第52話・英雄の怒り
「まさか勝手にアイギスさまは……?」
「こっちとしては公国側が総意の上、容認したようだと聞いている。随分と舐めた真似をしてくれると思ったが?」
「滅相もない。公国側としては後日報告があったのみで……アイギスさまは婚約者を変更されてその上、すぐにご結婚されてしまいましたので、我々としてはお相手の御方が身籠もられていたのではないかと疑った次第です」
「つまり貴殿らにも何も知らされてなかったのか?」
「はい。私達が耳にしたときには、アイギスさまは別の御方とご結婚されておりました。なぜヴァハグンさまのご息女ではなく、帝国の皇女さまと婚姻となったのかもそれについて説明はありませんでした」
「アイギス。おまえって奴は、本当にクズだな」
「……」
「アイギスさま。どういうことですか?」
「済まない。私が至らなかったせいだ。あんな女に夢中になったばかりに、許婚を欺いて浮気した。ヴィナールが何も言わないことを良いことに、自分達を正当化し、婚約破棄を求めて彼女を傷つけた」
「将軍さんよ、そこのクズはな、自分の父親が囚われの身となったことで、厚顔無恥にも元許婚のいる国に助けを求めに来たんだ」
救いようがない馬鹿だろうと、ヴァハグンはせせら笑い、将軍は顔色を変えた。
「俺は許せねぇんだよ。そっちから娘を婚約者に求めておきながら、英雄さまの娘を娶るのは恐れ多いだと? 随分と馬鹿にしてくれた話だ」
「……」
ヴァハグンの怒りを前にしてアイギスや、将軍は何も言えなかった。
「そこのクズは喜んで返してやる。その代わりそこのクズの父親に会わせろ。ぶっ飛ばさないと俺の気が済まない」
「分かりました。大公にお伝えします。しばし、お待ち頂けますか? まずは船を海賊から奪還して……」
「その必要はない。おまえさんの船は俺の配下が占領した」
「配下?」
「おまえさんには教えといてやる。宵闇の海賊なんてここにはいやしない。便宜上、宵闇の海賊を名乗ったが、本当はハヤスタン帝国海軍だ。今回は俺の私怨でお礼参りに来た」
腕組みしたヴァハグンは、帝国の船に向かって大声を上げた。
「おまえら、もういい。引き上げろ!」
「了解!」
海賊の身なりをしていた男達が、縄を伝って速やかに船に戻って来る。すると彼らの後を追い、銃弾を構えたイディア兵らが数名こちらに向けて撃ってきた。
「止めないか! こちらにはアイギスさまがいらっしゃるのだぞ」
「構わぬ。あいつら事、打ち落とせ! 足手まといは入らぬ」
危ないではないかと味方に抗議した将軍に向けて、向こうの船で誰かが指示していた。それを見て将軍が訝る。
「マロフ公爵?」
いつの間に船に? と、疑問が湧く。彼はレコウティア殿下と共にいたはずなのにと。
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