第5話

「皆と一緒に勉強をしていた祝英台君は、

実は女の子だったんだ」


書生達がどよめいた。


「この度、

彼は、

あ間違えた。

彼女は、

上虞ジョウグのご実家に戻って花嫁修業をすることにされたそうだ」


柔らかな風に乗って薔薇の匂いが教室の中に漂う。


教室の外の海棠の花びらが

柳老師の鏡のような髭に舞い降りた。


「祝君は女の子なのにあんなに優秀なんだ。

みなさんは男の子なのだから、

祝君に負けないよう頑張るように」


窓の外の八重桜は花火のように咲き乱れている。


机の上の陽が当たってちらちらとした所に、

桃色の影が落ちていた。


池をツツジとサツキが囲んでいた。


梅色、

桜色、

八重桜色、

桃色、

紫色、

すみれ色が順番に植えられている。


低く生えた桃の木が水面に映っている。


重なるように浮かぶ濃い緑の、丸い葉の上で、

ぽつぽつと真っ赤な睡蓮が花開いていた。


合間を赤と黒の鯉がすらすらと泳いでいる。


群生した水仙が鯉をのぞきこんでいた。


水辺の鈴蘭が強い香りを飛ばし、

僕の鼻の穴をしっとりと触る。


窓際の仲良く並んだ二輪の芍薬は、

すっかり打ち解けた様子で

薄衣のような幾重にも重なる花びらをすべて開いていた。


淡い黄色の花芯を露にし、

喋々喃々ちょうちょうなんなんと語り合っている。


つがいの青アゲハが教室に入ってきた。


二匹は手をつないで踊るようにぴったりとくっついて、

ころころと回りながら

縦横に宙を舞っている。


翌朝僕は鳥になって上虞ジョウグへと飛んでいった。

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鳥になって会いに行く|祝英台と梁山伯|気になる女顔の優等生は男装の麗人でした 宇美 @umi_syosetsu

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