第6話・末恐ろしい娘


「あの時のわたくしたちはどうかしていました。間違っていました。強奪の世界しか知らず、海上では自分達が一番強いのだと驕っていました。それがあなたさまにコテンパンにやられて悟りました。上には上がいると」

「いやあ。変わりすぎじゃないか。驚いた。見違えたなぁ」


 謝罪したクルズの背をヴァハグンは「立派になったなぁ」と、容赦のない力でバンバン叩く。本人悪気がないのは分かるが、力の加減を知らない。クルズは涙目になっていた。


「そうか。そうか。ヴィナール、これは一体、どうしたんだ?」


 ヴァハグンは、あんなにも血気盛んだったクルズが、大人しめの男に変わったことに関心を持ったようだ。


「彼らは楽をして、ただ飯にありつこうという魂胆が見え見えだったので、まずはわたしの可愛いペット達のお世話を頼んだのですわ。そしたら悲鳴を上げて、何でもするから許して欲しいなどと言って失礼だったわ」


 ヴィナールは、わたしの可愛いペット達のどこが悪いと言うの? と、その当時のことを思い出したようで、冷たい目をクルズに向けた。それを受けクルズは、背中に冷や汗が流れるのを自覚した。そのクルズの肩を抱き、ヴァハグンがこそっと耳打ちする。


「おまえ、一体何しでかしたんだ?」


 こいつを怒らせたら怖いんだぞと囁く。クルズは遠い目をしかけて言った。


「何もしていません。と、いうか出来ませんでしたね。お嬢さまのペットが凄すぎまして。大蛇に、巨大タコに、火を吹く変な顔した馬のお世話なんて無理でした。逆に餌に思われて食べられそうになりましたから」

「大蛇に巨大タコに、変な顔した火を吹く馬?」


 なんか既視感があるなと思うヴァハグンに、ヴィナールが言った。


「お父さまが下さったお土産ですわ。皆、伸び伸びと元気に育ってくれました」


 娘の言葉に、その他諸々察したヴァハグンは、クルズにお気の毒様と同情の目を向けた。彼はすっかり忘れていたが元々、それらは彼が腕試しをした相手で皆、ヴァハグンにやり込められて力を失った魔物達。

 力を失い害はなくなったと判断した上で娘に、「お土産」として下げ渡していたが、数年の時を経て力を取り戻していたようだ。


 それにしても、あいつらをペットにしてしまうとは末恐ろしい娘だと、ヴァハグンは自分のしでかした事は棚に上げて、娘をマジマジと注視した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る