第7話
南軍が壊滅してから二ヶ月程が経ったある日、東軍領内にほど近い廃屋の外で『バチンッ!』と拳を打ち付ける音が響いた。
「怪我の具合はどう、葉神」
「バッチリだ問題ねぇ。これなら姐さんの足を引っ張らなくて済みそうだ」
怪我のあった所を擦りながら感覚を確かめる。真柴の治療とサクニャの献身な介護のおかげにより、今の樹は怪我をしていた二ヶ月程前と比べて動きのキレが冴え渡っていた。
「それはなにより。さて、もうすぐ雪華とレックスが戻ってくる頃だろうし俺も準備しておかないと」
この二ヶ月の間、樹たちは東軍と南軍の跡地、それから西軍の拠点付近にも赴き必要になりそうな物資を調達したり西軍の動向を探ったりその合間で行方不明になった梨鈴の捜索をしていた。だが、西軍の拠点は樹が調べに来た時には既にもぬけの殻、梨鈴の所在も掴めないままとなっていた。
「それじゃウチはもう準備が終わってるからちょっと皆に報告に行ってくる」
サクニャが少し離れた所へと歩いていく。そこには二つの石碑が立っており、それらにはそれぞれ南軍と東軍の亡くなった人達全員分の名前が彫られていた。
「皆……これからウチ等は北軍と合流する。だからここへ来るのはこれが最後になる。だから約束するよ――必ず西軍の奴らに勝ってくるって」
自らの信念を騙り終えると、サクニャは皆に背を向けて最後のお別れの言葉を言う。
「じゃあ行ってくるね」
「皆への挨拶は済んだのか?」
「終わったよ。東軍と南軍、両方の皆と後――
少しだけサクニャの顔が暗くなる。静野とは二ヶ月前に真柴とは別に生き残った南軍の一人なのだが、落ち延びてから数週間後――樹・レックス・サクニャ・静野の四人で東軍の廃墟から物資調達の際、西軍が率いる死人の兵の奇襲に遭いサクニャとレックスの目の前で死んでしまったのであった。
「そうか……っと、アイツ等が戻って来たみたいだ。二人から周辺状況を聞き次第すぐに出発するぞ」
「あーいあーいさー」
そうして雪華とレックスが戻って来た。雪華から周辺の状況を聞いた樹は、戦場を突っ切って北軍へ向かう旨を伝えた。
「それにしても~北軍も思い切った事してくれたよねぇ。唯一の通り道を塞いじゃうんだもん」
樹たちが安全圏であった岩壁の上から降りてまでわざわざ敵が出没する戦場を突っ切る事になったのは北軍が世界の外周の一部――主に北軍の領地周辺――を塞いでしまったからであった。
「しゃーねぇだろ……西軍の奴らがこんな高台まで追ってくるんだからよ」
「――あなた達、無駄話してるくらいなら早く出発した方が良いんじゃない?」
真柴にせっつかれるも、五人全員が揃うと一行は北軍へ合流するため移動し始める。
「そういえば樹の兄やん。ウチ等が向こうに行く事って伝わってるん?」
「それなら問題ない。三日ほど前に狼煙で俺達が北軍に行くと伝えたら向こうから使者を名乗る奴が来たんだ」
「狼煙って……兄やんそんなの使えたのね。でも、そんなんでよくやり取りができたね」
「向こうには姐さんがいたからな。一応、煙の色でおおよそのやり取りが出来るようなってんだよ」
「こんなんでもいつき君偵察部隊の隊長だからね~、情報の伝達ぐらい出来ないとも困るじゃないですかぁ」
この世界での連絡手段は短距離用の内線電話くらいなら四つの軍全てに備わっているが、遠距離と連絡を取るとなると携帯電話などという便利な物は存在しないので自ずと視覚情報で伝達に限られてくる。それを踏まえたうえで南軍は煙の色を使い分けることによって遠距離での意思の疎通が出来るのであった。
「そういえばそんな設定があったような。それでその使者の人はどんな人やったん?」
「設定言うなっ! ……ったく、そうだな、一言でいえば胡散臭い、だな」
「随分な言いようやにゃ――」
「仕方ないだろ、そう感じたんだから。とにかく! そいつが言うには今日開かずの塔の前で待つって言ってたんだよ」
「でも~なんでわざわざそんな所で待つんでしょうかぁ?」
樹とサクニャが話している中、雪華も話に入り込んできた。
「それって単純にあそこが目立つからってだけやと思うけど」
「かもしれんが……どうにもなんか企んでいる様な感じもするんだよな」
「わたしもあそこは調べた事はあるけど、中は何もなかったんだけどなぁ~」
「そういえばセッちゃんは幽霊だったっけ。普通に物を触ったりしてたからすっかり忘れてた」
「なんで忘れてるんですかぁ⁉ わたし常に浮いてるのに、それにほら透けてるし!」
「あっはっは……いやぁセッちゃんはいつからかっても面白いにゃ~」
必死に自分が幽霊であるアピールをするのだが、必死過ぎるあまりサクニャに指を指されながら笑われてしまっていた。
「はぁ……少しは静かにしてろよオマエ等。ただでさえこの辺りは何もないんだから騒いだら目立つだろ」
