第6話 スポーツ
「珍しいな」
「あ、おかえり~。マナは?」
「先にシャワー浴びてる。それよりもどうしたんだ?普段はオリンピックなんて見ないだろう」
「お客さんとの会話が最近こればっかりなの」
「あぁ、シーズンだしな」
「ねぇ、【スポーツ】って何?」
「ざっくりとした質問だな」
「この水泳とかさ、ふぃぎゅあ?とか、いろいろあるでしょ?」
「まぁな」
「なんでみんなこんな一生懸命に頑張ってるの?」
「また身も蓋もない事を言い始めたな」
「スポーツってのは一定のルールの中で誰が一番かを競うモノを全部ひっくるめた言い方だ。だから、水泳もフィギュアスケートもサッカーもボクシングもスポーツに当てはまる」
「一番になるとなんかいい事あるの?」
「その分野においては一目置かれるし、昔っから一番の人には報酬が与えられる。古代ギリシャ時代から続いているくらい長い歴史があるんだ」
「お金かぁ」
「なんか違和感あるのか?」
「昔もこういう水泳とかあったの?」
「いや、どうだろうな。レスリングとか格闘技系メインだったんじゃないか?あとは短距離走とかの陸上系とかな」
「あ、そっか。そういうのだと実用性もあるもんね」
「言っておくが、スポーツは実用性メインじゃないぞ」
「え?」
「そもそも人間が飯の確保に時間を割いていたのは集団の数が少なかった時だけ。国なんてものを作り出すレベル……それこそ古代ギリシャ時代なんて時から既に余暇の時間が溢れていた。その際に、余暇の時間を潰すため生まれたのがスポーツって娯楽だ。」
「え、じゃあ娯楽なの?こんなに一生懸命にやってるのに?」
「それ……スポーツ選手やスポーツ好きな人には言うなよ」
「……いつも思うけど、人間って変な所に地雷あり過ぎない?」
「じゃあ、暇な人の暇つぶしで体鍛えて、それぞれの一番目指してるの?」
「悪意しかない言い方に聞こえるから、絶対にお外で言うなよ?ニュアンスが間違ってない分、タチ悪いから」
「はーい」
「話を戻すぞ。今も昔もスポーツ選手ってのは割と認められた職業の一つだ。無くてもいいってのはわかるけど、昔っから人類に馴染みがあるだけあって、スポーツを否定されるとムッとする人は多い」
「弓とか剣とか競うなら何となくわかるんだけど、水泳とかふぃぎゅあはよくわかんない」
「水泳はまだわかりやすいだろう。一番早い人の勝ちってだけなんだから」
「だけど、泳ぐ機会ってそんなに多くないし」
「必要に迫られることは少ないだろうな。氷上で滑るなんて住んでる場所によっては縁のない事だろうし。だけど、どの分野でもその道に人生掛けてやってる人がオリンピックなんて大舞台に出られるんだ。その努力に対してぐらいは理解を示したらどうだ?」
「んー……頑張る」
「例えばさ」
「ん?」
「マナが霊長類最強って言う女の人と戦ったら勝つよね?」
「どうだろうな」
「え?」
「いやだって、レスリングだろ……?そういう試合でマナが勝てるとも思えないんだが」
「でも、マナって異常に強いでしょ?」
「なんですか?私の悪口ですか?」
「違うよ!?あ、ねぇねぇ!マナって霊長類最強の女の人と戦ったら勝つよね?」
「え、レスリングの試合で?無理ですよ。体格差が違いすぎます」
「どうして?剣も槍も弓もあんなにうまく扱えるのに!」
「試合の時に剣も槍も弓も使えないからですよ。というか、そもそも類似スポーツであるフェンシングや薙刀、アーチェリーなんてのでも私は上位に入るくらいで優勝は無理でしょうね」
「えぇ!?」
「いや、私のは目的のために習得した程度の技術ですよ?その分野を極めるべく修練した人に敵うはずがないでしょう」
「極めたんじゃないの!?」
「極めてはいますけど、スポーツとしてではないので」
「難しい!」
「目的の違いって言うのは大きいんですよ。その分野の技術を極めようとした場合と、自衛のために極めた技術では伸ばしたモノが違います。そして、スポーツに生かせる部分は鍛えていない場合が多いので、スポーツとしての評価は低いでしょうね」
「そうなの?運動できるなら出来そうな気がするけど」
「気がするだけですよ。まぁ、そこらのアマチュアよりは動けるでしょうけど、プロのトップアスリートには程遠いでしょうね」
「んー……そうなんだぁ」
「あとはルールがあるってのが大きい」
「そういえば、ルールってなんであるの?」
「ある程度の枠組みの中で競わないと、誰が一番だかわかんなくなるだろ」
「あ、そっか。一番を決めるためにやってるから、誰が一番っていう基準を作ってるんだ」
「え?なんで二人ともそんな驚いてるの?え、熱はないよ?」
「熱がないだけで疲れてるんですよ」
「少し体温が低いな。もうすぐ飯だから待ってろ。精の付くモン作るから」
「ねぇ。大丈夫だから。アタシ、そんなに変なこと言った?」
******** ********
【スポーツ】
紀元前からある人間の娯楽の一つ。
様々な分野の技術を競い、一番を目指して各々が体を鍛える。
また、それぞれの分野には公平を期すため、一番になった人を明確にするためにルールを定め、違反者には大きな不名誉が刻まれる。
”娯楽”ではあるので、王華の言うように生きていく上で必ずしも必要ではない。
しかし、遥か昔から人類と共に研鑽を積んできた文化のため、スポーツのない生活は想像できないだろう。
なので、運動キライでもスポーツを根本から否定しようとすれば、後ろ指をさされる可能性が高いので注意。
ちなみに、マナが修めた技術はあくまで”武術”。
武術を修めた人間が必ずしも同分野のスポーツで活躍できるとは限らない。
王華の中の結論
「あんまり運動好きじゃないからそう思うのかな?でもまぁ、小説家とかも一緒かぁ。娯楽でお金稼いでいるんだもんね。観たい人だけ観ればいいよってなればいいのに。なんでみんな観てるんだろ?話を合わせるのホントに大変」
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