第5話 感染症対策


「ヤオ~!たっけて~!」

「どうした?」

「お鍋から目を離してアタシの話を聞いて!」

「わかったわかった。揺らすな揺らすな」


「んで?今日はどうした?っつーか、帰ってきたなら着替えなさいな」

「アタシの働いているお店で今流行りの病気が広まって、クラスターって言われた!」

「どの程度広がったんだ?」

「アタシ除いてだから……23人!」


「【感染症対策】してたんだけどなぁ」

「何してたんだ?」

「え?お店のアルコール消毒とか、キャストのフェイスシールド着用とか?あ、あとお客さんにはマスク着用義務にしてる」

「それだけだと足りないだろ」

「え?」


「今回はやってる病気は飛沫感染だと言われている」

「ひまつ……ぶし」

「ひまつな。咳やくしゃみ、人と会話している時に、口から少しでも水滴が飛び散るだろ?その水を飛沫と言うんだ」

「じゃあ、フェイスシールド着けてればいいんじゃないの?」

「フェイスシールドを着けている間だけはな」

「裏でもフェイスシールド外した後にマスクしてるよ?」

「それで感染症対策されてるって認識なのか?」

「え?違うの?」


「いや、今回は政府が飛沫感染と触れ回ってるからそれ自体は間違いじゃない。けど、感染症対策って言うならもっとやるべきだろうな」

「もっと?」

「水や食事を摂る前に手洗いうがいの消毒、平常時のマスクや手袋の装着とかな」

「え?そこまでやる必要ある?」

「感染したくないならそこまでする必要がある。むしろ、今のこのご時世だ。食事も食料の調達さえも通販でどうにかできる。本気で対策取るって事は出来る限りの人との接触を減らすってことだ」

「え?そこまでやる必要ある?」


「やるべきだと俺は思う。だけど、そこまでやるかどうかってのは人による。だから今でも病気は収束していない」

「うん?」

「人によって感染症対策に対する”この程度”が違うんだ。一番最悪なのはマスクしているからいいだろ?だ」

「マスクしてないのは?」

「そもそも論外だろ。そういう奴らは感染しても構わないって思ってるか、感染しないって高を括ってるだけだ」


「んー……。なら、マスクしててもダメなんだ」

「ちゃんと言うとマスクをしているだけではダメだ。安心が慢心を生み、手についた飛沫をそのまま口に運ぶ可能性がある」

「手についた?」

「どこで誰が触ったかわからないモノに触れ、自分の手に何が付いているかわからないけど、その手でパンや肉を掴んで食べる。そうすると感染する可能性がある」

「咳やくしゃみを警戒するだけじゃダメなの!?」

「飛沫感染への対策としては最低限、それを警戒しろってだけ。他のにも気を付けないと”マスクを着けてたのに感染した”なんてことになりかねない」

「ふわわ!それじゃあ、どうすればいいの!?」


「水や食事を摂る前に手洗いうがいの消毒は必須だろうな。手軽に持ち運べるうがい薬や消毒液をカバンに入れて、食事や水を飲む前に消毒する」

「面倒くさい!」

「いや、それでも足りない可能性すらあるんだからな」

「なんて面倒な病気なんだ……。ねぇ……ちなみにこれっていつ終わるの?」

「人の体が病気に対して抵抗力を持つか、ワクチンが広まれば治るんじゃないか?」

「でも、病気がヘンなのに変わったりしてるんだよね?」

「変異型な。感染力が強まったり、死亡率が増えたりと大変みたいだな」

「それでも大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」

「ホントに?」

「ああ。もしもどうにもならなかったら最終的に人と言う種が滅びる程度の話だ」

「それ……だいじょばない話な気がする」





 ******** ******** 

【感染症対策】

 マスク着用だけで防ぎ切れるという保証はない。

 ガチで対策したければ、本気で他人との接触を避けるように生活自体を変えるべき。


 感染拡大や収束に向かわないのは一人一人の対策意識レベルに差があるから。

 この程度なら大丈夫と言うのは単純な慢心であり、感染拡大の手助けをしているようなものだという事を忘れてはいけない。


 ちなみに、人間は多くの感染症に悩まされ、多くの同胞を失くしてきた。

 しかし、そのどれもを乗り越えて今があるので、気にすることは無いかもしれない。

 自分の大事をが突然失っても構わないという人や正義感の強い国民に言葉や暴力で殴られても構わないという人は今すぐマスクを取っ払おう。


 ただし、心が弱い方や家族や親しい人が大事な方、病気に怯えている方は今すぐ感染症対策をしよう。

 荷物が増えて、食事前にやることが増えるだけなので今すぐにでも出来る。


 飛沫感染という言葉だけを本気で信じ込み、ウイルスの進化を無自覚に手助けしていると、本当にどうにもならなくなる。

 ちなみに、どうにもならなくなったと気づいたときにはもう遅い。


 王華の中の結論

「ちなみにアタシは陰性だったよ!あのねぇ、ナントカはカゼ引かないんだって。流石はウイルスさえも拒むアタシの体!だけど、ヤオの言う通りにマスクと手袋頑張ります。え?消毒液の持ち運びは重くなるから嫌……はい。頑張ります」

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