第45話・フーフーって何ですか?
翌日。ヴィナールは配下の者達を連れて、軍船でイディア公国に向かっていた。もちろん、アイギス公子も一緒だ。アイギス公子は保護してもらっている立場なせいか、借りてきた猫のように大人しくしていた。
ヴィナールは、彼に何か心境の変化でもあったのだろうか?と、思っていたが、実は配下の海軍兵(元海賊)達が「こいつだろう? 我らがお嬢に婚約破棄を突きつけた軟派男は?」と、ねめつけるせいで、アイギスは生きた心地がしなかったのだ。
彼らは強面で目線だけで人を刺せると、アイギスが思い込むほど、目つきが鋭かった。彼らとしては、我らがお嬢を泣かせた男は許せんと、注目していただけなのだが、いかんせん目つきが悪すぎた。
凶悪犯顔が何人もいるし、体躯は良いし、彼らを怒らせたなら海底に沈められそうで怖い。下手に彼らの怒りを買わないようにと、公子は慎重になっていた。
「アイギス公子」
「はっ、はぃ……!」
ヴィナールに声をかけられて、アイギスは震え上がった。
「どうしたの? そんなに驚いて。そろそろ食事の時間になるからお先に食堂へどうぞ」
「あ。いや。私はまだ後でいいよ。きみはいかないのか?」
「わたしはまだ打ち合わせがあるから」
「じゃあ、それが終わるまで待っているよ。一緒に行こう」
「いつ終わるか分からないわよ」
ヴィナールの打ち合わせが終わるまで待っているとアイギスが言いだしたのは、男達の不躾な目線に耐えられなかったからだ。そうとは知らないヴィナールは、彼は周囲に馴染めないでいるので、一人では居心地が悪く感じられるのだろうと思った。
「じゃあ、モコを貸してあげるわ。モコもそろそろお腹が空く頃だからご飯をあげてくれる?」
「……分かった」
ヴィナールは自分の背後で、ひたすらぴょんぴょんと跳ねまくっている小羊を、抱き上げてアイギスに渡した。
「これは何の生き物なんだ?」
「小羊よ。可愛いでしょう?」
「小羊? それにしてはポンポン跳ねて別の生き物のように思えるが?」
「お父さまが小羊と言ったのだから、小羊だと思うわ」
「へぇ。珍しい小羊だな」
「そう。じゃあ、宜しく頼むわね。そのモコはわたし達と同じ物を食べているから。ちゃんと食べさせてあげてね」
「分かった。面倒見よう」
アイギスは、ヴィナールからモコを受け取り食堂へ向かった。ヴィナールに面倒を見るとは言ったものの、生き物の面倒なんてみたことのないアイギスはモコに食事をさせるのに手間取った。
食事はビーフシチューだったので、お皿に盛ったものをモコの前に出したが食べようとしない。ツンと横を向いてアイギスの方を見ない。
ヴィナールからは頼まれているだけに、どうしたら良いんだ? と、戸惑う。そこへ海軍兵の一人が来て言った。
「今日はモコ、ご主人さまと一緒じゃないのか? こっちの兄ちゃんにお世話任されたのか?」
モコは人の言葉が理解出来るらしく、縦に首を振る。
「兄ちゃん、モコにはフーフーして食べさせてあげないと」
「フーフー?」
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