義時さんはフィアレス 4

 義時さんはあまり未来の話に興味がないようだった。

 たいがいの人は僕の家にある本を読みだすのが普通なのだが、お茶やお煎餅に夢中だった。

「義時さん、向こうの世界ではどのように過ごしているんですか?」

「別に普通じゃよ。姉上と泰時と、義村とよくいる」

「義村……三浦さんですか」

「うむ」

「政子さんと頼朝さんは一緒にいらっしゃらないんですか」

「ああ……まあ、いろいろあってな。今は別居じゃ」

「いろいろ?」

「義兄上の晩年の事は知っているだろう? 朝廷工作の話を」

「大姫の話ですか?」

「うむ……。その件以来姉上と義兄上は仲違いをしてな。今のわしは2人の間の通信役じゃ」

「昔読んだ本に、政子さんが頼朝を殺害したという話があったのですが、それって実話なんですか?」

 思い切ってそう聞くと義時さんは「違う」と即答した。しかしすぎに視線を下に向けた。

「違う、といいたいところだが、真偽はわからぬ。私たちは未来の人間がおもうほどすべてを知っているわけではないのだ」

「……」

 義時さんのいうことは、確かにそうかもしれない。歴史のifを、その時代の人間に尋ねればすぐに答えが返ってくるというのは、大きな勘違いかもしれない。

「ごめんなさい。つい」

「いやいいのだ」

「義時さんは、やっぱり苦労されてるんですね」

「そういう宿命なんだろう。もともと二番手くらいがふさわしいのがわしだ」

「二番手……」

「だからあのときは、ほんとうに逃げたかった」

 義時さんは微笑した。あのときというのはきっと、鎌倉幕府の最初の危機だったあの乱のことをさしているのだろう。

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