第55話 小鳥と小百合の想い その2
前回同様、賑やかなオープニングが来るかと思っていたが、静かに画面が現れた。どこかの部屋の中から、窓にカメラは向けられているようだった。
窓には、青い小鳥のぬいぐるみが置かれている。それは遊園地に行った時、小百合にプレゼントしたものだった。
曇り気味の窓から見える外は少し、雪が降っているようだった。
「悠人、あらためて……久しぶり。小百合です。前のビデオとはかなり赴きが違っているので、ちょっと面食らってるかな?この前のが前編なら、今回のは後編ってことになります。
前編で私は悠人に、小鳥の気持ちを伝えました。
あの子が今までずっとあたためてきた、悠人への想い。悠人と共に人生を歩いていきたいという願い。それを一人の親として、大切な私の幼馴染、悠人に考えて欲しい、そう思い話しました。
今回は私の素直な気持ち、そして私の願いを話したいと思ってます。
このDVDは、あなたたちが一緒に生活をして、その中で、悠人が小鳥のことを一人の女性として好きになってくれた時か、もしくは私との約束、三ヶ月が過ぎた時、どちらかのタイミングで見せるよう小鳥に言いました。
結局どうだったんだろう?小鳥は怒るかも知れないけど、私の予想では期限になったからじゃないかな、そう思ってます。
だって悠人ってば、優柔不断なの治ってそうにないし。小鳥がどれだけアピールした所で、手を出しそうにないもんね、ふふっ……
それに悠人、本当に真面目だから。小鳥のことを本当に大切に思ってくれていたから、そう簡単に恋愛の対象として見ることなんてないと思うし。まぁ、あの子も頑張ってアピールしただろうし、何と言っても、私の遺伝子を受け継いでるんだから可愛いし。悠人のストライクゾーンなのは間違いないから、悠人もちょっとは心、動いてると思うけど……あ、悠人、今ちょっと図星って思ったでしょ、私には分かってるよ、ふふっ……
悠人。小鳥は本当に悠人のことが好きだよ。あの子はこれまでずっと、悠人への想い一筋に生きてきたんだ。
あの子にとって、悠人は全てなんだ。なんでそんなに悠人のことを好きなのか、私にも本当のところは分からない。でもあの子にとって、あなたと過ごした三年が本当に幸せだったんだ、そう思います。悠人、あんた一体小鳥に何言ったの?って思うぐらい、ずっとあの子は悠人のことを想ってた。
父親のことは、あんまり覚えていないって言ってたけど、でもあの子の中であの人との思い出は、息苦しくて居心地の悪い時間、ただそれだけだったと思う。いつもあの人に対して、怯えていたように思う。でも悠人と初めて会った時、あの子は本能的にあなたを、自分を守ってくれる人だと感じた。だから悠人に触れた……そう思う。
そしてあの子のその想い、願いの通り、悠人は小鳥を守り続けてくれた。離れ離れになってからも、あの子のことを見守ってくれた。あの子のすぐそばにいるように接してくれた。思いはずっと、小鳥に伝わっていたよ。
小鳥にとって悠人は、お父さんでありお兄ちゃんのような存在だったんだと思ってます。悠人のことを考えている時、話している時にあの子が見せるものは、家族に見せる安心感そのものだったから。だから正直のところ、不安な気持ちもあるの。
あの子は悠人に対して『家族』としての愛情を持っている。それを『男性』としての愛情と混同してないかなって。悠人への想いは恋愛ではなく、家族としての愛情なんじゃないかって。だからそれを確かめるためにも、悠人と一緒に生活をして、あの子に答えを出して欲しい、そう思ってました。
もし悠人への想いが家族愛なら悠人、あの子を娘として愛してあげて欲しい。でも、悠人との生活の中でもし、あの子が苦しみを覚えたなら……今まで感じたことのない、嫌な感情を見つけたなら、それは悠人のことを一人の男として愛し始めた、そう思ってあげて欲しい。そしてどうするか、悩んであげてください。ごめんね悠人、好き勝手言っちゃって。
悠人……私は悠人と、ずっと一緒に生きてきた。そのことを本当に、神様に感謝してます。私は悠人のこと、ずっとずっと好きだった。姉弟のように育ってきて、一緒にいることが当たり前だった。あの頃は多分、そう……弟として愛していた。
それがいつからだろう……悠人のことを、一人の男の人として意識しだしたのは……ずっと考えてます。
小学生の時、泣きながら一緒に帰って……悠人が頭を撫でてくれた。あのあたたかさに私は悠人、あなたのことを意識しだしたのかもしれない。
