第46話・ここにはアイギスの味方はいない
アイギスは「フーフー」と、いう聞き慣れない言葉が返って来て聞き返した。
「冷まして食べさせるんだよ。モコは猫舌だからな」
「小羊なのに猫舌?」
「モコはおれらのように手が使えないんだから、食べさせてあげないと」
「……!」
アイギスはそこまで考えが及ばなかったことに反省した。実はモコはお皿に盛られたものであれば、自分で食べられるが、それを海軍兵達は知らなかった。
彼らはいつもモコがヴィナールの膝の上に乗せられて、口元までスプーンで食事を運ばれて、食している姿しか見たことがなかったからだ。
ヴィナールに可愛がられていることを良い事に、モコは甘えていた。
それを知らないアイギスはそうか! と、スプーンですくったシチューに息を吹きかけ、冷ましてモコに与えようとした。
「さあ、これでどうだ? 食べられるか?」
しかし、モコは以前、ヴィナールから元許婚に関して愚痴られている。その相手がこの男だと、ヴィナールやその周辺の者達の言動で分かっていた。
誰が好き好んでヴィナールを泣かせた男に面倒など見てもらうものか! と、思っていた。その為、アイギスの息のかかったスプーンなど受け付けなかった。
顔を背けて拒むと、周囲からどっと笑いが起きた。
「兄ちゃん、モコに振られたな」
「当然だろう? モコはヴィヴィのお気に入りだ。懐くはずがない」
「さすがモコだな」
海軍兵達はヴィナールが以前、元許婚から婚約解消されて酷く落ち込んでいたのを知っていた。相手の顔は知らない。噂で聞くくらいで、その噂の本人がこのアイギスだと知った時には驚いた。
仕返しをしてやろうかと、憤る彼らを諫めたのはサイガで、そんなことをヴィヴィは望んでいないと言われ、手を出すなよと言われていた。
でも面白くないのは確かで、地味な嫌がらせぐらいしてやりたいと思っていたら、ヴィナールの最愛のモコが彼を拒絶していることで少し、気が晴れたようだ。
でも彼らの発言を聞いて、アイギスは居たたまれない気持ちになったようだ。
意地でも食べさせようとしたが、モコは頑として受付けなかった。そうこうしているうちにヴィナールがクルズや、サイガと食堂に姿を見せた。
「あれぇ、モコ。まだ食事終わってなかったの?」
モコが食堂の椅子から飛び降りて、ヴィナールのもとへ弾んでいく。それを受け止めたヴィナールはアイギスのもとに近づいた。
「モコったら全然食べてないじゃない。悪い子ね。アイギス、手を焼いたんじゃない?」
「あ。いや……」
「おいで。モコ」
ヴィナールはアイギスの隣に座り、モコを膝の上に乗せた。クルズが湯気のたったシチューを運んでくると、それをヴィナールはスプーンですくい、冷ましてモコの口元に運んだ。
「はい、モコ。あ~ん」
モコはアイギスの時とは反応が違い、喜んで口を開けた。それを見てアイギスはまるで給餌だなと思ったが、口には出さなかった。
「アイギス。あなたのそれ、冷めているじゃない。新しいのと変えてもらったら?」
「いや、変えてもらうのも悪いからこれでいいよ」
「そう?」
アイギスは無心で冷めたシチューを間食する。この場には自分の味方は誰もいない。それをヒシヒシと肌で感じ取っていた。
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