第10話 街並み

 エストキラは、街の門をくぐった。門番がいたがチラッと見ただけで声などかけられずホッと胸を撫でおろす。

 メモには、街の中央が神殿になっており、それを囲う様に貴族の家、それから商店が貴族の街を取り囲むように立ち並ぶ。ギルドもその建物の一部だった。

 一般人が住む建物は、門のすぐ内側だ。


 門からは、中央に向けて馬車が二台通れるぐらいの広さがある道が続く。もちろんその先には大きな神殿があり門から入ってすぐに見えた。かなり高い建物だ。

 それも凄いと思ったが、エストキラには人の数と建物にあっけに取られていた。


 ”す、すごい人。薄汚れた格好をした人なんていない。それに武器を装備している人もたくさんいる。馬車もたくさん通ってる。それに凄く広い!”


 しばらくエストキラは、圧巻され佇んでいた。ふと我に返り歩き出す。

 30分以上歩いてやっとギルド紹介所を見つけた。ここでギルドを紹介してもらうのだ。

 入り口は、開け放たれままで中を覗けば、思ったより人がすくない。ただ村の神殿なみに中が広かった。


 「広い……カウンターの人に話しかければいいのかな?」


 きょろきょろと挙動不審な行動をとりながらエストキラは、中へと進む。

 カウンターには、綺麗なお姉さんが座っていた。暇そうに本を読んでいる。


 「あの……」

 「え……あ、ごめんなさい」

 「いえ……ギルドを紹介してもらいたいんですけど」

 「はい。登録はお済ですか?」

 「いえ……」

 「では、こちらにお名前をお願いします」

 「………」


 エストキラは、スッと出された紙とペンを無言で見つめた。

 字は読めても書けないのだ。神殿から字が読めるように教えてもらっていたが、書くのは特段教わっていない。計算も習った。それは、スキルが覚醒した時のためだったので、それに必要ない事は教わっていない。


 ”ここでは書けるのが当たり前? どうしよう”


 「あ、書けないのですね。失礼しました。代わりにお書きします。お名前は?」


 大丈夫みたいだと安堵する。


 「キラ、です」

 「キラさんですね」


 一般人もエストキラの様に習うが、大抵の者はお金を払い学校へと通う。通うお金がない者もたまにいる為、特段驚かれなかったのだ。


 「登録証を発行しますか?」

 「登録証とは?」

 「はい。こちらになります。名前と最大MPが記載されます」

 

 カウンターのお姉さんの手の上には、チェーンがついた2センチほどの水晶が乗っていた。


 ”本当にここではMPが重要なんだ”


 メモには、この世界の基本が書いてあった。

 スキルは、生活の為のスキル以外はほとんど注目されない。鑑定などのスキル持ちは、神殿が確保してしまうので鑑定は魔道具でするのが一般的。

 ほとんどの仕事は、魔道具で行うのでMPが重要視される。ただ、戦闘ギルドも少なからず存在し、攻撃系などのスキル持ちなら歓迎されるが、命の保証はない。


 「えっと……」

 「登録証は銅貨100枚でお作り出来ます。最大MPが確認できるので便利ですよ」

 「お、お願いします」


 ”僕の最大MPっていくつなんだろう。2つ一緒にレベルアップしているから期待出来るかも”


 「ではこれを握って魔力を注いでください」

 「え? 注ぐ?」


 やった事がなくどうしていいかわからないが、とりあえず言われた通り水晶を握りしめる。


 ”えい。えい。えい”


 目をギュッとつぶって手に力を込めた。


 「もういいと思いますよ」


 そっと手を開くと、水晶がほのかな光を帯びている。水晶を覗けば、自分の本当の名前エストキラ・・・・・と字が浮かんでいた。


 ”あ、本当の名前が書かさってる。どうしよう……”


 「あら……」


 カウンターのお姉さんの声にエストキラはビクッとする。


 「930ですか。ちょっと足りないですね」

 「え?」


 水晶を確認すると、最大MP930と書いてあった。


 ”最初10しかなかったのに凄く上がっているけど、これでもダメなの?”


 「もしかして少ない方?」

 「いえ足りないのです。1000ないと仕事がありません」


 ”ちょっとぐらいおまけしてくれても……”


 「わかりました。ところで、普通それって何レベルぐらいですか?」

 「そうですね、人それぞれですので何とも言えませんが、合わせて10レベルぐらいでしょうか。最初の最大MPが基になって増えるので。初期値は平均はたしか50です」

 「………」


 ”50って僕の最初の5倍じゃないか! あれ? でも計算が合わない。合わせて4回上がっているから40しかあがらないはずなのに、かなり上がってる”


 「まあマスタースキルをお持ちの方は、最大MPの上がり方も違うようですけど」

 「………」

 「上げていただかないと紹介ができませんので、頑張ってくださいね。では、銅貨100枚頂きます」

 「はい」


 銀貨1枚を渡すと、銅貨900枚が帰ってきた。


 ”凄く重くなった!”


 はぁっと、一つため息をし建物の外へ出るのだった。

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