「うん? ここにある魔道具を貰ってもいいって事?」

 「そうだ。どうせ解体する魔道具だ。そこの棚の鑑定キットを使えば、どんなモノかわかるだろうからな。必要な物をそろえればいい。どうだ? お前ならここの魔道具はお宝の山だろう?」


 そう言われエストキラは、魔道具の山を見渡した。確かに消費MP1なのだからどんなにMPを消費する魔道具でも使い放題だ。


 ”この山から探せと言われてもなぁ”


 「別に今日中とは言ってない。作業中に見つけたなら持っていっていいって事だ。契約書にも記載してやる」

 「………」


 ”もしかして、神殿に渡さない為に僕を一生懸命に勧誘しているの?”


 「まだ不服なのか? でもこれ以上はなぁ」

 「あの、その契約期限とかはあるんですか?」

 「うん? 普通は一年更新だ」


 ”一年。魔道具は売れないけど、ここで働ければお金を貯められる。神殿の騎士に依頼するお金が貯まるかも”


 「じゃ、もう一つお願いが」

 「なんだ? 昼食をつけろとかか?」

 「え? えっと、僕のスキルの事を誰にも言わないでほしいんです」

 「あぁ、そんな事か。もちろんだ」


 ガントは、大きく頷いた。彼としても奪われたくない人材なのだ。


 「じゃ、宜しくお願いします」

 「よかった。じゃ成立って事で」


 そう言うとガントがポケットから何か出しだ。そしてそれに向かって何やら言っている。


 「魔道具は、契約期間中に限り売らなければ好きなだけ持って行ってもいい。スキルの事は他言しない。食事と寝床提供……」


 ”食事付けてくれるの? 寝床もついているからお金を掛けずに生活ができる”


 「で、給金はどうする? 俺的には、一回銅貨100枚が妥当だと思うのだが」

 「一回って、これを叩くのですか?」


 大きな箱を指さすと、そうだとガントが頷いた。


 ”うーん。叩いただけで貰えるならいいけど、どうやってカウントするんだろう?”


 「それで構わないけど、どうやってカウントするんですか?」

 「大丈夫だ。ハンマーにカウンターが付いている。じゃ一回の作業で銅貨100枚支給。では確認してくれ」

 「え? あ、はい」


 そう言われて近づけば、手のひらサイズの板がありそれがほのかに光っていた。そしてそれが、目の前に文字を浮かび上がらせた。さっきまでガントがぶつぶつと言っていた内容が表示される。


 「すご……」

 「字は読めるよな?」

 「あ、はい」


 ”でもサインはできないんだけどなぁ。どうしよう”


 文字を見つめつつ村の出身だとバレたらどうしようとドキドキするエストキラだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る