第9話
作戦が終了して学院に戻ってくるとすぐ、ヤシロは大人達に拘束された。私のは抗議は虚しくつまはじき。取り合ってもらえなかった
「ジンクウ=ヤシロ、大祭における騒乱、反逆罪の容疑で拘束する」
「なによそれ、騒乱? 反逆? ふざけるのも大概にして頂戴!」
「議会からのおふれだ。君たちに拒否権はない。大人しく連行されろ」
「いったい、どういうことなのよ!」
その時、連れて行かれるアイツの顔が、すごくむかついた。
こんなのは全然納得がいかない。私を護ってくれたヤシロが、どうしてこんな目にあわないといけないのか。まったく理解できない。あと、むしゃくしゃするので、文句の一つも言ってやる! そうおもって、私はヤシロが収容された、探宮者専用の留置場に詰めかけた。
「ヤシロに会わせてちょうだい」
「ここは子供がくるばしょじゃあない。帰るんだ」
「私はジンクウ=リホ! ジンクウ本家の者よ。家族が会いに来たのに、それを門前払いなんて、何様よ!」
「ああ、煩いな! 一切の面会は許可されていない! 文句があるならここじゃなくて、議会に言ってくれ!」
しかし、なんど行ってもこのくり返しだった。
「騒がしいですよ、こんな大衆の面前で」
「姉様? どうしてここに」
私の姉はすごい人だ。戦いから退いた父様にかわって(というか姉様のほうがずっとつよいのだけど)、迷宮の深層に挑む前線組の四傑の一人に数えられている。ちなみに、「剣姫」という照合でよばれることが多い。
前線組は、公務で忙しくて、なかなか街には帰ってこれないのに、目の前にその姉様がいた。
「議会からの使者として、ジンクウ=ヤシロと面会しに来ました。そのわがままな子も連れて行くので、パスを発行してください」
「は、いえ……し、しかし、そのような予定は」
「私の命令が聞けないのですか、そうですか」
きょ、強権。
「し、失礼しました!」
「姉様」
「いきますよ。中では大人しくしていてね」
「わ、わかってるわ!」
「お気を付けて!」
留置場に入るのは当然初めてだったが、コンクリートが打ちっぱなしで、窓は普通にジャンプして届かない一にあって、それっぽいなと、思った。
迷いなく進んでいく姉様の後をついて行く。
ヤシロが入れられている独房の前には、さらに看守が一人番をしていた。
「拘束具は解かないようにお願いします」
「拘束具? そんなもの——」
「安全のためです」
「わかっています。いいね、リホ」
「……はい、姉様」
警棒やスタンガン、そしてあれは催涙ガスの手投げ弾だろうか。とりあえず取り付けられるだけの非殺傷武器を身につけた看守とともに、独房の中に入る。
アイツをなんだと思っているのだろうか。
「久しぶりねヤシロくん。元気かしら」
「元気そうにみえるかよ?」
「じゃあ単刀直入に言わせてもらうね。君はこれから諮問会による糾罪を受けることになる。慣例に則って、公社からの永久追放の可能性が一番高いけれど。君が望むなら、忌み人のサンプルとして、研究機関に封印される選択肢もある。どちらの場合も、天使の封印は逃れられないけれど」
「なんなんだよ、忌み人って」
それについては、私もあまり聴いたことがない。
「壊人、害人、怪人、魔人、伝説にはいろいろと呼び名が出てくるけど、どれも世界崩壊の契機となった探宮者の、学術分類名ね。存在自体が非常に珍しいけれど、伝説に残っている彼らは総じて、君のような天使を持っていて、それは強大な力を発揮したらしいわ。そして、忌み人が現れた都市には、壊神が異常増殖して、住人は化け物の波に呑まれた」
「じゃあ、僕のせいで鷹森が滅ぶと? たかがおとぎ話で僕を殺すのかよ」
「議会の長老たちは、信心深いのよ」
「また、長老か」
ヤシロは、死ぬほどうんざり、という顔をしていた。
「姉様、私もあいつと離して良いですか」
こくりと姉様が頷くのをみて、ヤシロに死線を戻す。
とりあえず、助けてくれたことのお礼をいわな——。
「……なんで隠してたのよ」
あれ?