自分から会話を始めた手前、今いる場所を考えて欲しいとは思っての発言だったが、二人もうるさいのがいるのだから適当な所で話を切り上げた方が良かったと今更ながら思ってしまった。
「葉神の言う通りよ、少しは気を引き締めなさい。レックスなんてさっきからずっと警戒してるんだから」
そのレックスの顔を覗き見ると、険しい顔で遠くを見つめている。どうやら敵襲をいち早く察知できるよう視覚と聴覚をフル稼働させているようだ。
「そういう訳であんまりはしゃぐな。喋るなとは言わないがな」
「すんませんでした」
「わたしもゴメンね……騒ぎすぎてて」
二人がレックスに謝るが、当の本人は全く気にせずどころか本当に聞こえているのかも怪しいくらい無反応だった。
「おいレックス……周りを警戒するのはいいが謝った二人に無視を決めこむのはどうかと思うぞ」
「別に……俺は気にしていないから」
「そうかい」
自分への絡みが無くなると、すぐに警戒態勢に戻った。
「ねぇ兄やん。いつまでレッ君はあの調子なんやろか? 前の方が絡み易かっただけに正直しんどいんやけど」
「確かにそうですねぇ。でも仲間だった人が死んだり、死体だったとはいえあれだけ人を斬り続けたら普通の精神ではいられないんじゃないかなぁ?」
「別にアイツはそれが原因でああなった訳じゃ……いや、もうそれでいいや」
「なんなんその反応は」
「いや、気にするな。まぁアイツは過去に自分の両親を殺した奴の首を刎ねるような敵討ちをした奴だからな……」
「なんやそれ。人生ベリーハードモードが原因かいな」
「そういう過去があるならあまり深くは触れない方が良いかもね。少しずつ接近していく方が一番おかしな刺激を与えないだろうし」
真柴が自分の考えを述べる。その事に皆も納得しひとまず当たり障りない方向から接していく事になった。
「取り敢えず気にするなと言うのも無理だろうから今は暖かく見守ってればいいさ」
四人がレックスの事について会話している中、ただ一人その輪から外れたように辺りを警戒しているその話の中の主役は不意に足を止めた。
「あそこ……誰かいる」
目的地付近に差し掛かるとそこに誰かいることをいち早くレックスが察知する。そしてケープの中から剣を抜き出し、すぐにでも攻撃が出来るよう構える。
「待て待て、逸るな。アイツが北軍からの遣いだ、だからその物騒なモンは仕舞っとけ」
樹の言う事に素直に従い剣を収める。そしてその者の前へと樹は近づいていく。
「悪いな待たせちまって」
「いえいえ。そのような事はお気になさらず、そちら方々が南軍の皆さんですか?」
南軍を出迎えたのは青いアロハシャツの上からグレーの白衣を身に纏った青年であり、樹がいう所の胡散臭いという評価はこれが原因の一つだろうと考えさせられる格好であった。
「ああ、そうだ」
「では本人確認という事で自己紹介をしてもらってもよろしいですか? なにせ今のタイミングでスパイの類が現れると困るので」
そう言ってその男はポケットから一冊の手帳を取り出す。恐らくは海織とミシェから名前と特徴が書かれたメモの様な物を渡されたのだろう。
「随分な念の入れようだが仕方ない。俺は前にも名乗ったから知ってると思うが、葉神樹だ」
「ウチはサクニャ=キッツェルや」
「わたしは雪華・コルティーネです~」
「真柴
「――レックス」
全員が自己紹介を終える。男は手元のメモを見ながら五人を吟味するように眺める、そして――
「どうやらアレとは関りがなさそうですね。――っと、皆に名乗らせておいて僕の名前はまだでしたね。僕はユリウス・カレイトス、しがない技術者です」
自らを技術者と称したその男はうやうやしく礼をした。南軍では上位の立場にある樹や雪華にならともかく、戦闘員ですらないサクニャや真柴、それどころか子供であるレックスに対する行動として見ると些か大仰に映る。
「ではお互いの紹介も済んだことですのであなた方を北軍へと案内します。こちらへどうぞ」
ユリウスが歩き出す。だがその方向は北ではなく南と、真逆の方角へと向かい出す。
「あれ? そっちは反対方向ですけど……道に迷いましたか~?」
「流石にそんなアホみたいな事はないでしょ。多分秘密の抜け道かなんかがあるとウチは睨んだ!」
するとその会話を聞いていたのかユリウスが種明かしをする。
「その通りです。この先にはあなた方が南軍の拠点として使っていた建物を造るときに資材運搬用に使われていた地下通路があります」
「ま~さか本当にそんなのがあるなんて思わないって普通」
歩きながらユリウスが解説を挟んでくる。そしてとある岩の前までやってくるとおもむろにその岩肌のへこみ部分を掴む。
「そしてここがその入り口です」
