第53話・おまえが黒幕か?
「おまえが黒幕か? おまえは人間にしては尋常じゃない気を纏っている。神気をまとうおまえは一体、何者だ?」
「さすがは英雄ヴァハグン。この者に擬態している私を感じ取ったか?」
ヴァハグンの指摘に、マロフ公爵は口角を上げた。それが不敵の笑いに思えて将軍は後退った。尋常で無いものを感じたのだ。
「相手として不足はない。拳で語り合おうではないか?」
「私は、醜い争い事は苦手でね。海上戦でケリをつけようじゃないか」
「別に構わないぞ。うちのは陸でも海でも負けてないからな」
「これだから無骨な男は嫌いだよ。戦いとは美しく無いとね」
マロフ公爵は微笑む。海の上に綺麗な女達が浮かんできた。その美しい女達に見惚れる男達を見て、ヴァハグンは危険を察した。
「あいつらはマーメイドだ。いかん。やつの声に魅了されたら海の中に引き込まれるぞ。今すぐ耳を押さえろ!」
ヴァハグンの指示に、皆が耳栓をしたり両手で塞ぐ。
「あいつらの声を聞くな──っ。船を出せ──!!」
ヴァハグンの警告に、彼女達の美しい歌声が被さった。その場から遠ざかろうとした帝国の船に歌声が覆い被さってくる。皮肉にもイディア公国側にも、マーメイドの歌声を聞いて魅了された男が出たらしく、数名海の中に落ちていった。海の中に落ちてきた男達にマーメイド達が群がる。
それは餌を前にした魚のようで、マーメイド達の尋常でない目つきを見て、男達は悲鳴を上げた。
その場を後にしようとした船にイディア公国の船が衝突してきた。見れば向こうの船の舵は誰も取っていないようだ。恐らく海の中に落ちたのは舵取りをしていた将校らしかった。
「あいつは何を考えてやがる?」
裸眼で相手の船の動きを確認していたヴァハグンは独りごちる。味方の船に害が及んでもマロフ公爵は平然としていた。
「さすがは英雄ヴァハグン。マーメイドごときの歌声には反応しないか。ではこれではどうかな?」
マロフが指を鳴らすとマーメイドは消え失せ、代わりに多くの頭を持つ大蛇が海面に姿を見せた。
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