「こうなることがわかってたからに決まってるだろ」
「知ってたら、あんなことにはならなかったのに!」
「笑わせるなよ。お前はたとえ知ってたとしても、僕に張り合ってやらかしたに決まってる」
「馬鹿にしないでよ!」
こんな話をしたかったわけじゃないのに。気がつくと姉様が私たちを断ち切るように間に立っていた。
「リホならそうでしょうね」
「姉様?」
「あなたはもう少し落ち着きを持った方が良いわ……まあこの話は帰ってからにするわ。とにかく、覚悟を決めておいてね、ヤシロくん」
「……」
「ヤシロ……」
「いくわよ、リホ」
独房から離れる間際、独房の中から、会話が聞こえた気がした
「リホのやつは、いったい何しに来たんだ?」
『さぁねぇ?』
シオリとリホがやってきた日の夜中。
その声は暗がりに突如響き渡った。
「やぁやぁ、ヤシロン! 元気にしてたかな?」
「どうやって入ってきたんだ」
「企業秘密です☆」
「龍神は会社なんてどうでもいい超個人主義だろ」
「まぁね〜。というわけで整備しにきたよ」
「なんでこんな所まで」
「あの戦闘の後、君ってばすぐに収監されちゃったからさ。RigSが起動した後のチェックしなきゃだし」
「そうだ、あれ何なんだよ! 聞いてないぞ!」
看守がどこに行ったかは知らないが、聴いてなさそうなので大きな声で抗議しておく。
「あれじゃなくてRigSね。リンジュちゃんを良い感じにゴッドにするシステムでRigSね」
クソださかよ。というのは胸の内にトドメた。
言ったらゼッタイ拗ねる。そういうヤツだ。
「いや、ゼッタイ違うだろ。ていうか名前なんかどうでも良いんだよ! なんでそんな余計な」
「前にも言ったけど、君に死なれたら私はすごーく困るんだよ。だからその保険さね」
「そうか。お前にとっちゃ。僕が檻の中に入れられた方が都合が良いのか。龍神なんかを信用した僕がバカだった」
本当に後悔は先に立たないな。
「その言葉は遺憾だよ。私としては、君には真っ当な人生を送って欲しいと願っているんだから。じゃなきゃこうしてここには居ない」
「なんだよ。そろって逃避行でもしてくれるのか?」
「君が、本当に望むなら、それも悪くないけどさ。ここで逃げたら、ヤシロンは一生表の世界に戻れないよ。公社の影響力は今やこの世界の片隅にまで広がっている。君の目的である、父親を後悔させる探宮者になるっていう目標はかなえられなくなるね。そんなこと、君は飲み込めないだろう?」
「……無理だな」
「ほらね。だから、これからどうするにしても、ヤシロンはこの世界と戦いは必至なんだよ。それで、ヤシロンに聞いておきたいんだ」
「なんだよ」
「世界を飲み込む覚悟はあるかい?」
「…………」
シロくんが答えを先送りした翌日。
早々に査問会議、という魔女裁判が行われた。
「この会議そのものに異議あり! 議題が不適切かつ、ヤシロにとって不当や!」
なんとも勇気のあることで、ヤシロの弁護人としてタガネとミナセが殴り込んできている。
「これは裁判ではない。傍聴人は静かにしていたまえ」
弁護人じゃなかった。残念だ。
それでもって、シロくん達の友情出演を無慈悲にカットしたのが、この議会の議長。
その名もジンクウ=リクロウさん。眉間のしわが今日は一段と深いわ。
「議会ってのは、どうして墓入り待ちの寄り合い所みたいなんだ?」
『シロくん。いくらお年寄りばっかりでも、そんなこと口に出したら失礼だよ』
「被告人は静粛にしろ。許可されたとき以外は発言するんじゃねぇ。わかったな」
イライラ棒みたいになってる。
「了解ですよ。当主様」
「相変わらずくそガキだ。まあいい。これより臨時査問会を開始する。被告人に黙秘は認められない。また、お前の言動、態度はお前にかけられた嫌疑を明らかにする重要な証拠となる。そこの所をよく考えるように」
「ちっ、わかってますよ。当主様」
「……書記、被告人にかかっている嫌疑を説明しろ」