掴まれていた岩肌を引っ張ると扉のように開いた。そこには先を見通せない程の深い闇が広がっており、灯りが無ければ到底進めなそうな雰囲気であった。
「ず、随分と暗いですねぇ……。ゆ、幽霊とかでないですよねぇ?」
「なんで幽霊が幽霊を怖がるの⁉ ウチからしたらこれ以上は増えて欲しくないにゃ!」
幽霊を怖がる幽霊少女と、幽霊そのものを怖がる少女二人の足が竦んでいる。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ほらこの通り……電気は通っていますから」
二人を安心させるように地下通路の説明をする。そしてそれを証明するように灯りをつけた。
「おおっ、眩しい! ありがたや文明の利器」
サクニャが壁面に取り付けられたライトに向かって拝む。それと同様に雪華もライトに向かって拝んでいた。
「……何やってんだアイツ等」
「さぁ? 灯りがあるのが嬉しいんじゃない?」
そんな二人を尻目に突き進んでいく。そうして少し歩いていると線路が現れ、そのすぐ傍にはトロッコが鎮座していた。
「では皆さん、これに乗って下さい」
「まさか地下にこんなものがあるとはな。雪華も幽霊なら地下に潜って見つけて来いよ」
「そんなの無理に決まってるよぉ! こんな暗い所なんて怖くて行けないじゃない!」
「無理な理由ってそこなのね……」
暗闇を怖がる幽霊に真柴が呆れる。そんなやり取りをしつつ全員が乗り込むのを確認するとトロッコを発進させる。
「ここから北軍まではおよそ三十分ほどかかります」
「分かってはいたがやっぱり時間がかかるな」
「――それにしても~、こんな便利な物が南軍まで続いていたなら姉御がおかしな苦労をすることもなかったんじゃないかなぁ~?」
ユリウスが語ったこの南北の拠点を繋ぐ地下通路、確かにこの様な物があるのなら海織は大変な思いをすることなく北軍に辿り着けただけでなく、章仁が向かう事だって可能だったはずだ。だが、北軍はこれを今になって使ってきた事に疑問を覚える。北軍に戦闘の意思があろうがなかろうがこのアドバンテージを活用しないのは余りに不自然だからである。
「確かに海織さんは大変な苦労を負って僕たちの所に来ましたね。ですがこの通路、道が塞がれてしまっていて開通したのが最近でしたので」
「塞がれたって……? ――ってー事はなにか、何者かによって意図的にこの道を使えないようにされたって言いたいのか?」
「そうなりますね。現に道が塞がっていることが判ったのは半年前でしたので」
「半年前? ワタシ達がここに連れてこられた時よりもさらに一か月も前からここにいたのかしら?」
「随分とおかしな事じゃねぇの。そこんところどう説明してくれるんだ?」
ユリウスの襟を掴み、思い切り顔を近づけて威嚇するように聞いて来る。それに対しユリウスは涼やかな顔で樹の手首を掴んで切り返す。
「いろいろと聞きたい事・気になる事はあるでしょうからまずは僕の話を最後まで聞いて下さい、質問はその時に纏めて聞きますので」
「――そうかい、分かったよ。じゃあとっとと話してくれ」
掴んでいた襟を放して、樹はトロッコの縁へと腰を下ろす。態度こそ悪いが一応の納得はしたようである。
「では、お話しましょう。まずはこの世界について――」
ユリウスはそっとトロッコの座席に腰かけると、膝の上で肘を突きながら手を組んで語り始める。
「あなた方も既にご存じでしょうが、この世界はあなた方がいた所とは別の次元・別の理に位置しています」
「いや、それは知ってるから⁉ そうじゃなくてもっとこう――むぐっ!」
「はいはい静かにしてようかサクニャさん。それじゃ続きをヨロシク」
このまま発言させたところでユリウスの話が伸びそうなだけなので、樹は無理やりサクニャの口を塞いで話の続きを促した。
「――では続きを。この世界と言うのは元々軍事演習を円滑に行うために用意された場所でした」
「なるほど……妙に戦うのにおあつらえ向きな場所があると思ったらそういう事か」
「ええ。ただこの世界では収容できる人数に限りがあるという弱点がありまして、同時にこの世界で活動できる人数は二百人――それ以上はこの世界へ降り立つことが出来ないのです。――さて、これがこの世界におけるルール及び存在理由ですが、そろそろ聞きたい事がおありでしょう?」
ここでいったん区切りとして樹達に質問を促す。もっとも、そんな気遣いなどされずとも尽きない疑問を晴らす為にキッチリと樹は問い詰めるのだが。
「まずこれだけはハッキリさせなきゃならんが……アンタは敵ではないと思っていいんだよな」
「こちらはその認識でいましたが……何がお気に召さないので?」
「なんでも何も、なぜオマエはこの世界に関してそれだけの事を知っている? この巫山戯た戦争の主催者かそれに近しい奴でなければそんな情報は出てこないんじゃないか」
