3、高校二年生のある日のことだという。

高校二年生のある日のことだという。


隆さんの隣のクラスだった遠山かば雄こと和雄が、

隆さんのクラスの教室の前を蝿のように、

うろちょろしていた。


隆さんは目ざとく見つけて、

後をつけていると、

かば雄が右ポケットから封筒を出し、

それをある女の子の机に差し入れた。


隆さんは、

かば雄が去り、

周りに誰もいなくなったのを確かめると女の子の机に手を入れ封筒を出し、

封のシールを注意深くはがした。


中を開ければラブレターだった。


「それでどうしてやったと思う?」

と隆さんは顔を上気させ、

春菜に問うたが、

春菜は想像がつかなかった。


「結構すかすかな内容だったから、

余白にちょっとエッチなこととかあいつの筆跡まねて書き足して、

それを学年共通の掲示板に貼りつけておいたんだ」

と隆さんは瞳を爛々と光り輝かせながら教えてくれる。


春菜はそのまぶしさに目がくらみそうである。


「それでどうなったと思う?」

隆さんが十歳は若返ったように、

いきいきと春菜に聞いた。


春菜が

「うーん、

何だか大変なことになりそうね……」

と答えるのを待たずに、

隆さんが勝利を宣言するかのように叫んだ。


「朝、誰かが掲示板の手紙を発見して、

友達を呼んでくるだろう?

だんだん人が集まってきて、

あいつも誰かから聞いて、

やってきて、

掲示板を見た時のその時の顔!」


そのとたん隆さんはまるで多数の大きな岩が崖から転がり落ちてきたかのように、

笑い出した。


笑いすぎて止まらず、

さっき飲んだハーブティーがむせて苦しそうになったので、

春菜は背中を叩いて介抱してやった。


「ごめん!

ついつい思い出し笑いしちゃって!

ありがとう」

と真顔に戻って御礼を言う隆さんの横顔は端正で、

つややかな少し長めの癖毛の下にできた影が、

セクシーだった。


「それでどうなったの?」


「あいつ、

次の日一日だけ学校に来て、

すぐ来なくなって、

半年ぐらいで退学したんだ」


隆さんの顔が、

ぐわっと曲がって、

ロールシャッハテストのインクの染みのようになった。


「お通夜用にアルマーニでスーツを買いたい。

春菜ちゃんはファッションのプロだから見立ててくれないかな?」

と頼まれたので、

レストランの後は向かいのデパートの四階にあるアルマーニに行く約束をした後、

隆さんはお手洗いに立った。              


隆さんを待ちながら、

春菜はスマートフォンを何気なくいじっていた。


急に画面に薄気味悪く笑う、

ピエロの絵が大写りになった。


「やだ。

最近変な広告多いのよね。

どうやったら消えるのかな?」


指をタップすると同様の不気味なピエロの絵が何枚も続けて出てきて、

どれもさっきの隆さんの顔によく似ていた。


最後に出てきた黒い画面には、

こう書かれていた。


「連続殺人鬼の絵。

1970年代にイリノイ州で30人近くの少年に性的暴行を加えた後、

殺害し、

自宅の床下に埋めた……」


(終わり)

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素敵な隆さん 宇美 @umi_syosetsu

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