第8話 選択

 経緯を聞いたエストキラは、何とも言えない表情を浮かべた。

 どう考えても助けられたのは、おまけ・・・


 「さて、君はこれでも神殿にそのまま行くか?」

 「え?」


 そう問われ、問われた意味を考えた。

 届け物はすでに手元にない。行ってもお金は貰えないかもしれない。しかも指示書は読めない。それに囮に使われたぐらいだから素直に言ってもどんな処分が待っているか。


 ”待てよ。僕はどういう扱いになってるんだろう?”


 「あの、僕は一体このままだとどうなるんですか?」

 「君はまだ発見されていない事になっている」

 「え? なんで?」

 「伝えてないからさ。彼らにとって君らはコマ。無くなればまた補給するまでだ」

 「……? 言っている意味がわからない。補給って何?」

 「またスキルを与えればいいって事だ。まあ本当は、覚醒するきっかけを与えているだけだけどな」


 エストキラの目の前に座るリーダーが、驚く事を口にする。

 覚醒させただけだと言われ、自分は神に選ばれたわけではく、神殿の者に選ばれたと言われたのだ。


 ”それって、コマにする為に選ばれたって事?”


 「でも僕以外に選ばれた人は、ちゃんとしたのだった。僕の知り合いは、祈りのスキルで神殿入りしている!」

 「神殿側も覚醒させるまで、どんなスキルかわからない。というか、戦闘スキルを持っていればいずれは、モンスター退治にまわされる。その為に村から選んでいるのだからな」

 「む、村から?」

 「あぁ。それ以外の者達は、5歳ぐらいになったらお金を払って覚醒してもらっているんだ。だから全員スキル持ち。ただし使えるスキルは少ない。一般人は大抵スキルなど関係なしに働いている」


 ”なにそれ……本当に僕らは捨て駒。あ!”


 「さっきのいずれモンスター退治にまわされるって、女性でも?」

 「性別なんて関係ない。まあ女性が送り込まれれば、達の餌食だろうな」

 「そんなぁ!」


 ”リナが危ない”


 「彼女を助けたいか? だったら答えは私の仲間になる事だろうな」

 「な、仲間? 僕、オプションというスキルだけど?」


 役に立たないだろうと思いエストキラがいう。


 「別に君にモンスター退治をさせるわけではないから、スキルの種類は問わない。私が君を買ったのは、その運だ。本来なら目の前にいないだろうからな」


 リーダーは、真顔でそう言った。


 ”僕の運って……”


 召喚されたモンスターに襲われる事もなく、崖から落ちても生きている。そして、彼らが先に見つけた事により生還して街に向かっているのだ。


 「仲間にならないのなら神殿に突き出すまでだ」

 「え? そうなると僕どうなるの?」

 「さあ? 逃げだした者扱いか、報酬を貰えてもモンスター退治に出されるだけだろう。元々そのつもりで覚醒させているのだからな」

 「………」


 ”彼らが嘘を言って僕を騙しても、彼らが得をする事なんてないだろうから本当の話なのかも。神殿に戻ったらリナを助けられない。だったら彼らの条件をのもう”


 「わかりました。仲間になります」

 「それはよかった。ビィ」

 「はい。後は私が説明しておくわ」


 馬車が止まると、リーダーとシィが降りて、違う馬車に乗り換えていった。


 「まずは、宜しくね」

 「あ、はい……」

 「怯えなくていいわ。そうね、あなた呼び名どうする?」

 「え? 自分で決めれるの?」

 「そうよ。エストキラは死んだ事になるの。あなたは生まれ変わるのよ」

 「え!?」


 ”そんな話は聞いてない”


 にっこり微笑むビィに、引きつった笑みを返すのがやっとのエストキラ。


 「私達は、あなたが死んだと報告しないといけないの。仲間になった以上、神殿の騎士ギルドを脅かす行為をしたら命はないわ。でもリーダーは、神殿と違ってただのコマ扱いはしないから大丈夫。どうする? あだ名」


 まだ神殿よりマシなのかもしれないが、裏切れば殺されるとごくりと唾を飲み込んだ。


 「じゃ、キラで」

 「うーん。本当は名前からとるのはダメなんだけど、まあいいでしょう」


 そういうとビィは、エストキラに手を伸ばしてくる。ビクッとするも彼女は、エストキラの髪に触れただけだ。


 「このぼさぼさの髪も何とかしましょうね。切っていい?」

 「あ、はい。え……」


 お金がなく切らないでいただけなので特段問題はないが、はさみを手にした彼女を見て驚いた。ここで、揺れる馬車の中で切るのかと。


 「よしっと。うんうん。後は、それ脱いで。これに着替えてもらえる?」

 「ここで?」

 「馬車止めて、外で着替えてもいいわよ」

 「僕が外に出るの?」


 驚いて言うと、ビィがゲラゲラと笑う。


 「冗談よ。私に見られるのが嫌なら馬車を止めてあげるから中で着替えて」

 「はい……」


 ”もう、この人なんなの”


 ぐったりと疲れるエストキラだった。

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