藤原隆家
隆家さんは救世主?
家に帰ると、冠をかぶり束帯を着た平安貴族(?)の男性が、部屋の中央に座っていた。誰が用意したのか、お盆に載せられた茶を片手に。
「いらっしゃいませ」
僕は荷物を下ろしながらその人に言った。
何の仕草かわからないが、瞳を閉じたまま、彼はこちらを向いた。
「おや。そちがこの部屋の主殿か」
懐から扇子を取り出した貴族男性は言った。見えているのかわからないが。
「ええ」
「さようであるか。今日は世話になるぞ」
「ええ。まあ構いませんが、えっとどちら様ですか」
そう尋ねると、「隆家じゃ。よろしゅうな」と、寛いだ様子で言った。
「隆家さんは、藤原氏で?」
「うむ」
隆家さんはしきりに目元を拭いながら言った。
よかった。聞き覚えがある。
僕の部屋は、ある種の霊道になっている。しかもただの霊道じゃなくて、有名な人物だけが集まるような、そんな時空になっているようだ。意味不明だ。
歴道直下だな、と父は得意げに言っていた。何が歴道直下だ。大体、歴道なんて呼称もよくわからない。
しかし、迷惑というには僕自身も楽しんでいるので、まあよしとしてやろう。
日本人なら煎餅でもいいかと、僕は菓子を出した。
「いいのうやはり茶は」
「お気に召したならよかったです」
「それにこの部屋は畳部屋か。最近は畳も少のうなっていると聞いたが、やはり畳はよいものであるな。そうは思わぬか」
「おっしゃる通りですね」
「のう」
「えーっと、今日は、どういった目的で……」
「うん? 今現世巡りが流行っていての。とりわけ紫殿が紹介したこの屋敷は大人気じゃ」
「え?」
「いつでもこちらに来れるなら、この家はあちらの住人であふれるじゃろうなあ。ははは」
「笑い事じゃないです」
そんな日が来たら僕は真っ先にこの家を出て行くぞ。せめて滞在料は取るぞ。
あとついでに、式部さんには今度来た時に説教をしてやる。
「お茶を貰えるかの」
「あ、はいどうぞ」
空になった湯呑にお茶を注ぐ。お気に召したのなら嬉しいが、随分ペースが速いな隆家さん。それに、激動の人生だったとは思えないくらい明るい印象だ。
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