追放勇者の1週間日記

文月ヒロ

追放勇者の1週間日記

「悪いけど、君はもう『クビ』だ」


 勇者です。

 今パーティーメンバー全員の目の前で、仲間の召喚術師君をクビにしました。

 所謂いわゆる、追放という奴です。

 物語であれば、この後召喚術師君の能力が覚醒しますよね。まぁ今まで、それっぽい片鱗とか欠片程も見たことないんですけどね。

 でも、僕は応援してますよ。


「えッ、ぅ、嘘だ!どうして…僕は頑張ってたじゃないですか!?」


 召喚術師君、完全に狼狽えちゃってます。

 今のは結構テンプレな返しだとか他の人は思ったかもですけど、僕は『可愛い反応しますね』って思いながらクスッと笑っちゃいました。

 追放なんてするの初めてですが、こんな状況でそんな事考えているなんて…。

 僕って意外にSっ気あるんだなぁ、と新しい自分を発見した所です。今までは少し悪戯が好きなだけだという認識でしたが改めなきゃです。


「一体、僕の何が駄目だったんですかッ…」

「うん、頑張ってたのは認めるよ?この2年間、毎晩遅くまで召喚の練習してたし、弱いなりに僕達の戦闘の支援はしてくれてたしね」

「じ、じゃあ」

「でも、次は魔王軍四天王の一体と戦うんだ。その後も今までの雑魚達とは比べ物にならない程強い敵に挑むの。だから、戦いはより一層厳しくなっちゃう。そうなるともう、君は役に立たないんだ」

「た、戦えます!」

「でも、君が出せる召喚獣、鳥3羽だけでしょ?」

「……ッ」


 言った瞬間、召喚術師君は涙目になりながら俯いちゃいました。

 どうしよう、僕、そんな彼を見たらイジメたくなっちゃいました。もちろん自制しますよ?イジメ駄目絶対。

 というか、僕は勇者ですからね、もっての外です。


「君は希少な召喚術師だ。鍛えれば最強だというのは知っている。でも僕達と一緒に冒険したいなら、もっと修行してからだよ」


 こうして、僕はパーティーから召喚術師君を追放しました。

 そして、それから僕は日記を書く事にしました。

 荷物を纏める召喚術師君の様子を見ていたら、彼が日記帳を持っていたのが目に入っちゃって…僕も書こうかなって。


【◯月×日・1日目】

 勇者です。

 今日、仲間を1人追放しました。

 召喚術師の男の子です。

 良い子なんだけど、おっちょこちょいで、召喚術はほとんど使い物にならないのがかなり欠点です。

 そんなだから、本当は駄目なんですけど、からかいたくなってしまう事が多かったんですけどね。

 でも、もういなくなっちゃいました。寂しくなりますね、彼は今頃どうしているでしょうか?


【◯月△日・2日目】

 勇者です。

 あれから1日が経ちました。僕達勇者パーティーは、四天王のカースドラゴンの住む『竜の谷』へ向っていて、予定では明日四天王を倒す予定です。

 相手は竜ですからね、倒したらドラゴンスレイヤーになれます。男の子なら憧れですよね。

 そうそう、出発の時、召喚術師君を見かけました。

 どうやら、早速新しい仲間が出来たようでした。

 仲間になっていたのが全員可愛い女の子だったので、よく覚えています。

 羨ましい限りです、僕の仲間見てください。

 聖騎士なんてイカついおっさんと、堅物の若い眼鏡掛けた男の神官さん。

 魔術師はお爺ちゃんだし、あと僕と同い年の男の狂戦士さんはちょっと思考回路がイッちゃってます。

 彼がパーティーへ加入した初めの頃、目が合うとよく『殺すッ…!』って僕仲間なのに殺されかけてましたからね。ので、戦闘時以外は目隠しさせています。

 それと神官さん、実は貴方がムッツリなの僕知ってますよ?

 堅物神官設定の貴方がそれで良いんですか。


【◯月☆日・3日目】

 勇者です。

 四天王のカースドラゴン倒しました。

 これで僕も、晴れてドラゴンスレイヤーです。

 生憎と狂戦士さんはドラゴンを見た瞬間、『ヒャッハー』とか言いながら1人で勝手にドラゴンへ突っ込んで行きました。

 そして、一瞬で逝きました。

 ドラゴンスレイヤーになれなかったどころか、ドラゴンにスレイされちゃって魂が神殿送りです。

 はぁ、帰ったら生き返らせなければいけません。…蘇生費高いのに、まったく。

 最近死ななくなったから忘れていましたけど、彼は敵を見ると直ぐ突っ込んで行く人でしたね。

 普通の冒険者より遥かに強いのは認めます。でも、ああもあっさり死なれては…。

 彼も追放しましょうか?

 というより、召喚術師君の方がまだ使えましたし、頭もイッてないです。

 やはり、追放なんてしたら、得てしてやった側は後悔するものなんでしょうかね?


【◯月△×日・4日目】

 勇者です。

 町へ帰り、神殿に行って狂戦士さんを生き返らせました。

 彼に説教しました、でも、反省はしていませんでした。

 これは本当に追放を…。

 まぁ大丈夫です。昨日はドラゴンでしたが、これからしばらくはもう少し弱い敵と戦うので、流石にもう戦闘始めたら即退場はないですから。

 まぁ、今までの雑魚より強い敵と戦うというのは変わりませんけど。

 そういえば、召喚術師君が昨日覚醒したらしいです。

 なんでも、あの3羽の鳥が神鳥になったとか。喜ばしい事です、でも、やっぱり追い出したのは間違いだったのでしょうか。

 そんな事を思っていたのですが、召喚術師君に神殿の外でばったり会って『追放されて、自分の弱さを痛感したからこその成長です。ありがとうございます』って彼に言われました。

 嬉しい事言ってくれます。

 僕も頑張りますね。


【◯月×☆日・5日目】

 勇者です。

 今日は休暇を取りました。

 酒場に寄って、朝から酒を飲むって最高ですね。

 堅物神官さんも誘ったのですが、神官は欲に溺れるようなマネは禁止、という理由で断られました。

 ムッツリなのは良いのに…。神官という職業に謎を感じるばかりです。

 酒場で飲んでいると、召喚術師君がパーティーの女の子達と店内へ入ってきました。

 早速酒癖の悪い男性冒険者に絡まれて、それでも仲間の女の子達を守ろうと必死でした。

 神鳥で脅せば良かったんですが、彼はそこまで頭が回ってませんでした。

 ゾクゾクしちゃいましたね、彼のあの追い詰められていく様子。もう少し見ていたいと思っちゃった程に。

 まぁ、結局、僕は召喚術師君に声を掛け、冒険者を睨んで追い払いましたが。

 覚醒した彼に助けは多分いらなかったと思いますし、こちらも見てて少し楽しかったのですが、彼と話がしたくなりまして…つい。

 すると、召喚術師君が目を煌めかせて『カッコいいです!』と僕に向かって言いました。

 つくづく思いますけど、君は本当に誉め上手ですね。お兄さん、久しぶりに少し調子に乗っちゃいましたよ。

 そして、何故か『僕ももっと強くならないと…』なんて呟いてましたね。

 神鳥3羽召喚出来るのに、それ以上強くなってどうするんですか?


【◯月◇日・6日目】

 勇者です。

 二日酔いは無く、気分はスッキリです。

 やはり休息は大事ですね。

 おっと、今日は四天王がこの町に迫って来ているようです。ギルドの受付のお姉さんに呼ばれてしまいました。

 日記は今日はここまでにしましょう。


【◯月◇△日・7日目】

 勇者です。

 昨日攻めてきたのは四天王の内の2体、キングキメラとオーガキング。

 どちらも大量の軍勢と共に来ちゃいましたので、ちょっと焦りました。

 でも、狂戦士さんは大喜び。

 敵の大群を見るや否や、そこへ飛び込んで行きました。

 そしてやっぱり、直ぐに逝きました。

 決めました、彼は追放です。

 急募、良識ある冒険者さん!やっぱり仲間はまともな方が良いですものね。

 なんて、冗談半分で言ったら、何と召喚術師君が立候補してきました。

 曰く、『僕は勇者様を尊敬していますので!』らしい。

 僕は曇りない瞳をしながらそんな事言える君を尊敬してますよ。人間、中々そこまで素直になれませんからね。

 という事で、召喚術師君を再び仲間にしました。

 そしたら、知らない内に彼の仲間の女の子達までパーティーへ入る事に。なんでも、召喚術師君と同じ僕のファンだとか…。

 どうやら召喚術師君はこの1週間で、ハーレムじゃなく同好会を作ったらしい。それも僕のです、ビックリです。

 ともあれ、そんな新パーティーで四天王の軍勢を蹴散らしました。

 早かったですね、召喚術師君が召喚した神鳥は凄く強かったし、仲間の女の子達も良く動いてくれたし。

 はい、とても戦い易かったです。

 そうだ、翌日――あ、つまり今日なんですけど。

 狂戦士さんは本当にクビにしました。

 僕は貴方の覚醒を願ってますよ。

 もちろん、良識の覚醒を。

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