第8話

 大祭とは、定期的に増えすぎて迷宮からあふれそうになる壊神を刈る週一の定期行事だ。

 大蓋前の大空洞で数千人VS数千体という大戦闘をおこなうのだが。なんせ週一ペースで大規模団体戦闘を行うので、経験が蓄積されまくってかなりシステム化されている。

 たとえば、20から39階層までの敵は中堅が討伐し、10から20層のは卒業済みの初級組が。さいごにそのフィルターをすり抜けてきた雑魚を学生組が討伐する、というような。レベリングがおこなわれて、各探宮者が己の力量にあった相手と、たたかうことになるわけで。さらに戦闘に参加できない、低学年や、逆に現役を引退した探宮者のバックアップで危なくなったら回収してもらえたりもするので、死亡率もすこぶる低くなっているわけで。

 これはもう、ちょっとスリリングなゲームと言っても過言ではない。

 さらに、

 『大祭』

 と呼ばれる理由は、今説明したのとあわせて。

 斃した壊神の大半は、僕らの生活に役立つ資源に化けるからだ。

 資源は公社が一括で買い取って、適切な市場に流通させているので、儲けが発生する。

 つまり、ほとんどの探宮者にとって、この戦いは稼ぎ時のフィーバー。祭りな分けだ。

 大祭の説明は一端ここまでにしておこう。

 今回の勝負は簡単な点数制となった。

 深い順に点数が上がるので、最高は十点だ。

 壊神は現在、低階層から中階層のヤツは種類がわかっていて、ライブラリー化さっれている。だから、基本的に僕ら学生が相手にするのは、(建前上)最深部で訓練階層の第十層までで、戦場といえどあまり危険ではない。

なので、十層の壊神がうじゃうじゃといる後方の最前線に突撃して、最高点を積むのが勝利への道だ。

 あの、女郎蜘蛛に(最後は死にかけたけど)渡り合った僕らなら、最短距離で突っ走りたいところ、なのだが。

「右行ったぞ、ミナセ!」

 我らのミナセさんが不調なので、様子見をしている。

「——わかってる!」

「急げ、ヤシロ! トロイと囲まれるでぇ!」

「承知だよおっさん!」

『シロくん、ミナセちゃんがワンテンポ遅れてきてるよ。このままじゃ』

 わかってる!

「ミナセ! 無理か?」

「まだ、大丈夫、だと思う!」

「だよな! せいぜい5階層の雑魚! この間やったゴキブリ退治のほうが、まだ手強かっただろ! かさかさ這い回って、ぶんぶん跳び回ってさ!」

「ちょっと思い出させないでください!」

「アレに比べたら、雑魚だよなぁ、ほんとに」

「やめてって言ってるじゃないですか!」

 ミナセの病状は改善しているかもしれない。おかげで僕は鞭で追い立てられながら前線へ向かうことになったけど。

「ちょ、やめ。僕を攻撃してどうすんだよ?」

「嫌な記憶を掘り起こすからですよ!」

『最初はお互いツンケンしてたのに、すっかり仲良しさんだねぇ』

 和んでる場合か!

『二人のサポートがあれば、よほどのことがない限り大丈夫でしょ』

「おっしゃ、前進するでぇ。おくれんな!」

 出遅れたために、安定した狩り場はすべて抑えられて、しまっていた。

「えらいひどい状況やな! どうするヤシロ?」

「結局誰かが穴を塞がないといけないんだ。いけるかミナセ?」

 一応、この班のボトルネックになる病気の具合を確認する。

「大丈夫です!」

『よかった、ミナセちゃん、すっかり回復してるんじゃない?』

 まだ油断はできない。今戦ってるの、ダンゴムシみたいな者だから。

『や、そのたとえはどうかと思うけど。壊神をダンゴムシって。あんなに可愛くないし、どいつもこいつも』

「A43リーダーより管制塔。これよりB区前線に前進する! 空いている戦場を教えてくれ」

「管制塔よりA43リーダー。あなたたちのランクでは危険な戦域しか残ってないわ。後方で大人しくしておいた方が賢明よ」

「気にするな、望むところだ」

「……了解、命を大事にしなさい。今、戦域座標を転送した。あなたたちに軍神の導きがあらんことを」

「支援感謝。交信終了。おっさん! マップ地点まで前進する。一発大きいの頼んだぞ。タイミングは任せる。僕とミナセは開通した道を40秒維持する。その間に前進だ!」

「わかりました!」

「よっしゃ、了解や! 三つで行くでぇ、……サン、フタ、GO!」

 予想より早くカウントを迫られたリホも、激戦区に移動してくる。しかし、リホ以外の実力不足によりチームは瓦解。

「ラウグとカナリアは四時から来る三体を包囲して足止め。サンク、私に加護を!その後は二人を援護して 九時は私が受けるわ!」

「了解ですリホ様!」

「てえぇ!」

「さすがですリホ様! 一人で五体も片付けるなんて」

「称賛はあとでいいわカナリア。サンク、ヤシロはどこで油を売っているかしら?」

「はい、少し待ってください——すごい」

「なに、なにがすごいの?」

「十ポイント以上、離されています」

「そんな馬鹿な、遅れてきたはずなのにいったいどこで」

「彼らはいま。B区の激戦地、ポイントΣにいるようです」

「そんなところに、どうせ焦って身の丈以上の場所に突撃したんでしょ! じきに力尽きて、戦線離脱するわね」

「いえ、リホ様。信じがたいのですが、どうやら彼ら、かれこれ30分、単独でポイントΣを封鎖しています」

「そんな、あり得ないわ! 最上級生が一人居ると行っても。うだつの上がらなさそうなおじさんだったでしょ! あとは、真面目さしか取り柄のないあのシシドウ=ミナセだけのたった三人よ! いくらヤシロが異常でも、物量的に無理だわ?」

