少納言さんはオーネスト 3

「何でそんなに嫌ってるんです。会ったことないんでしょ? 当時」

「そうだけど……気に食わないのよ」

「何が」

「……言ったってわからないわよ」

「言われなきゃわからないです」

「ああ……もうっ!」

 式部さんは髪の毛を毟って、癇癪玉かんしゃくだまのように叫んだ。

「あんたに言ったって、絶対に、絶対にわからない!」

 彼女は重たいであろう衣装を、いとも簡単に引きずって部屋の外へ駆けて行ってしまった。

「あっ! ちょっと式部さん!」

「ほっとけばいいじゃない。そのうち帰ってくるわ」

「でも……」

「この屋敷からは出れないんでしょ?」

「そう、ですけど……」

「ならいいじゃない。一人で思いを巡らせる時間も人には必要だわ」

 それ今言う台詞だろうかと思うけれど、まあいいかと思い直す。

 初めてここに来た少納言さんをあまり置き去りにするのもよくないし、一階には涼がいるはずだから、なんとかなるだろう。

「そうですね。待ちましょうか」

 そう言うと少納言さんは手のひらを口元にあてて静かに笑った。

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