「はい、申し上げます! 被告、ジンクウ=ヤシロ、旧姓名、カンノウ=ヤシロは自身が忌み人である事実を隠し、学院に潜入した疑いがあります。次に、九月二十二日十四時半すぎに発生した、バスターミナル襲撃事件にて、何らかの術により壊神を召喚。同壊神との戦闘により施設を破壊し、かつ、死傷者を最小限に抑える事で自らの功績を詐称した疑い。同日、緊急防衛作戦を要する壊神群の急襲を生起させた疑い。および、先日の大祭において、超級壊神を多数呼び寄せ、戦線を混乱させた疑いがかけられています!」
「なんだそれ、ふざけんなよ? 人間にそんなことできるわけないだろ!」
「黙れ。まずは専門家の意見を聞くこととする。カンノウ家長老、タイクウ様。よろしく頼む」
「あ?」
『何でここにあのお爺ちゃんが? カンノウ家は公社に加盟してなかったよね、シロくん!』
「まず、そこの者がかつてカンノウ家に生まれたことを認めよう。しかし、初視の儀にて忌み子であったと判明してすぐ、カンノウ家頭領、オオツナ様が七十七層まで直結した空の大穴に落とし、処刑したはず。どうやって生き延びたのかはわからないが、当家の責任ではないこと、ジンクウ家もよろしいな?」
「わかっている」
「うむ、では次に街中に壊神が現れた件だが、類似した事象が、三百年前に滅亡した都市、ニリミアルムの難民記録にもある。ニリミアルムでは忌み人に連れられて壊神の大群が街を襲ったようだ。今回は少々異なる顛末だったようだが、突如壊神によって街が襲われたのは共通する。真偽は不明だが、こやつはオオツナ様に見捨てられた事を大層恨んでいた様子。功を得るために、自作自演の死闘を画策するのも、あり得んことではないよな」
「そんなん戯れ言や! ヤシロは街を守る為に戦った! それは一緒に戦ったオレらが一番しっとる!」
我慢ならずに、おじさんたちが議場に乱入してしまった。
「そうです! ヤシロくんの無実は私たちが証明できます!」
「無礼な、ここは議場だぞ!」
「衛士は何をやっている! 今すぐ乱入者を取り押さえろ!」
「は!」
「まあまあ、子供をあまりどやしつけるものじゃない、なあリクロウ殿。それに、こやつが忌み人であることは紛れなく真実なのだ。いくらでも弁護させてやれば良かろう。結果は変わらない。忌み人が厄災をもたらすことは歴史が証明しておる」
「あはは、どの口が言うのかしら! あんたみたいに頭ごなしに全部否定する老害のほうが厄災じゃない?」
黙って聞いていれば、なんですかそのこじつけは。
言葉足らずな、こどもでももっとマシな論争をするわ。
というわけでドロン。
召喚機なしで現れた私にヤシロは驚愕し、議場は騒然となる。
まるでサメ映画で背びれを見つけたモブみたいな反応だ。
「ちょっと言わせてもらっていいかな、お爺ちゃん?」
笑顔で話しかけてあげたのに、老害サンはしわくちゃの顔をみっともなく引きつらせた。
「とって喰ったりしないわよ」
どうせ実体がないから、殴れもしないしね。
「ただ、一方的に結果を押しつけるような物言いに我慢ならなかったから、文句を言うだけだもの」
「ヤシロ! お前どういうつもりだ!」
リクロウさんが大慌て。
「僕の意志じゃない!」
「衛士! あの化け物を今すぐ封印しろ! 下手すると街ごと吹き飛ばされるぞ!」
「そんなことしないよ。私はただ……」
説明しようとしたら、呼ばれて飛んできた数人の探宮者たちにかこまれた。
「何をやっている?」
「ダメです。封印が効きません!」
「くわばらくわばら!」
この老害サン。案外余裕あるなぁ。
「ちょっと、私の話を聞きなさい!」
「いや〜、なんか知らないけど、ずいぶん賑やかさね」
てんやわんやしているところに、カザネちゃんがやってきた。下手をすると、私より彼女世の方が危険だと思うんだけど。だれも、そういう認識はないみたいね。
「カザネ?」
「やっほーヤシロン昨日ぶり! 調子はどうかな?」
「そんなことより、おい! これどうなってんだよ?」
「どうって何が?」
「なんでまたリンジュが勝手に出てきてる?」
「一度起動したデーモンはシステムをリセットしない限り終了できない仕組みになってるんだよね」
「とんだ欠陥品じゃないか?」
