第6話 沈黙の時間

 俺のスケベな視線に奏は気づき、咄嗟に腕を組むようにして胸を隠した。奏は胸を隠しながら顔を赤くし、俯いて、黙りこくってしまった。


「ご、ごめん。そんなつもりじゃなかったんだけど…。」


俺は必死に弁明する。


「そうだ!俺、レインコート持ってるんだった。岡崎さんに貸すよ。ちょっと待ってて」


と言い、鞄の中を探る。あれ?あれれ?鞄の中には、筆箱と今日配られた教科書しか入っていない。俺は自分の失態を恥ずかしく思いながら、


「俺、今日はレインコート忘れてきたみたいだわ」


と告げた。その時、雨の中を歩く足音と共に


「私が2人を家まで送るわよ」


とあの凛とした声が聞こえた。

 俺はその声が誰だかすぐにわかった。日高由衣だ。由衣は近くを流れる二宮川の付近に住んでいて、俺の家はその川よりは少し離れているが、由衣の家まで徒歩5分くらいで行くことができる。

 由衣はおもむろに持っていた傘を俺に渡し、俺の左腕に腕を巻きつけた。由衣とは家も近く、昔からの付き合いなので、こういったことをされるのも珍しくないが、一応女の子だし、顔は可愛いので少しドキドキしてしまう。そんな俺の顔を見て、少し口を尖らせながら、奏も俺の右側に来て、制服の裾を少し掴んだ。そんな彼女の顔もまた不覚にも可愛いと思ってしまった自分がいた。

 帰り道、俺ら3人は無言だった。なんか空気重いって!

 由衣は先に奏を家に送り、それから俺を送った。

 別れ際、由衣は「また明日ね」といつもの凛とした声ではなく、俺だけに見せる優しげな声で、微笑んだ。俺は小学生の時から、この声が好きだった。そして、それを俺にしか見せないというのが、またなんというか…良い。良きです。


 由衣と別れた後、制服が濡れてしまったので制服を洗濯機に入れ、シャワーを浴びていた。

そんな時、俺のスマホに電話がかかってきた。


 「着信 秋山優希」

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