第51話・英雄ヴァハグンのお礼返し
海上では宵闇の海賊対、イディア公国軍が戦っていた。イディア公国側の軍船に縄を投げ込んで、向こうの船に行き来する足場を作ったサイガ達は、相手の船へと乗り込んだ。
そして次々、帝国兵と切り結ぶ。イディア公国の将軍は焦った。
「何をしている? そいつらはいい、相手にするな。まずはアイギス公子を奪還するんだ」
そうは言っても海賊は次々と乗り込んでくる。彼らの目を縫って、向こうの船に捕らわれている公子を奪還するのは難しいように思われた。
「行けっ、行け、行け──っ」
将軍が指示を出しても皆は目の前に現れた海賊を相手にするのが精一杯で、とても相手の船に乗り込むのは無理そうだった。
将軍は配下をあてにするのは止めて単身で乗り込んだ。
「アイギスさまっ。どちらですか?」
海賊のほとんどの者達が、公国の船に乗り込んだようで、こちらの海賊船に人はまばらだった。すぐにマストに括り付けられているアイギスを発見する。
「アイギスさま。お迎えに参りました」
「……将軍」
アイギスの縛られている縄を外していると、背後から声をかけられた。
「ほお、単身で乗り込んでくる奴が公国軍の中にいたとはね」
「貴殿は……英雄ヴァハグン。なぜここに?」
将軍の問いには答えずに、ヴァハグンは片眉を上げた。
「へぇ。俺のことを知っているのか?」
「覚えておりますとも。あなた様には恩がありますから。アイギスさまが刺客に襲われた折り、私もその場にいたのに関わらず、危機に陥っておりました。そこへ颯爽と現れ、お助け下さったのがあなたさまでした」
「そんなこともあったな」
気乗りしなそうなヴァハグンに、異変を感じながらも将軍は言った。
「ヴァハグンさま。どうしてあなたのような御方がここに? あなた様も、アイギスさま同様に宵闇の海賊に囚われの身となっていたのですか?」
「俺が囚われの身? 可笑しなことを言うじゃないか? 将軍さんよ」
「ヴァハグンさま?」
「俺は誰にも捕らわれたことなどない。何にも縛られない生き方をしているからな」
「それならばなぜここに?」
「お礼返しだ」
「お礼返し? それは何に対しての?」
将軍が何のことですか?と、聞いてきたので、ヴァハグンは睨み付けた。
「おまえはさっき俺に恩があると言ったな。その俺もおまえらを見習って、お礼返しをすることにした」
「どういうことですか?」
「おまえらは3年前、俺の愛娘ヴィナールとこいつとの婚約を解消してなかったことにした。そのせいで、ヴィナールは深く傷ついた」
「……! 申し訳ありません。あの時はこちらのアイギスさまが、最愛の女性が出来たと言って連れ帰って来た上に、しかもその女性がハヤスタン帝国皇帝の妹ぎみで、帝国皇帝から許しは頂いていると報告されたことで、当時の大公閣下は止むなしと判断されたものと思われます」
「お許しねぇ」
ヴァハグンはアイギスをちらりと一瞥する。アイギスは青ざめた。
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