「ほぅ……? どうやら僕がその主催者だと疑っているみたいですが少し浅慮なのではないですか?」
「主催者とかじゃないのならオマエはナニ者だ? それを明らかにしてくれなきゃ疑われる一方だぜ」
見た目に言動――それだけでも胡散臭さが滲み出ている上さらにこの戦争のただの参加者では到底知りようのない情報がユリウスをさらに疑わしく、そして胡散臭さを増している。
「ふっ……そうですか。ではこういうのはどうでしょうか、僕はここの管理者であると」
「管理者ぁ~? いやいや、管理出来てねぇじゃん! 仮にアンタが管理者様だとして俺達と接触した理由はなんだ? いくら聞こえの良い言葉を並べた所でそれが信じるに値するかどうかを証明しろと言ってんだ」
ユリウスは核心を言及するのを避けるかのように遠回しにしたような言い回しをし、樹はストレートに物事を語らないユリウスにイライラする。故にユリウスと樹の言葉は交わらず、余計にユリウスへの不信感が膨れ上がってくる。
「なぁなぁセッちゃん、なんでこんなにも二人は噛み合わんのやろ?」
「う~ん……いつき君は二回もスパイにしてやられてるから、その所為で疑り深くなってるんだろうねぇ~。ユリウスさんがあそこまで遠回しに煽っている理由の方は分からないけど」
付き合いの長さからか樹の様子から雪華はユリウスに煽られている事を確信する。だがこれから共同戦線を張ろうという相手を前にわざわざ煽るという行動をするユリウスの事はサッパリ分からない。
「ふむふむ、そういう反応をするのですね貴方は」
「なに訳の分からんことを言ってる」
樹の対応になぜかユリウスは品定めをするかのような表情で見つめ、そして必要な事は全て終わったと言うかのように納得をする。
「煽り耐性が少し低いようですが状況判断能力は悪くなさそうですね――合格です、葉神樹クン」
「は、はぁ? いきなり何言ってんだ合格とかなんとか。俺の話を聞いていたのか?」
突然、意味不明の合格を貰った樹は当然のように混乱するが当たり前だ。当事者であるユリウス以外は会話の前後が繋がらない出来事について行けず、そんな中で分かることもユリウスという男は『全く読めない』という事だけ。
「あぁそういえば信じるに値するかどうか証明してみせろと言っていましたね。これを見たらあなたも納得出来るのでは」
どうにも人の話を大して聞いていないユリウスはそう言って白衣のポケットから取り出したの細緻な彫り込みがされた懐中時計であり、蓋を開くと目に飛び込んでくるのは針の止まった文字盤と蓋の裏に付いた一枚の写真であった。その写真には中央にぶすっとした表情の年端のいかない少年。その少年の左には写真越しでもなお気品を感じられる少女。そしてその女性の後ろで目を瞑った状態で立っているメイドの女性。最後に少年の右後方に見切れた顔だけ移っている恐らく男性の四人で撮った集合写真があった。
「おっと間違えた……これは僕のプライベートな写真であなた方には関係ない物でした」
おかしなところで見切れている以外は何の変哲もない写真。それを仕舞おうとした時、写真に熱い視線を送っている男がいる事に気付いた。
「…………」
「どうしたん兄やん? いったい何を見てるのかにゃぁ?」
サクニャが樹の顔を覗き込むとその視線は写真の中のメイドに向けられていた。
「兄やんが見つめる先はメイドさん……。はっ! もしかしてメイドフェチっ⁉」
「ちっ、違う! そんなんじゃねぇ――おい、ユリウス! この写真、いつ撮ったものだ!」
樹は写真に写った男ではなくその傍にいる女性について問いただしていた。それも、この中で一番付き合いの長い雪華ですら見た事が無いような剣幕で。
「そうですね……五~六年前という所でしょうか」
「五~六年前……? 本当だろうな」
「えぇ本当です。何か写真に問題でもありましたか?」
「そうだよぉいつき君。この写真になにかあったの?」
「いや……そこに移っている人が俺の知っている人の若い頃にそっくりだったんだが、どうやら俺の勘違いだったみたいだ」
樹が言う知り合いは今から十年程前に亡くなっていたため、この写真の人物については樹の勘違いだったという事で自己解決した。
「どうやら満足したようですね。えーっと……あぁこっちでした」
懐中時計をポケットにしまい反対側のポケットから本来の出すべき物を取り出す。それはまたもや懐中時計ではあったが、さっきの物と比べて非常にシンプルなデザインだった。
「また時計かよ……で、それがなんだってんだ」
「よくご覧になっては如何ですか?」
そう言ってユリウスは樹に懐中時計を手渡し、樹もまたそれを観察する。そしてただの懐中時計だと思ったのだが時計の裏に何か妙な手触りを感じた。そこで時計を裏返してみるとそこには彼がもっとも見たくない――ある名前が刻まれているのであった。
