第13話
ふと気付いたように、アウレリオが机の上を見た。
「お茶が冷めてしまったようですね。新しいのを入れなおして来ましょうか?」
「結構よ。それより話をさっさと進めてちょうだい」
「わかりました。現在のアシュヘルクが陥っている危機的状況のことは、もうご存知ですね」
「ええ」
「イグナートが放った暗殺部隊はすでにあちらを出発し、ルーヴェの中へもぐりこんでいるという報告が入っています。決行は、これから三日後の薔薇祭りの間に行われるはずです。王族の方々が無防備になるのは、唯一その時期だけだからですからね」
薔薇の祝福は国王を筆頭に王家の人間すべての頭上に降り注ぐといわれている。その祝福を、今度は国民に手渡すために、国王一家が城を出て町をパレードするのが慣わしだ。それ以外にも、国王が日に三回、城のテラスに出て国民の前に姿を現す。国民は城の表庭までの出入りが許されるため、多くの人間が大挙して城へと訪れ国王の姿を一目見ようと大騒ぎになる。ルーヴェの町には観光客もどっと増える。確かにこの中に暗殺部隊が紛れ込むのはたやすいだろうし、国王一家に近づくのも、段違いに簡単になる。
「現在最も暗殺が危ぶまれているのは、次期王位継承者の第一王子です。特に第一王子は、この薔薇祭りで薔薇妃をお選びになる。お世継ぎが生まれれば、その方が新たな継承権を持つことになるでしょう。イグナートは、断固としてそれを阻止したがるでしょう」
「国王には、息子が二人いるんじゃないの? 弟王子はどうなのよ?」
「それが、病弱な方で、かろうじて国政は執り行えても戦場へ出ることは不可能でしょう。しかも、イグナートが第二王子のみを見逃すとは限りません」
「ねぇ、でも、普通に考えて。仮にも一国の王、その王の息子たちよ。厳重な警護だって着いているでしょう。一人狙うのだって至難の業だわ。それを、王妃を含めて一家四人も暗殺するなんて、不可能よ。一人殺しただけで、警護の厳重さは増すし、パレードや拝謁式だってぶっ飛ぶわ」
「そうですね。先に殺された王族は不運ではありますが、他の王族の命は守られる。しかし、それは順番に暗殺が行われたら、という場合であったならの話でしょう」
ノアは、眉根を寄せた。ひどく不吉な言葉を聴いた。額に手をやる。
「ちょっと待って、まさか一気に襲う気なの?」
「その方が手っ取り早いし、手間がかかりません」
あっさりと言ったアウレリオに、ノアは怒鳴る。
「馬鹿いわないでよ! 国王一家が一揃いでいるところを襲うほうが、ずっと難しいしひどい手間隙だわ!」
護衛官たちだって馬鹿ではないだろう。一家が揃っていればいるほど、警護の度合いは増すはずだ。ましてや、薔薇祭りで行われるパレードでも拝謁式でも、一家が全員揃うということは、まずありえない。イグナートに関してだけではなく、国王家族というのは、常に暗殺の対象となるため、一般的に家族が揃って国民前に無防備に姿をさらすことはないのだ。そんなことがありえるとすれば――――――。
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