「このままだと、追いつけないほどのポイント差がつきますが、どうしますか?」

「……三人とも、まだまだ余裕はあるわよね?」

「「「はい!」」」

「よろしい。A12リーダーより管制塔。これよりB区のポイントΤに前進します!」

「管制塔よりA12リーダー。君たちのランクでは危険だ。やめたまえ」

「いいえいけますわ! 全員、私に続きなさい!」

「A12リーダー、待つんだ。前進は許可できない。おい、聞こえているだろう」

「交信終了!」

 戦場が見栄でヒートアップしていく一方、そのころ管制室では。

 聞く耳を持たないリホに担当の管制官が大悪態をついていた。

「くそ! じゃじゃ馬め!」

「どうしたの? なにか問題?」

「千剣の妹さ! 何考えてんだか、B区のポイントΤに前進するって聞かない! これじゃ自殺だ!」

「ポイントΣのすぐ隣ね。ちょっと待って、A43班のリーダーの名前はたしか。ジンクウ=ヤシロ。血縁者じゃないけど、身内ね。同学年よ」

「なんだ、そっちも自殺志願か?」

「いいえ、A43は構成人数が少ないけれど、元傭兵のベテランが一人いるし。それに先月のターミナル強襲事件。メンバー全員があれの生き残りだわ。一時的なつなぎでもいけると判断して、ポイントΣに投入したけど、もう四十分も持ちこたえてる。たった三人でよ」

「もしかして、A43への対抗心か? 戦場でくだらないこと考えてるなよ、クソガキめ! A43に援護要請はできるか? 頭が腐っててもあジンクウの姫様だ。簡単に死なせるわけにはいかない」

「わかった。要請してみる」

「頼んだ」

 管制塔からの依頼で、リホ達が突撃してくることを知った僕は、ミナセの状態を矢継ぎ早に尋ねた。まだ大丈夫そうだ

「管制塔からA43リーダー。応答してください」

「こちらA43リーダー。クソ忙しいけど、どうぞ!」

「ごめんなさい、現在ポイントΤに、A12班が急行しているの。ジンクウ=リホの班よ。彼女たちの実力では、自殺行為だからA12班の援護をおねがいするわ」

「こっちの戦況理解して言ってるのか?」

「ええ、もちろん。こちらからだと、比較的余裕があるように見えるのだけど、間違っているかしら」

 チーム的にはな!

「ミナセ! 少し負荷を上げても大丈夫か?」

「これくらいなら平気って、実感が出てきたところ!」

「わかった。管制官、戦域をポイントΤ方面に500メートルシフトする! 穴のフォローは頼んだからな!」

「了解よ。チームを派遣するわ。お姫様をよろしくね」

「交信終了! おっさん、3時の方向に500メートル移動する! 走るぞ! 三つで行く!」

「なんやぁ? ええけど!」

『シロくん、なんか嫌な予感がするわ。気をつけて』

「リホ! なんで来た!」

「あんたがここに居るからよ! 私たちの実力を見せてあげるわ!」

「下がれよ! お前達じゃ、役不足だ!」

「黙ってみてなさい! 行くわよ、みんな!」

「バカ! おっさん。リホ達に会わせてラインを上げる! 頼んだ!」

「若さって、やれやれやなぁ。ええけど!」

「ミナセ、おくれるな!」

「言われなくても!」

『シロくん。あんまり前に出すぎると、危ない』

 わかってる! でもあいつらを放ってはおけないだろ!

『違うの。これは……流れ弾? ずっと前のほうから、大きな光線が飛んでくる!』

「A12リーダーこちら管制塔! ビッグマウスの余波に注意して!」

「おっさん! ヤバいのがくる、後退だ! ミナセを頼んだ!」

「おい、何するつもりや!」

「あいつらを引きずってくる」

「くそぉ?」

「だめ、ヤシロくん!」

「おら! 逃げるぞバカ!」

「ちょっ、何するのよ!」

「アラート聴いてなかったのか? おまえら、死ぬ気でこいつを連れて下がれ! 早く!」

「いや、離して、ヤシロ!」

 リンジュの花がレーザーを吸収、拡散放射して一体の壊神を殲滅する。

「何してるの、今すぐ離脱しなさいA12!」

——誓約の違反を確認。自立行動を制限して、デーモンを危機回避モードで起動します。ユーザーは投薬によるショックに備えてください。

 花が咲いた。

「だめだよシロくん。命は大事にしなきゃ」

「うぉあ、なんやこれ? どうなっとんねん!」

「なんで、どうやって出てきた?」

「シロくん、カザネちゃんと誓約を結んだでしょ。あれに違反するとね。その体に埋め込まれた召喚機が自動で起動するように、仕組まれているんだよ」

「そんな、あいつはそんなことひと言も」

「ヤシロくん、これは」

「初めまして、ミナセちゃん。私はリンジュ。ジンクウ=ヤシロの、守護天使です。よろしくね」

「やめろ!」

「は、え? ヤシロ、くん?」

「止まれ、止まれ、止まれ止まれ止まれ、止れぇぇ!」

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