「ウソ……だろ? なんでここに姉貴の名前があるんだよ……」
「それは僕が彼女からこの世界を譲ってもらった時に管理者の証として頂いたからです。ちなみにその時計はどこに居ようと現在の標準時刻が分かる優れものです」
懐中時計の裏面にはAdministrator-Aroe Hagami(管理者 アロエ-ハガミ)と彫られており、トドメとばかりに蓋を開いてみるとそこには自分のよく知る人物が目の前の男と一緒に移っている写真が貼ってあった。
「…………チッ! こんなもん見せられたんじゃもう何も言い返せねぇじゃねぇか」
「えっ……と……ウチ等には何のことかサッパリ分からんけど良いの? あの人は信頼できる人だと考えても」
「あぁ、良い。姉貴の知り合いだってんなら信頼も出来るしなにより……そんな奴を無下に扱ったと姉貴に知られたら俺の命が危ないからな!」
「うわぁ……ダサいなぁいつき君」
「ホントにね」
「むしろ情けないとも言うわね」
女性陣から総スカンを喰らっても樹はそんな罵声など意にも介さない、いや――姉であるアロエからこの先受けるかもしれない仕打ちに比べたらこの程度など傷と呼ぶには彼には温すぎるまであった。
「さて、何やら面白い事になりそうな予感がしてきましたが僕からあなた方に伝えられるこの世界の話はココまでですね」
「あら、もうお終いなのかしら? これから面白くなりそうな予感がしたのだけれど」
「えぇ、もともとはあなた方が僕の追ってる組織と関りがあるかどうか――それ以外に今後取り込まれる危険があるかどうかを調べるのが目的でしたので。それまでの話はそこから目を逸らす事と時間つぶしというだけでしてね」
「まぁこっちからしたら訳も分からず嵌められた感が強いがな」
今いる所がトロッコの上で且つ姉の関係者で無かったら樹はユリウスの事を張っ倒すぐらいに彼の言動に辟易していた。そして、そんな負の記憶を覆い隠すべく樹はユリウスに対しある人物の事を尋ねてみた。
「……そういえば話は変わるが、お前は梨鈴という奴の情報を持っていないか?」
「確かに話が変わりましたね。それで、その――梨鈴さんという方はどのようなお方なので? それが分からなければ僕も協力が出来ないのですが」
どうやら協力はしてもらえるようで、樹はサクニャに向けて目配せをする。『今度はオマエの番だ』と言うように。
「あ、えーっとリリっち――じゃなかった、梨鈴の特徴なんだけど……キャベツみたいな緑色のベリーショートで紺色の学生服を着た150センチぐらいの女の子なんやけど」
「ふむ……名前だけなら海織さんから頂いたリストにはあるので存じていましたが、所在まではこちらも確認できてはいませんね」
「そうか……見てないか。ホントどこに行ってまったんやろ、リリっち」
求めていた情報が手に入らずサクニャは落ち込んでしまう。
「そう落ち込まないで下さい。大きな戦いが起こればその梨鈴さんも飛んでくるでしょう」
「うーん……確かにリリっちならそんな事が起これば飛んでくるとは思うけど、でも――起こるんかそんな戦い」
「えぇ起こります。というより起こします。結局の所、綺麗ごとを並べ立ててるだけでは僕たちは前には進めませんので」
ユリウスのその言葉は近いうちに戦いが起こると言っていいも同然だ。本来ならそんな事などしないで梨鈴を見つけ出しておきたかったのだが、もうそんな状況はとうに過ぎ去っていたのである。
「そろそろ到着するころですね。それでは皆様、もう間もなく到着いたしますので会話はお控えいただきます」
あと少しで到着する旨を伝えるとユリウスは皆に会話はしないようにと伝える。だがそれに待ったがかかる。
「まだだ――まだおまえは答えていない事が一つある」
「おや……? あなたは確か――レックス君、でしたか。それで僕は何を言い忘れていると?」
「一番初めに有耶無耶にしたこと。なんでおまえは一ケ月も早くこの世界に居たか、それをまだ話していない」
「なんだそんな事ですか。まぁ隠しておくような事でもないですけど、北軍とは元々とある組織に対抗するために集められていまして、あなた方と僕達とでこの世界に居る期間が違うのも当初は単なる軍事演習の最中だったからです。これで納得いただけましたか?」
「大丈夫だ、もういい……」
ユリウスの言い分を聞いたが、反論の余地を挟めるような不審な点はどこにも無いため特に食い下がることもなく納得した。
「では僕への不信感もおおよそ無くなった所であちらをご覧ください」
そう言ながらユリウスが前方を指し示す、そこには暗がりの中ひときわ強く輝いた場所があり終点が近づいている事を表していた。
