第7話 秋山優希という男

 私、日高由衣は斎川直樹が好きだ。もちろん恋愛的な意味で。小学校に上がる前くらいにここに引っ越してきた直樹は、子供が少ないこの街で、私の一番の友達になった。小学生になり、喧嘩もしたし、直樹に腹が立つこともあったが、やはり最高の友人だった。

 だが、それは小学校低学年までだった。女子は男子よりも早く精神的に大人になっていく。つまり、恋愛感情にも早く気づく。恋愛感情というものに気づいてない直樹には、私のこの気持ちは気づいてなかっただろう。小学校高学年からは、直樹は私の片想い相手になった。小学生ながらに、今まで何も感じていなかったのに一緒にいるだけでドキドキしてしまう。こんな気持ちに少し、悩まされていた。それから、私は直樹と腕を組んだり手を繋いだりして、私を意識させようとしたが、効果はあまりなかった……。


 


 直樹と岡崎さんと一緒に下校した日の夜、電話がかかってきた。


 着信 秋山優希


何用かと思い、電話に出ると明らかにニタニタした声で


「ライバル、増えちゃったね。由衣っ」


一瞬、私の気持ちを誤魔化そうともしたが、そんなことをしたところで、優希には関係ないだろうと思ったので、そのまま会話を続けることにした。


「うるさいなぁ」


「由衣さんは、今日は3人で1つの傘に入るなんて、"仲良し"ですねぇ」


「ちょっと待って、なんでそれ知ってるのよ!」


どこからか見てた?直樹から聞いた?そうだ。直樹から聞いたとしか思えない。


「ちなみに、直樹には聞いてないよ。電話したのにアイツでなかったし」


もとから、優希が情報を集めるのが得意なことは知っていたが、こんなにとは知らなかった。人のいない限界集落でどうって情報なんて集めるんだろうか。まあ、そんなことはどうでもいい。


「優希はさ、岡崎さんのことどう思う?」


「ん、俺?俺的には、顔も好みだし全然アリかなぁ」


「あーそうなんだ。って!そういうことじゃないって!恋愛的にじゃなくて、あの人物についてよ!」


まったく、あのイケメンは…。顔はいいのに、性格がふざけてる。というか、ずっとふざけてる。人生楽しそうでいいけども。

そんなこんなで、彼と話しても埒があかなかったので、早々に電話を切り、自分と直樹の分のお弁当を作って寝た。



 

 次の日、俺は寝坊せず朝学校に行くことができた。バスの本数の関係上、俺と奏は同じバスで、車窓から差し込む朝の眩しい光や、少し肌寒い空気を感じながら、少し雑談して高校に行った。ちなみに、由衣は運動のために自転車で登校しているらしい。高校までは登り坂が多くかなりキツいが、一度やると決めたことは、やり遂げるタイプの由衣は一度登校して、辛かったくらいでは、へこたれないだろう。昨晩、一緒にチャリ通しないかという、なんとも迷惑なメッセージもスマホに来ていたが、あえて既読スルーしておいた。

 

 昨日、シャワーを浴びてる時に優希から電話があったようだが、重要な用なら、向こうからまた連絡が来るだろうと思ったので、折り返し電話をかけなかった。きっといつものようにくだらないことだろう。まあ、優希の話はなかなか面白いが。 


 学校に着くと、担任の朱音ちゃんによるホームルームから始まり、まだ高校生活2日目だというのに早速6時間授業だった。もともとそんなに勉強が好きじゃない俺からすれば、かなりキツいが、いつかこの村を出ることになったとき。いや、血の繋がりのある家族がいないこの村から俺が出て行くのは確実であろう。その時、それなりの教養が必要となるだろうから、勉強しているのだ。 

奏は、相変わらず誰とも話せず、先生たちも彼女を授業中に指さないから、何か知っていることがあるのだろう。昼休みにでも、聞いてみるか。

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