「失礼な! これがヤシロンにとって最適なんだよ! ちなみに、無理やりこの子の天使を封印したら、システムが暴走して爆発し、最悪都市が消滅するから、よろしく」
え、さすがにそれはちょっと。引いちゃうよカザネちゃん……。
「最悪の間違いだろ! なんて爆弾仕掛けてんだ?」
「龍神殿、いったい何のつもりだ?」
「は〜、そんなのいちいち訊かなくてもわかるでしょう、無能王?」
リクロウさんのこめかみに青筋が立った。
「……質問に答えろ」
「この子は私のものだよ。だから、もし君たちがこの子に危害を加えようとするなら、わかっているんだろうね?」
「いつ、僕はこいつのになったんだ?」
「シロくんの体、九割八分くらいまだ代金払えてないからね」
「そうだった……」
「脅迫するつもりか」
「それ以外にどう聞こえるって言うんだい?」
「……主張はわかった。だがこれは、我々の問題だ。そのところも、ご理解いただきたい」
「わかっているさ。ただ、ヤシロを追放するなら、私もこのこと一緒に都市を出る。そのことは、覚えておきな。あとそこの老いぼれ、お前にこの子を語る資格はない。歴史を騙る悪霊は失せろ」
「カザネ」
「ヤシロン。あとは、君しだいさね。どんな選択をしてもいい、でも、状況に流されるんじゃなくて、自分で決めなきゃダメだよ」
「どう言われたって、僕は変わらない」
「ヤシロ、ジンクウ家当主として命じる。我が家に残りたいなら、その天使を引っ込めて、大人しく査問を受けろ」
「……リンジュ、自分で出てきたって事は、自分で戻れるんだろ。ここは退いてくれ」
「でも、シロくん!」
「今だけは頼む」
「わかった。あなたたち、私は見ているわ。シロくんにひどいことしたら、ただじゃおかないから!」
「……さて、査問を再開しよう」
余日の語らい
議会の決定に従い、僕は監禁拘束された。
まるでミイラになったような気分だ。
「この拘束服、脇がちょっと蒸れるんだよな」
「脱がしてあげようか?」
「いや、だめだろ。査問会の決議は一応、守らないと」
見とがめられてさらに拘束が厳しくなったら、きっといろんなところがムズムズするに違いない。
「かるいな〜。ねぇ、シロくん。なんで、あんな結論を受け入れたの? 明らかにシロくんばっかり不利だったでしょ」
リンジュは口をへの字にまげている。
「カザネも言ってただろ、状況に流されるなって」
「え、めちゃくちゃ流されてるでしょ」
「あの状況で、僕の目的を果たすための最善手を選んだんだ」
「う〜ん、たぶん、カザネちゃんが言いたかったのってそういうことじゃないと思うんだよなぁ」
「ま、別に良いだろ。ところでリンジュ、そこの水、取ってくれよ」
「はいはい」
リンジュに水を飲ませてもらった。
「さんきゅ」
介護される僕をみて、リンジュがふと表情をゆるめてわらった。
「しかし、あれだねぇ。とりあえずこうやって面と向かってシロくんと話せるようになったのは、カザネちゃんに感謝かな」
「べつに、今までだって話してたじゃないか」
「でも、シロくんは私の言うことなんか真面目に取り合ってくれなかったじゃない。そう——」
「いやそれは……」
「ずっとそれが心配で溜まらなかったのよ! いくら忠告しても聞いてくれないし。むやみに敵の群れに突撃するし! いくらおばあちゃん仕込みの魂源刀があっても、万全じゃないんだから!」
「いや、自分のレベルはわかって……」
「それでも、戦いの中では何があるかわからないでしょ! カザネちゃん印の義体でも、ターミナルの時みたいに壊されれば死ぬんだよ! 実際死にかけたでしょ。そのことちゃんとわかってる?」
「でも、探宮者ってそういうものだろ。もちろん僕らが命をかけるのは、都市とその住人を化け物から守る為だ。本質的には。でも、今の探宮者はベットした命の対価分だけ地位を得て、それを守る為に命をかけている。僕が目指しているのは、その地位の一番上なんだから。より早くその階段を上るために、だれより多くレイズしていくのは当たり前じゃないか」
リンジュは、僕の言葉を蹴飛ばすみたいに笑って、そして言った。