「あそこに見えますのは我が北軍の城門前駅の降り口となっております」
ツアーガイドの様な言い回しで紹介をするそこは、近づいていくごとに全貌がはっきりしていき、トロッコが完全に止まった時にはユリウスが駅と評するだけあってごくごく普通の地下鉄のホームとそっくりな場所であった。
「到着しました。ようこそ我らの要塞へ、歓迎いたします南軍の皆様」
ユリウスに促されるままホームに降り立ち階段を上っていく。そこは本人が要塞と言うだけあって外敵の攻撃を悉く受け止められるほどの堅牢な壁が何重にもあり、とてもではないが正面からの侵攻は不可能だといえた。
「随分とまた立派な事で。後はお出迎えのイベントがありそうなもんだが……アレがそうか」
樹の視線の先、城門が静かに開きそこから三人の男女が歩いて来た。そしてその内の二人は樹たちを視界に収めるや否や走り出してきた。
「お久しぶりですわね皆さま。サクニャも……無事でよかった」
「ミッこ! 大丈夫、ウチはそう簡単に死なんよ。それと言いづらいんだけどリリっちが――」
「存じていますわ、経緯はそこの性悪男の所為で知っていますから」
ミシェがユリウスの事を睨みつける。ついさっきした話を彼女が知っていることを考えると多分あのトロッコには盗聴器か何かが仕込まれていたのだろう。
「樹さん。ケガはもう大丈夫なんですか」
「問題ねぇよ。そこのババアのおかげで全快さ」
「だれがババアですって……? 悪いのはその脳ミソかしら」
笑顔を湛えながら怒りを滲ませ、いつの間にか持ったメスを両手ににじり寄っている。
「――相変わらずですね、あの二人は。それと…………久しぶりだねレックス君」
「ああ、そうだな」
「トロッコでのやり取りはあたしも聞いてたけど随分愛想が無くなっちゃたんだね。どこかの誰かに似てきたかな?」
以前のレックスに見られた小動物的な仕草は鳴りを潜めてしまい、そうなってしまった原因は分からないが誰の影響を受けたのかは言葉の端々にあの男の影がちらついている。
「あの……皆さん? お仲間と再会できた喜びは分かりますが、こちらの方を紹介させてもらってもいいですか」
若干笑顔が引きつった状態でユリウスは一人の男に注目させる。
「こちらの方は北軍の総司令官。レンズ・ダイゴロウです」
「紹介に預かった蓮豆大五郎だ。今この世界は西軍とそうでないものに二分している。諸君らの力を貸してもらえるだろうか」
威厳のある顔つきに膨れ上がった全身の筋肉、さらにスキンヘッドもそこへ組み合わさり、皆をまとめ上げるという役割にそぐわない様相を呈していた。
「蓮豆……大五郎……? あーーー!! お前あの時のハゲ!」
「むっ? そういうお前は南軍の狂犬か」
「えっなに? 二人は知り合いなの」
樹と大五郎。接点がなさそうに見える二人なのだが、意外と接点があったようで海織だけならずユリウスも驚いていた。
「――どこで知り合ったんですか、レンズ」
「お前がここに乗り込んでくる前の事だったから三ヶ月程前の事か。そこの狂犬とは開かずの塔の近くで三日三晩殴り合ったという関係だけよ」
「三日三晩って……そんなことしてたんですかイツキさん」
「仕方ないだろ、猛獣のような眼で俺にガンつけて来たんだ。それならもうやる事は決まってるだろ」
「呆れた方達ですね。ですが殴り合っていたならむしろ好都合です、実力は申し分なかったのでしょう?」
「ああ、少なくとも足は引っ張りそうにないな。では南軍の者達よ、少々待ってて貰えるか、今より合議を始めるのでな」
「誰が足を引っ張るだとおっ!」
「まぁまぁ~抑えて抑えて~」
雪華と海織が今にも掴みかからんとしている樹を止めてなだめようとする。どうにかこうにか拳だけは引っ込めさせると合議なるものが始まった。
「よし、これで全員揃ったな」
北軍総勢八十人ほどが城門前の広場に集合した。
「ではこれより合議を開始する! 議題はもちろん西軍に関してだ。我が軍は一週間後に西軍へ攻め込み中央の塔を奪取する。その件について反対意見のある者はいるか!」
「なにか始まったにゃ……」
「初めて見ると驚きますでしょう。これは軍の全員を集めてより良い方法がないか模索したり、作戦について欠陥がないかを洗い出すのですわ」
「南軍もこうだったらあたしもハブにされずに済んだんだけどな……」
後ろで何かブツブツと言っている海織をよそに、状況が分かっていないサクニャ達にミシェが解説する。
「まぁ、なんとなくは見てて分かるが……塔の奪取ってどういう事だ?」
「あなた方が開かずの塔と呼んでいた場所ですが、今は西軍の拠点となっていることが判明しています。そしてわたくしたちもここに来てから知ったのですが、塔の頂上はこの世界から出る為の門があるみたいですわ」