中学で、私が肉離れを起こした時、おぶって家まで送ってくれて……あの時の悠人の背中、大きくてあたたかかった……
高校の修学旅行で……二人で見た星空。あの頃の私はもう、思い切り悠人のこと、意識してました。真っ白な雪の中、私は星空よりも悠人、あなたの横顔にドキドキしっぱなしでした。青春してたよね……
そして……悠人の受験で、ずっと一緒に……」
「……」
「あの時が私にとって、最高に幸せな時間でした。いつも隣に悠人がいた。悠人と一緒に過ごした最後の時間。もし最後になるって分かってたなら、もっともっと話したかった。触れ合いたかった。
私がずっと夢見ていた、悠人と二人きりでのデート。遊園地、楽しかったな……
悠人は明日受験で、不安でいっぱいなのに、私はこの幸せな気持ちを抑えられない……神様どうか、今日だけでいい、私のわがままを許してください、そう願ってたんだ……
悠人に一つ、謝らなければいけないことがあります。あの日実は、私……悠人が寝ている時に……キス……しました……
私のファーストキス、悠人にもらってもらいました。悠人も初めてだったかも……ごめんなさい。このままずっと、自分の胸の中にしまっておくつもりだったんだけど、でもやっぱり言わないと……ね……私にとって、人生で一番ドキドキした瞬間でした……」
悠人の手が、自然と唇に向かう。眠っていたので勿論覚えていないが、俺は小百合とキスをしていた……そう思うと、悠人の胸が高鳴った。
画面の中、窓の外の雪が激しくなっていた。
「和樹のことを話した時の私の気持ち、もう分かってくれてるよね……私はあの人からの告白を理由に、悠人から『好きだ』『俺のそばにいてくれ』そう言って欲しかった。
だけど悠人は、そう言ってくれなかった。きっと、私の醜い心を神様が見抜いて、私が望んでいる言葉を悠人に言わせなかったんだと思う。和樹に対しても、それだけは悪かったと思ってます。
でもあの時、辛かったな、ははっ……
幼馴染……アニメだと、最高に可愛い存在だけど、でも幼馴染が恋愛感情を抱いた時は最悪だね。家族のように大切で、誰よりも分かり合ってる。でも、恋愛の対象にはならない。存在が余りにも近すぎるから……
だからあの時、私は悠人を幼馴染にした神様のこと、恨んでしまいました。馬鹿だよね、最高の幼馴染をくれた神様を恨むだなんて……で、もろもろあったけど私の初恋は終わっちゃいました。そして結婚生活も、あっと言う間に終わってしまって……
でもね、悠人。私、あの人と出会ったこと、あの人を選んだこと、後悔してません。だって、あの人と出会ったから、私は小鳥を授かった。
私にとって、小鳥は人生の全てなの。あの子のためなら、私は何でも出来る。私の大切な大切な宝物だから……私の初恋は終わっちゃったけど、でも、だからこそ小鳥と出会えた。不思議だよね、人生って。だから私は、自分の選択した人生を後悔してない。悠人は私の最高の幼馴染、最高の家族、最高の親友で……」
小百合の嗚咽が聞こえる。
悠人は、変わることなく映っている窓の景色から目を離せない。
「ふうっ……失礼失礼。いい年したおばさんが、昔話で泣いてしまいました。
悠人が私にプロポーズしてくれた。嬉しかったなぁ……本当はあの時、何もかも放り投げて悠人の胸に飛び込みたかった……でも私は、悠人の優しさに甘えようとする自分が許せなかった。
自分の選択を間違っていたことにするのか、それは小鳥を否定することになるんだぞって……だから悠人の胸に飛び込んで、『あなたを愛してます』そう言いたかった気持ちを押し殺しました。
……でも、もういいかな……私、頑張ったと思ってる。自分で言うのも変だけど、頑張ったよ、今まで。だから……素直な自分の気持ち、悠人に伝えたい……
悠人、大好きだよ……
誰よりも優しくて、誰よりも正直で誰よりも強くて……誰よりも私のことを分かってくれて、誰よりも私を愛してくれた悠人……
私はあなたのことを、心から愛しています……今すぐあなたの胸に飛び込んでいきたい、抱きしめて欲しい……でも……でも……ははっ、無理なんだよね、これが……」
悠人が変な緊張感に包まれた。
なんだ、この嫌な予感は……小百合は今から、何を言おうとしてるんだ……聞きたくない、言わないでくれ……そんな思いが悠人を支配した。
「大好きな大好きな私の悠人……あなたに告白しなくちゃいけないことがあります。今から私が言うこと、聞いてください……
――私はもう、この世にはいません」
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