第9話 見えたのは高い塀
エストキラは、村を出る前とは別人になり、ぐったりとして馬車に揺られていた。
短くなった髪で背が低くても少年に見え、グレーのシャツに黒のズボン。その上に紺色の膝まであるフード付きの上着を羽織っている。そしてリュックではなくこげ茶の斜め掛け鞄を装備。その鞄には、水に数日分の食料にお金まで入っていた。
「まあ、一般人に見えるから大丈夫か」
「……一般人?」
俯いていた顔を上げ聞く。
「やっぱり知らないか」
そう言うとビィは、説明を始めた。
階級があり大まかに分けると、貴族と一般人になる。どちらも大抵は神殿でスキルを覚醒させてもらう。一般人でも仕事に使えそうなスキルなら無料で学校に通えるのだ。給料が高い職業に就く事が出来る。
それ以外の者達は、自分が出来る低賃金の仕事をする事になり、エストキラはその低賃金で働く一般人だ。
「あなたが生活していた世界とはこれからは全然違うわ。必ず何をするのにもお金が必要よ。物々交換などないわ。あなたはギルド紹介所に行ってギルドを紹介してもらって働くの」
「え? ギルドを紹介? どういう事?」
「神殿の騎士は、仕事がある時だけ結成すると思って。普段はバラバラに生活しているのよ」
「え!?」
「自分でお金を稼ぐ。今回の鞄の中のお金は餞別。寝るのにもお金が必要。もうお家には戻れないんだから。あと、そーねー、魔道具を買うならちゃんとMPを確認してね。ってそうそう買わないと思うけど」
「はあ……」
エストキラは、頭が真っ白だった。結局、身なりを整えたらポイと街へ放り出されるとわかったかだ。
「さあ、着いたわ。右手を出して」
素直に出すと、何か道具を使ってブレスレットを外した。
「ブレスレッドは村出身の証。ほぼギルドで雇ってくれないわ」
「え!」
「ピンク色のブレスレッド以外わね。まあピンク色のしていて、ギルドに入ろうなんて奴もいないけど」
「それって、神殿入りしていれば大丈夫って事?」
”僕、騙されたの?”
「村の神殿の事でしょう? だったら一緒よ。村から出る事はない。稀に街に来る事があっても神殿の外にはでない。この世界を知る事はないわ。もし外に出されるとしたら、リーダーが言った様にモンスター退治よ」
「あれ? でも僕は?」
「生きて街へ来るとは思ってないわよ。もし街へ来ても次はモンスター退治に決まっているわ。村に戻すわけにはいかないからね」
村人は、もともとチャンスなんてなかった。それが知られては都合が悪い。もし仕事を放棄して逃げたとしてもブレスレットをしていれば一目瞭然。その為のブレスレットだった。
「私の言っている意味わかる? 勝手に村に戻って彼女に会ってはダメよ」
「え! それじゃ助けられないじゃないか!」
「お金を貯めて、神殿の騎士ギルドに依頼すればいい。仲間の依頼は受けているの」
「え……お金とるの?」
「この世の中、タダでしてもらえる事なんてないわよ。覚えておいて」
「………」
”でもそれじゃ間に合わないかもしれない”
「言っておくけど、神殿入りしている者を抜けださせるのは大変なのよ。あなたの時の様にはいかないわ。それと、メモを入れてあるから見ておいてね。さあ降りて。まっすぐ行けば街よ。健闘を祈るわ」
エストキラは、馬車を降りた。言われた通り道なりに行けば街だとわかる。
「塀に囲まれている」
「そうよ。モンスターから守る為にね」
村には塀などなかった。一応、神殿にいる祈りのスキルを持った者に結界を張らせてはいるが、モンスターに襲われたとしても助けになどこないだろう。
”何もかも違う”
馬車が走り出し先に街へと向かう。
「守りたかったら強くなりなよ~」
馬車は、みるみる小さくなっていった。
”強くか。僕のスキルでなれるのか? いやならないとリナを助け出せない。というか、街へ行くならここで僕を下ろさなくてもよくない?”
大きなため息と共に街に向かって歩き出す。
そういえばメモが入っていると言っていたと、鞄をまさぐるとポケットに紙が入っていた。
それを見ながら歩く。
銅貨1000枚で銀貨1枚になり、銀貨100枚で金貨1枚になる。寝泊りしようとするならば、安くても一晩銅貨300枚は必要。賃金は、日当なら平均銅貨600枚くらい。
”なるほど。確かくれたのって銀貨1枚だったよね。寝るだけで三日でなくなる……”
エストキラは、着いたらとにかくギルドを紹介してもらって仕事をしなくてはと覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます