第10話 SEASONS-10

 帰る前に溝口先生から聞いた話では、肺炎だということだった。小さい頃から体が弱く、小学校卒業の年、腎臓炎のため遂に入院することになった。療養の結果、快復したので復学したが、体力が落ちてしまっていた。再発防止の生活も体力を回復させるには至らず、すぐに体調を崩すようになった。もともと真面目な質だったので受検勉強に励んでいたが、急に寒くなっていくこの頃に体調を崩し、そして、風邪をこじらせて亡くなってしまった…。


       *


 ふらふらと愛子に支えられたまま家に送り届けられ、そのまま自室に入ったままコートも脱がずにベッドに腰掛けた。目覚まし時計の時を刻む音すらはっきりと聞き取れる静寂の中で、千春はじっと耳を澄ましていた。聞こえない声を聞こうとしていた。聞こえるはずのない声を聞こうとしていた。かすかに耳に残る声を思い出そうとしていた。そして、目を開くと、いつのまにか朝が訪れていた。



 眠っていたんだと思いゆっくりと起き上がったが、重苦しい気分が抜けきれず、そのまま服を脱ぎ捨て布団にもぐり込み、改めて眠りに入った。母親の催促にも応じず、ただひたすら休むと言い張った。



 気がつくと、随分時間が経っていた。はっとして時計を見ると、もう2時を回っていた。


 昨日の昼から何も食べていなかったが全く空腹感はなかった。毎日毎日あんなにお腹が空いていたのに、と自分の身体に驚きながら、このまま何も食べれなくてもいいような気持ちになっていた。そのまま布団にもぐり込むと、またいつのまにか眠ってしまった。

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