第3話 入学式への道
状況を整理しよう。まず、今の時刻が8時25分。登校時刻は最低でも8時30分。家から高校までは、バスで10分。だが、限界集落のパスは3時間に1本くれば良い方。お分かりいただけただろうか。
詰み☆
俺の高校生活、初日から遅刻。最悪とまではいかないが、良くないスタートだ。などと、考えてるうちにも時間は刻々と過ぎている。俺は急いでブレザーに袖を通し、支度を整えた。バスは8時には、出発してしまっているから、もう走るしかない。1つ言っておくが、俺は運動が全くできない。体力テストではいつも、ABCDEの五段階評価でEしか取ったことがない。つまり、走っても馬鹿遅い。もう諦めて歩くことにした。玄関を出ると、入学式の日にぴったりな青々とした空が広がっていた。向かいの家には車が止まっていた。車の中には岡崎さんと彼女の母親と思われる人が座っていた。すると、岡崎さんは俺がいることに気づき、窓を開けて話しかけてきた。
「斎川くん!おはよう!斎川くんも寝坊?」
と朝から笑顔で言ってきた。俺は
「そうなんだよ。初日からやらかしちまった」
と微笑んでみた。すると、彼女の母親も俺の方を向き、
「君がお向かいさんね。昨日はうちの娘が夜遅くに行っちゃってごめんなさいね。この子は人と話すのが本当に苦手なの。ごめんなさいね?あ!こんな話をしてる場合じゃないわ斎川くん。入学式に遅刻しちゃうわ。もうバスもないでしょうから、早く車に乗って!」
「え、いいんですか?ありがとうございます!」
と俺は答え、ありがたく乗せてもらうことにした。しかし、人と話すのが苦手とはどう言うことだろう。俺と話した時はそんな素振りも見せなかったのに。また、岡崎さんの母親は岡崎久美というらしい。
「久美さん、で呼び方いいですか?」
俺は聞いてみた。何故名前呼びにするということに至ったかと言うと、岡崎さんと言うと岡崎奏の方と呼び分け方がめんどくさくなるからだ。久美さんは
「うん。いいよ。そっちの方が仲良しに見えるしね!私も直樹くんって呼ばせてもらうね!」
と、優しい声で許可をくれた。久美さんは、とても若く見え、30代前半といったところだろうか。髪は奏と同く少し茶色がかっていて、ロング。後ろで緩く結んでいる感じだ。
「じゃあ私のことも、奏って呼んでね」
といきなり、岡崎さんはいう。流石に同い年の女の子を名前で呼ぶのは、隠キャの俺にはハードルが高すぎる。無理だって。恥ずかしいって。だが、心の中では呼ぶことにしよう。
「名前で呼ぶのはちょっと…なんというか…」
と誤魔化しているうちに高校に着いた。時間的には遅刻だが、先生たちも久美さんがいたことから、大目に見てくれた。
入学式を終え、ホームルームとなった。今年の高校1年生の数は7人。つまり、1クラスのみ。そのクラスのみんなの視線は勿論、奏だ。限界集落の高校に見たことのない女の子が入学していたら、そりゃ見るに決まってるだろう。見たことのない女の子がいることで、普段はよく喋るクラスメイトのみんなも今は誰も喋らなかった。俺の席は奏の1つ後ろの席なので、俺は奏に話しかけようとした。だが、その時、奏に話しかけた女子がいた。
「あなた、ここの町の出身じゃないよね?どこから来たの?」
そう話しかけた女子は日高由衣。凛とした雰囲気を漂わせる、みんなのリーダー的な存在で、容姿は誰もが振り向くような長く美しい黒髪だ。だが、奏の方は話しかけられた瞬間、奏の体はビクッと動き、固まった。これが、久美さんの言っていた「人と話すことが苦手」ということなのだろうか。俺は奏の代わりに何か答えようとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます