第5話・親が親なら子も子


「あれは蛇が噛もうとしたからですわ。立場を思い知らせてやりましたの。そうそう、6歳の時に頂いたタコには!」

「あれもおまえが鍋で塩ゆでにしようとしたんだよな。そんなに食い意地が張っているとは思わなかったぞ」

「別に食べようとしたわけではありませんわ」

「どうだか」


 父はまともに話を聞いてくれない。そこにもヴィナールはイラッとする。


「あれは腕にくっついて離れなくなったからお父さまに助けを求めたのに、ゲラゲラ笑って見ているから仕方なくですわ。そしたら逃げられましたけど……」

「おまえを怒らせると怖いからなぁ」

「あと、ほら10歳の時に頂いた羽無しヒポグリフ!」

「俺が羽を毟ったことを知って怒っていたのに、なぜか庇っていたはずのヒポグリフから、顔めがけて火を吹かれて怒りまくっていたよな」


 あれは可笑しかったよなぁと、思い出し笑いをする父をしばき倒したくなる。誰のせいで危険な目にあいそうになったと思っているのだ。


「首しめて殺すような勢いだったもんな。あいつ、身の危険を感じて俺に助けを求めてきたんだっけ」

「仕方ないではないですか。あの恩知らずに己の立場を思い知らせたまでです」


 それまで大人しくヴィナールに背を撫でさせていた子羊は、彼女から距離を取ろうとしたところ抱き上げられて無理だった。話を聞いていた子羊は、似たもの親娘だと思い身を震わせる。明日は我が身かも知れないと。


「それと12歳になった時には──」

「おまえは勉強ばかりしていたから、遊び相手がいないだろうと心配して連れてきた奴らのことか?」

「あれも最悪だったわ。いくら腕が良くとも荒くれどもなんて。躾るのに時間はかかったけど、いくらかまともになったようには思うわ」


 ヴァハグンは勉強ばかりしていたと言うが、もともと彼がするべき事を、その娘であるヴィナールが伯父の命でさせられていただけだ。尻拭いしていると言ってもいい。

 そこへノック音がした。


「お入りなさい」

「失礼致します。お嬢さま。お茶をお入れしました」

「ありがとう。クルズ。そこに置いていって」


 部屋に入ってきた、焦げ茶色の髪に黒い瞳をした優男風の二十代の執事を見てヴァハグンが驚く。


「おまえ、あのクルズか?」

「あの頃は大変失礼致しました」


 綺麗な所作で彼がお辞儀すると、ヴァハグンが「へぇ」と、声をあげた。彼はたった今、話題に上がった荒くれどもの一人だ。

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