「あはは、べつに私は、その道に反対しているわけじゃないの。ただたんに、死に急ぐのをやめて欲しかっただけ。シロくんが昇ろうとしていた階段だって、私のチカラを使えば、何段も飛ばしててっぺんまで行けたかも知れないんだよ」
「そのチカラとやらで、僕はいまこうなっているんだけど」
「それは、シロくんが私を拒み続けて、結局死にかけたからでしょ。こっそり上手く立ち回る方法なんかいくらでもあったじゃない」
「そうかね」
「そうよ」
「……なあ、リンジュ。僕はお前が何者かわからない。伝説に出てくる忌み人と同じチカラだって言われても、正直ピンとこないし。とうぜん、ほかと違うのは見なくてもわかるけどさ。いったいなんなんだ?」
「そんなの、私にわかるわけないでしょ」
「だよな。お前はそう答えるよな」
突如、がんがんと牢の扉が激しくノックされた。
見回りの看守が、叩いたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。
分厚い鉄板の扉が、ちょうつがいをきしませながら開く。
シオリとリホが監禁部屋にやってきた。リホはリンジュをみて堅い表情をしている。
いったい、何をしに来たのだろう。
「随分と暢気におしゃべりしていたけれど、自分がおかれた状況わかってる?」
「わかってるさ。僕は学院から籍を外されて、一生この中に監禁されるかも知れない。カザネがいるから殺される事は無いにしても、今後の様子次第じゃ、本格的にモルモットにされる感じかな」
「そこまで冷静に理解しているのに、抵抗しないの?」
「いやいや、シオリさん。いまこの状況で、どう抵抗しろと? ただ暴れて逃げ出す? 公社に目を付けられたら、迷宮のある主要都市では一切活動できないのに? 僕はそんな未来いやだね」
「じゃあ、普通に野に下って街民みたいに暮らすのはどうかしら? 街からでられず、二十四時間監視がつくけれど、こんなところでじっとしてるより有意義な人生になるんじゃない?」
「探宮者であることをやめるつもりはこれっぽちもないから」
「そう、ほんとうに残念だわ」
シオリは残念だわ、君には期待していたのに言って、本題を告げる。
そして、ミミズが這ったような字で書かれた破門状を、僕の目の前に突きつけた。
そんなに近づけなくても見えてるよ。
一応4倍までズームができるから。
「ヤシロ。君をジンクウ家から勘当、一問からも破門します」
「そうか、そうなるのか、ってなんでリホが泣くんだよ」
「だって、私のせいで」
「はは! 相変わらず、頭良いのに間抜けだなぁ、リホは」
「な、なによ!」
「これは僕の選択の結果。探宮者の鉄則は、自業自得、だろ?」
間話——牢外問答
私は、シオリ達を追って、牢の外に出た。
ちなみに、私みたいなあるのかないのかぱっとしない半分幽霊みたいな存在には、この監獄の壁なんか意味がない。通り抜けたいなら、一端消えてから、現れたい場所に顕現する。たったそれだけだ。
さすがに、宿主であるシロくんから離れすぎている場所に現れることはできないけれど、今はこれで十分だ。
「ねぇ。大婆さまは何か言っているの?」
姉妹の前に立ち塞がって、私はシオリに尋ねた。
「何も。それより、これはどういうことですか。リンジュ」
「姉様?」
どういうこと……。難しい質問だ。今回は一つのアクシデントから転がり始めて、勢い余ってこの状況まで転がり落ちた。そこに私の意志はない。
どういうことだと訊かれても、正直困ってしまう。
強いて言うなら……私の意志が、シロくんを護るという点だけははっきりしているか。
でも、きっと彼女は私の答えに満足しないだろう。
「私は、シロくんの道を支えるだけだもの。どの道を通って行くのか、そこまでわかるわけじゃないわ」
「嘘つきですね。見損ないました」
「ごめんね」
「え……姉様? どういうこと! まって!」
シオリはもう私に目を合わせることなく、立ち去っていった。
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