「他世界への門? という事はそこを通って行けばここから出られるという事か」
「残念ながらそう事はうまく運びませんわ。ユリウスさま達の作戦では門は破壊するという事になっていますので」
「おいおい……ここから出ようってしてるのにまるでやる事が正反対じゃないか」
「話は最後まで聞いて下さいな。頂上にある門というのはどうにもユリウスさまの怨敵に関わる所に繋がっているみたいなのです」
ミシェから理由を聞くと、ふとあの地下通路でユリウスが言っていた事ある部分を思い出す。
「そういえばあの男、どっかの組織に対抗してたみたいな言い方をしていたが……話の流れからするとソイツに繋がっていく訳か」
「恐らくはそういう事でしょう。そしてユリウス様は外の世界からこの世界に囚われた方々を救い出すため行動していたようですが、いろいろと妨害にあったらしくこちらの世界に来られたのはつい最近なのですわ」
「なるほど、最近まで介入できなかった理由は理解した。だが、それでも最低限姐さんにサクニャ、それにミシェを元居た世界に戻すくらい出来るだろ?」
「えっと……それは……」
理由を聞かれてもミシェは個人の込み入った考えまでは把握していないので口籠ってしまう。
「それは僕のほうから説明しましょう」
「あっ……ユリウスさま……」
ミシェの様子を見かねたユリウスが二人の間に割って入る。
「この世界から出ようと思えば出ること自体は可能です」
「……⁉ じゃあだったら姐さん達を――」
「人の話は最後まで聞いて下さい。この世界から出してあげる事は出来ますが現状どの世界に出るかは僕にも分かりません」
「分からない……? それに現状って事は何か条件があるのか?」
「えぇ、ありますよ。あなたもご存じの開かずの塔――あそこの最上部には異世界に続く門がありますが、それが僕の他世界への転移を妨げているのですよ」
「戦わずに済む方法は結局の所は無いわけか……」
海織やレックス、それにミシェやサクニャなどの戦争などというモノを経験させる必要のない者達を遠ざけようと考えたものの、ユリウスによるとそう上手く事が運ばせてはくれないようで、樹は落胆した。
「ふふっ……見かけによらずお優しいのですね葉神さんは」
「なっ……⁉ ち、違げぇって。ただ目の届かない所でなんかあったら寝覚めが悪いだけだよ」
その落胆していた様子をミシェにからかわてしまった樹は平静を装うと取り繕うも、周りからの温かい眼差しの前では冷静な返しをすることなど出来なかった。
「クソっ、ミシェめ……いつかぎゃふんと言わせてやる」
「……そんな怖い顔でおっしゃられてももう貴方に威厳など無いですわよ?」
ジト目で樹を見返しながら呟くミシェは、最初から彼の事を唯の強面の人としか認識していなかったのでさして効力はなかったようである。
「――ああそうだ、そう言えば一つ聞き忘れた事があったな」
「おや? まだ何か説明し損ねた事がありましたか?」
「そういう訳じゃないんだ、ただ気になってな。どうしてお前は西軍がいると分かっている塔を待ち合わせ場所にした」
「ああ、確かにそれは僕の事情を知らなければ不思議に思いますね」
そう言ってユリウスは自身の眼を指さす。
「その眼がどうした?」
「僕はこの眼で見た魔術を六割ほどまでですが模倣することが出来ます。あそこを待ち合わせ場所にしたのも塔の下だと分かりやすいというだけではなく、色々と相手方の動向を見ておきたかったのですよ」
「魔術の模倣ねえ……六割ほどまでとはいえ模倣されると確かに困りもんだな」
魔術とは自身の持つ知識と神秘の塊である。それを一目見ただけで模倣されるという事はつまりユリウスの前で魔術を使う事は自身の秘密を明け渡しているのと同義ともいえる。
「……とは言え、オマエのその言い分だと俺達が餌みたいにも聞こえるんだが?」
ユリウスの秘めたる力に関心こそした樹だが、そんな彼の行動に多少なりとも疑問が生じる。あれではまるで自分達は相手の出方を窺う為に体よく呼び出されたのではないかと。
「また随分と意地悪な言いようですね。まぁ餌扱いとまではいきませんが貴方がたを多少なりとも僕の思惑に利用したことは否定しませんね」
「……付き合いこそ短いですが、やはりそういう方だったのですねユリウスさまは」
――と、出会って二週間そこそこ位のミシェに普通に理解されてしまう程度にはユリウスという男は信頼が無く、同時に誰もが感じる胡散臭さを放っていた。
「生き残るためですからね、利用できるものならなんでも利用しないと」
「それは……その言い分は理解できなくもないですが、だからって何も説明せずに他人を巻き込むのはどうかと――」
「ちょい待ち嬢ちゃん」
ユリウスのとっていた行動を知ると、ミシェは段々と憤りを露わにしていくが感情が爆発してしまう前に樹によって遮られた。
