第12話 天職
驚いているエストキラを見てガントがニヤッとする。
「ちゃんと道具はある。ほれこれだ」
エストキラに手渡されたのは、長さ30センチほどの真っ黒いハンマーだ。
「それは、解体スキルが付与してある魔道具だ。MPを使って誰でも使えるようになるものだ。因みに消費MPは10な。使い方はこうだ」
ガントが木槌の様な小型のハンマーで魔道具を一つ叩いた。
がん!
そうすると一瞬で、色んな色の鉱石に変わり、エストキラは目が点になる。
”凄い。解体って不思議だ”
エストキラの反応を見て、ガントがまたもやにんまり。
「ほれ、お前もやってみろ」
魔道具の山から一つとり、エストキラの前に置く。
「あの、叩くだけでいいんですか?」
「あぁ。叩く事で発動する」
エストキラは頷き叩いた。
がん!
魔道具は、鉱石になった。ただし一つだ。
「あれ、一個だけ?」
「それは仕方がない。魔道具だとそれが限界だろう」
「魔道具だと? ガントさんのはいっぱいだけど?」
「俺は、自分のスキルだ。条件が道具で叩く。解体のスキルは、原料に戻すスキルなんだ。俺は、100%戻す事ができるが、それだと30%がいいところだろう」
そう聞き不思議だとまじまじと鉱石をエストキラは見つめる。
”こんなスキルもあるんだ。これは確かに戦闘には役に立たないスキルだ”
「で、どうする? 難しくはないがMP消費が激しい。1回分は、200個が目安だ」
「200個? その数をこなして銅貨400枚?」
「そうだ。MPは合計2000必要になる。君だと足りないだろう? だから二日かかってもいい。この部屋だったら寝泊りOKだ」
エストキラは考え込む。
”ここに寝泊り出来るなら問題ない。その間かかるのは、食事代ぐらいだし。うん。やろう!”
「やります! 頑張ります」
「……わかった。じゃこの山お願いするな。無理してぶっ倒れても構わないけど、頭打つなよ」
「え……」
”MP枯渇して昏倒していいって事?”
エストキラは、あははと苦笑いする。仕事の内容としては楽しそうなので、やりそうだからだ。
「鉱石は、この缶の中に入れといてくれ」
「はい」
ガントが鉱石を入れた缶を見て頷いた。
「じゃ頑張れよ。俺はそっちにいるから」
「はい。がんばります」
気合十分に頷く。
”畑仕事よりずっと楽そう。この山を崩さないように取らないと”
魔道具を一つ取り床に置く。ハンマーを振り上げたところでエストキラは、ピタッと止まった。
”もう倒れたくないからちゃんと数えないとね。MPは1840だから184回叩けるけど、184回叩いたら0になっちゃうから183回だ。数え間違わないようにしないと。1回目と”
がん!
魔道具を叩くと鉱石に変身する。
「本当に不思議だなぁ」
こうして数えながら数えて叩いて行った……。
がん!
「183と。一応鉱石も数えてみるかな。1,2,3……183個。うん。183回完了っと。MPを増やすのって寝ないとダメだっけ」
メモにMPの回復方法が載っていた。それには、睡眠(昏倒可)、回復ポーション、魔道具による回復と書いてあった。
「これ片づけたら寝るかな」
魔道具から鉱石になったのを両手に抱え、缶に入れる。
”そういえば僕、さっき一回叩かなかったっけ?”
缶に入っている鉱石を見てふと思い出す。
「え? あれ? じゃ184回叩いた事にならない? 0になってない? もしかして起きていてもMP回復したとか? ……それとももしかして、1しか消費してないとか?」
確かめる為にエストキラは、魔道具を手に取りハンマーで叩いた。
がん!
今まで通り魔道具は、鉱石になる。
「………」
”うん。クラクラしない”
がん! がん!
「……大丈夫だ。え? じゃこれ全部できるんじゃない?」
エストキラは、魔道具の山を見つめて目を輝かせた。
がん! がん!
”やっぱりそうだ。マスタースキルって凄い! これ終わったらMP上げをしよう。この仕事、僕の天職かも!”
嬉しくなって、腕がだるくなるも魔道具を鉱石に変える。楽しくて、あっという間に終わらせるのだった――。
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