「離してくださいませ、樹さん! わたくしの親友が危険に晒されたとあっては文句の一つも――」
「分かってる。だから――少し黙っててくれないか」
あまりにも乱暴な物言いで怒りの矛先が樹に向かうが、彼の顔を見た瞬間その怒りが霧散してしまった。なぜなら――
「おや? 貴方なら僕の考えに賛同してくれると思っていましたが」
「勝つためになんでも利用する事には異論はない。だが、戦いに無関係な奴を巻き込むのは認めるわけにはいかないんでね」
ミシェの前に立った樹だが、その視線はユリウスをまっすぐ見つめており、否――視線で射殺しかねない程ユリウスに怒りを向けていたのである。
「そんなに怖い顔をされても困ってしまいますね。ですが、勘違いの無いよう申しておくなら、僕だって無用な犠牲を強いる事はしたくはありません」
「じゃああの時の事はどう説明をつけてくれる?」
「……説明するまでもありません。あの場で襲われたところで僕は誰も傷付けさせずに敵を撃退できると自負していますからね」
樹の視線真っ向から受け止めてユリウスもまた樹を見つめ返す。そのユリウスの瞳の奥からは揺るぎない自信がありありと溢れ、本人の言う通り例えあの時敵の奇襲があったとてサクニャ達に被害が及ぶ可能性など存在しえないであろう。
「――クソッ! そこまで自信たっぷりに言われたら認めそうになるじゃねぇか」
「あぁ……完全には認めた訳ではないのですね」
「ったりめぇだ、誰がこんな奴を――」
スパァン!!
「すぐに認められるんだよ」
「きゃっ!」
ミシェと喋りながら不意に動いた樹が発した音。それは話をしていたミシェが一切の反応をする間もなく放たれ、その音の発生源は樹の拳とユリウスの掌からだった。
「随分と手荒い事をしますね。……それで、僕の実力はどうでしたか? それを確認したかったのでしょう?」
「嫌味な奴だねぇ、まったく……。取り敢えず自分の強さに自信があったってのは認めるが」
先ほどユリウスは自分さえいれば誰にも危害は加えさせないと言った事、それは樹が不意打ち気味に放った拳が容易く見切られたうえにその一撃は全く手加減をしておらず、正面から受け止めれば少なくとも無傷ではいられない筈なのだがそれをユリウスは涼しい顔をして受け止めてみせた。このことから少なくとも実力に関してだけは最低限信じられるだろうという結果に落ち着いた。
「お褒め頂き光栄です。他に何か聞きたいことがあれば僕の部屋に来てください。あとは……ご入用の物などあれば
必要な事だけ言うとユリウスは自分の部屋へと戻って行った。
『では、これにて合議を終了する』
「ん……? 向こうも終わったみたいだな。さて、と……ならユリウスが言ってた奴を探してみるかな」
蓮豆の合議が終了したようで、それに参加していた人達はまばらに解散していく。それを見て樹は適当に歩いている人を捕まえて千戯の事を尋ねてみた。
「千戯……? さぁ……どこに居るのかは知らんなぁ……」
「あぁ、そうか。いや、悪かったな時間取らせて」
千戯白慈――その名は十人に聞けば十人が知っているのだが、どこに居るのかと聞いてみてもあくまでその存在を知っているというだけで、この北軍の領内のどこに居るのかまで知っている人には出会えなかった。
「あんのクソ野郎……なにがご入用の物があれば千戯白慈を頼れ、だ! そこまで言うならソイツがどこに居るのか言っとけよな」
誰に聞いても同じ答えしか貰えず、しかも誰もどこに居るのか知らないとなれば樹のフラストレーションも溜まっていく一方だ。
「人様の領内で随分と荒れているな、狂犬」
「テメェは……筋肉ダルマか」
「蓮豆大五郎だ。自己紹介はしたはずだが」
樹に声をかけたのは先程まで合議を取り行っていた大五郎であり、樹の行動を見かねたのか接触をしてきた。
「こんな所で何をやっている。ミットシェリンに言えば部屋に案内してもらえるはずだが」
「別になんもやって……いや、ちょうどいいや、聞きたいことがある」
「む……? 一体なんだ」
「いや、さぁ。千戯ってやつがどこに居るのか聞いて回ってたんだが、誰も知らないって言うんでな。アンタなら知ってるんじゃないかと――」
「確かに知っているが……そうかユリウスが教えたのか。なら、場所は教えよう」
そう言って大五郎はとある通路を指し示していた。
「あそこにある通路を左手伝いに行けば白慈がいる部屋へたどり着ける」
「おぉ、そうかっ! あんがとよ、筋肉ダルマ!」
「だから蓮豆大五郎だと――行ってしまったか……」
名前の訂正をする前に樹は通路の奥へと消えてしまっていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます